第8話 遠征訓練
ミカルとの模擬戦から数週間が経過した。あれからミカルとの大きな衝突は無かったがミカルのルークへの態度は変わる事はなかった。
この数週間日課となっていたハラルトとの勉強会はクラスメイトを数名巻き込み小規模のものとなっていた。勉強会のおかげでルークの学力だけでなくクラス全体の学力の底上げになっていた。
ルークが騎士学校に慣れ始めた所で大きなイベントが始まりを告げた。
「来週、遠征訓練を1週間行う。場所は王国と教国との狭間にあるダルネルの森で行う。各自準備と体調を整えておく様に」
担任のマルクスの言葉を聞いて周りの生徒達に緊張が走る。遠征訓練はかなり厳しいらしく一年生のルーク達にはかなりの関門である。毎年この遠征訓練が原因で自分から学校を辞める者もいるらしい。
さらに場所が問題である。同盟国である教国との国境近くであるダルネルの森は手付かずの自然が多く残り危険な野生生物も多くいる。
「君たちにとって最初の関門だが、問題なく乗り越えられると私は思っている。今回の遠征訓練だけでなく卒業までの3年間誰一人かける事なく頑張ってくれ!」
マルクスの激昂で皆が気合を入れたのだった。
馬を利用して幾らかの日数をかけてダルネルの森近くの村へ昼過ぎに到着した。馬を村へ預けるとそこからは徒歩に切り替えてダルネルの森へ向かう。
1時間もすれば森の入り口に到着した。今日はここで野営し、明日から本格的に森での遠征訓練が始まる。
野営の準備を終えて、夕食を済ませ皆早めに就寝した。
翌朝、日も登り切らない薄暗い中森の前に集合となった。皆が緊張のためか険しい顔をしている。そんな中マルクスによる点呼が始まった。
点呼が終わると荷物の再確認をしてから森へ入ることとなった。ルーク達の一学年は5クラス存在する。その5クラスが準備でき次第教師を先頭に別々に森へ入って行く。
ルーク達も荷物の確認が終わりマルクスを先頭にして森へ入った。
ルークは森の奥へ進むにつれて圧倒されていった。田舎に住んでいた時から近くの森へ入った事は何度もあったがこのダルネルの森は比較にならないほど凄かった。
少なくとも樹齢100年はあろう木々が無造作に生えて行く手を阻み、太陽の光は木々に遮られて薄暗い。どこからか獣の声も聞こえる。圧倒的な大自然に飲まれるルークだった。
ルーク達が暫く進むとマルクスはハンドサインで止まれと合図してきた。その合図で一斉に生徒達は止まる。
マルクスは全員が止まったのを確認して小声で話しかけてくる。
「皆、息を潜めてアレを見てみろ」
マルクスに言われた通り息を潜め指差す方を見るとそこには2メートルを超える体に1メートルほどの角を二つ持った鹿の群れがいた。
「アレはダルネルの森にのみに住む、ダルネルヘラジカだ。凶暴性は少ないが大きな音を立てると突進してくる事もある。突進は強力で下手をすると死ぬ事もあるほどだ。ここは静かに通るぞ」
マルクスは小声で話すと足を音を立てずに先へ進んでいく。ルーク達生徒陣も極力音を立てずに先へ進んでいく。
ある程度歩いた所で開けた場所へたどり着いた。
「今日はここを野営地とする。各自準備を始めてくれ」
ルーク達は野営の準備をしてそれが終わると交代で休憩となった。
1日2日と時間が過ぎ3日目となった。ルーク達は疲労の色が見えるが問題なく遠征訓練は進んでいった。
いつもの様に朝点呼をとり全員がいる事を確認するとまた森の奥へ足を進めた。
全員が集中してマルクスの後を着いて行くが突如なんの合図もなくマルクスは立ち止まる。
急に立ち止まられたためざわめき立つ。
「静かに!」
小声で語気を強めマルクスは言い放つ。何かに集中しているのかマルクスは目を閉じている。
カッと目を開き後方を見た瞬間マルクスは叫んだ。
「全員!前方へ兎に角走れ!」
急なマルクスの指示に反応できなく皆が戸惑っている中後方から何かが近づいて来るのが聞こえた。
ルークは後ろを見ると何かが近づいて来るのが見えた。それは次第に大きくなりそれが姿を現した。
まるで色々な動物をぐちゃぐちゃに繋ぎ合わしたからの様な黒い3メートル程の何かがこっちに向かってきていた。
至る所からから動物の顔や足、尻尾などが生えており、様々な動物を泥団子のように丸め固めた様な姿だった。その化け物の正面らしき部位がパックリと二つに割れて口が現れた。
そのおぞましさに幾人かの生徒は叫び声を上げて、前方に駆け出す。
「先生!あれは?」
「知らん!兎に角逃げろ!」
ルークはマルクスに質問するが期待した答えは帰ってこなかった。
今のルークでは足手まといになると考え他の生徒と同様に前方に駆け出した。
ある程度逃げた段階でルークは足を止めて息を整える。周り見渡すとハラルトを含めたクラスメイトの半分くらいしか居なかった。その中にペトラとミカルの姿が見られなかった。
息が整い周囲の確認をするとうずくまっている者、近くの人と言い合いをしている者などまとまりがなく色めき立っていた。
「みんな注目。これからどうするか話し合おう。そしてみんなで生き残ろう!」
ルークがどうするべきか悩んでいると居合わせていたハラルトが皆に声をかけた。騒いでいたクラスメイトは黙り、うずくまっていたクラスメイトは顔を上げたが皆の顔は暗かった。
「そうは言ってもどうするよ? 戻るにしても数日掛かるしあの化け物は後ろから来たんだぞ?戻っているうちに遭遇したらどうする?」
「そうだな。だから俺は前に進もうと思う」
「ハラルトどういう事だ?」
「前に行けば1日ほどで教国との国境がある。そこまで行けば国境警備隊がいる可能性が高い。そうすれば救援を頼む事ができると思う」
「あの化け物が一匹とは限らないし進んだ先に居たらどうするんだよ」
「だったらこのままここにいるか?それこそ自殺行為だ!」
ハラルトの熱弁に皆が黙り込む。
「進もう。このまま居ても事態は好転しない」
ルークはハラルトの意見に賛同すると他の生徒達も賛同した。
意見がまとまり目標を国境としてルーク達は持っていた地図を頼りに足を進めた。
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