第9話 迫り来る恐怖

 ルーク達は歩みを進めたが予定の半分ほどしか進む事ができなかった。マルクスの先導が優秀だったのと何処からか化け物が来るかもしれないという緊張のせいだった。


 早く国境に着きたいと先を急ぐ気持ちもあったが野営の準備が出来ないまま夜を迎える方が危険であるため、ルーク達は渋々野営の準備を始めるのであった。


 野営の準備が終わり、交代で休憩をとることに決めたクラスメイト達は最初の見張り役であるルークとハラルトを残して休憩を始めた。


「先生も含めて他のみんな大丈夫かな?」


 ルーク達は心の内にあった不安をハラルトに打ち明けた。ハラルトは一瞬暗い顔をしたが直ぐ笑顔作った。


「きっと大丈夫だよ。先生だって弱くない、俺たちが居なければきっとあの化け物に勝てるし勝てなかったとしても逃げるくらいできるよ。ペトラ達他の生徒もきっと大丈夫だ!」


 ハラルトは大丈夫だと言っていたがそれは自分の不安を塗りつぶすために言った言葉の様だった。その証拠にいつもの笑顔と違ってその笑顔は無理やり造られたものに感じた。


「そうだよな。きっと大丈夫だよな」


 ルークがハラルトの言葉に頷く。それから暫く無言のまま辺りを警戒した。


 警戒しているとパキッと枝が折れる音が聞こえた。ルークとハラルトは同時に警戒を強めそちらを向くと一人の男が歩いてきた。


「ハラルトと平民か。無事生きていたみたいだな」


 上から目線でそう言ってきたのはミカルであった。


「ミカル!無事だったのか!」


 ハラルトがミカルの無事を喜び駆け寄るがミカル自身は当たり前だと言わんばかりに鼻を鳴らす。


「ふん。当たり前だこの俺を誰だと思っている。それよりもお前たちがここに居るってことは国境を目指しているのか」


「ああ、国境を目指している。俺を含めて12名が今この野営地にいる。ミカルも一緒に来るよな?」


「一緒に行かせてもらおう。ただ、俺の足を引っ張るなよ」


 ミカルはそう言うとルークを睨みつけた。ルークは言い返しこの場の雰囲気を悪くするべきではないと考えて黙る。


「まぁ、そう言うなよ」


「ハラルト、お前は少し呑気すぎる。あの化け物に見つかったらほぼ死だと思え」


「え?」


「俺は少し見たんだマルクス先生とあの化け物の戦いを。正直万全の状態だったとしても俺達に勝てるレベルじゃない。あの先生ですらまともにダメージを与えれていなかった。しかもあの化け物とんでもない力がありやがる」


 マルクスですらダメージを与えられないと言う事実を聞いて二人は驚愕した。


「先生は大丈夫なのかよ?」


「わからない。ただ、マルクス先生もあの化け物の攻撃が当たる気配はなかった。きっとある程度時間を稼いでから逃げるだろう」


 ミカルの話を聞いてより一層緊張感が強まりルーク達は黙り込んでしまった。

 決して楽観視してた訳ではないが心の何処かでマルクスが化け物を倒してルーク達を迎えに来てくれるのではないかと考えていた。

 しかし、迎えに来てくれたとして化け物の恐怖が残るし、最悪マルクスが化け物にやられている可能性さえある。


「俺は明日に向けて休ませてもらう」


「わかった。1時間後に見張の交代を頼む、詳しいことはその時の見張り番に聞いてくれ」


 ミカルはそのまま休憩へと向かった。

 ルークとハラルトは引き続き辺りの警戒を行った。さっきまでより一層警戒を強めた。







 それから特に何事もなく1時間が経過した。交代の見張りがやってきてルーク達は休憩となった。


 明日に備えて眠ろうと思ったルークだったが上手く寝付く事ができなかった。寝ている間にあの化け物来たらと考えると眠る事ができない。それでも明日に備えようと目を閉じる。


 目を閉じるとあの化け物の姿が瞼に浮かび上がってくる。それを必死に振り払い時間が過ぎて行く。実際ルークが眠れたのは数時間後だった。







 翌朝、ほぼ全員が寝不足の中、国境に向けて歩みを進めた。今までの遠征訓練が比べ物にならないほど1日で疲労した。


 今いるメンバーで平然と進めているのはハラルトとミカルのみだった。他のメンバーは寝不足と疲労で足取りが重い。その中でもルークはマシな方である。


「全員、気合い入れろ!今日中には国境に着くぞ」


 ミカルは苛立った口調で全員に言葉を放った。

 しかし、ペースは上がる事なく次第に落ちていく。


「一旦休憩にしよう」


 ハラルトはある程度進んだあたりで休憩を宣言した。ミカル以外はそれを了承して休憩を始める。


「ハラルト、ふざけるな。今のペースだと今日中には国境につかない。しかも休憩だと? そんな余裕はない」


「余裕が無いのはみんなの体力だよ。このままだと脱落者がでる。ミカルはそれでも良いの?」


「良いとは思っていない。だが、こうしている間にもいつ化け物が襲って来るか分からん。ならさっさと国境へ行き保護されるべきだろ」


「それはミカルが凄いから言える言葉だよ。ほとんどのクラスメイトは体力的に限界なんだ。俺は明日に国境に到着するで良いと思っている」


 ミカルはハラルトの言葉に納得できていないのか険しい顔をしたが言い返す事もできずにその場を後にし休憩を始めた。


「ハラルト、大丈夫?」


 ルークはハラルトが心配になり声をかける。


「大丈夫だよ。今からランニングしろって言われても平気なくらいな!」


「体力面でなくて、メンタル的に」


 今集まっているクラスメイト達のリーダーはハラルトが担当をしていた。行軍のペースに進行ルート、休憩のタイミングなど全てハラルトが一人で担当をしていた。それがどれほどの負担になるのかルークはわからなかったが決して軽くない事はわかっていた。


「正直キツイよ。プレッシャー凄いし。でも誰かがやらないといけないから。だから、大丈夫」


 ハラルトはニカっと笑い平気そうな雰囲気を醸し出していた。


 今のルークではハラルトの力になれないと実感して悔しくて仕方がなかった。







 休憩が終わり国境への歩みを再び始めた。休憩を取ったおかげで足取りは軽くなりペースが上がる。しかし今日中に国境へ辿り着く事は無かった。


 野営の準備を始め、終わると見張りを残して各々が休憩を取り始める。


 その夜も特に何も起こる事なく朝を迎えた。

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