第7話 模擬戦
「おい、ルーク。逃げたと思われるかも知れないけど模擬戦相手を変えた方がいいよ」
ハラルトは心配そうな顔をしながらルークを説得する。しかし、ルークは首を横に振りそれを拒否する。
「ミカルには腹が立つけど、それでもあいつが言いたい事は何となくわかるんだ。だから、認めてもらうには今全力でぶつかるしか無いと思うんだ」
「でもよ。ミカルはうちのクラスでトップクラスの実力者だぞ。模擬戦とは言え当たりどころが悪ければ最悪死ぬ事もあるんだ」
「わかってる。でも、俺はやるよ」
まだ何かを言いたそうだったハラルトだったがこれ以上ルークに言っても無駄と感じたのかため息をつくだけだった。
動くのに問題がない程度ルークが回復したタイミングでマルクスが手を叩き注目を集めた。
「休憩は終わりだ。各々武器を持って集合、ペアを組んで模擬戦を始めるぞ」
マルクスの合図で生徒たちは武器を持ち、ペアを組み始める。ルークも木剣を学校の備品から取りミカルの前へと歩く。
ミカルの前に着くとお互い沈黙の中睨み合う。
ルークの体調は先程の訓練のせいで万全とは言い難い。対するミカルは先程の訓練を平然とこなし逆に準備万端な雰囲気を醸し出している。
転入前の約一ヶ月間バルベリの元で遺物の使い方とは別に剣術も習っていた。それが全て通じて勝てるとは思っていないが認めさせるくらいはできるはずだ。
たった一ヶ月だが王国最強とされる槍使いバルベリに師事されたと言う自信を胸に剣を構えた。
「準備できた所から順次始めてくれ。ただ無茶はするなよ」
マルクスがそう言うとあちらこちらで打ち合いが始まった。だが、ルークとミカルの模擬戦は始まらなかった。
「雑魚。最初に言っておくが手加減するつもりはないからな。怪我をする前に逃げて田舎に帰ってもいいぞ」
「俺は逃げ帰ったりはしない。俺はやらなければならない事がある。その為にこの学園に入ったのだから」
「口ではいくらでも言えるさ。行くぞ!」
ミカルは剣を振り上げルークに詰め寄り振り上げた剣を振り下ろす。ミカルのスピードはかなりのものでルークはあの時戦った魔族のガルクと同じぐらいの速さだと思った。
振り下ろされる剣を何とか見切りルークの持つ剣で防いだ。しかし次の瞬間ルークのお腹に衝撃が走り後方へ飛ばされる。
何が起きたかわからないルークだったがミカルを見た瞬間理解できた。ミカルは右足を上げており剣を囮にして蹴りを腹に一発入れたのである。
「やはりその程度か。お前にこの学校にいる資格はない!」
「うるさい。俺はこの学校で強くなるんだ」
言い終わるか言い終わらないかのタイミングでルークは駆け出しミカルへ剣で突きを放つ。しかし、それを紙一重でミカルは避ける。
さらに続けて斬撃を一発二発三発と繰り出すがその全てミカルに避けられ、三発目の斬撃を避けると同時に足払いをされる。
バランスを崩し転けそうになるのを何とか耐えてミカルに振り向いた瞬間、ミカルの振り下ろされた剣が肩へ当たる。
「ぐっ……あっ」
痛みに耐えかねたルークは手に持つ木刀を落とし膝をついてしまう。
「これが実力差だ。お前みたいなやつは田舎で畑を耕しているのがお似合いだ」
「まだだ。まだやれる」
ルークは直ぐに落ちた木剣を拾い上段に構えてミカルの脳天へ振り下ろした。持てる力の全てを込めた攻撃はミカルに届く事はなかった。
ミカルに届く直前、彼は迫り来る木剣を自分の木剣で弾き飛ばしたのだった。先程のダメージが抜けにっておらず握力が低下していたルークは簡単に木剣を弾き飛ばされた。
「無駄だ。お前はやらないといけない事があると言ったがどうせくだらん事だろ? ささっと諦めることだな雑魚」
「くだらなくなんかない」
「平民が考える事だ。どうせ楽がしたいとか金が欲しいとかそんなとこだろ。浅ましいんだよ」
吹き飛ばされた。ルークは木剣を拾い上げる。
「違う」
木剣を握る手に力が入る。力を入れた正確に握った手が熱くなる。心臓の鼓動も激しさを増す。
「俺はただ理不尽に人が死ぬ事のない平和な世界を作りたいだけだ!」
ルークは叫びながらミカルに突撃し顔面に向かって木剣を振るう。あまりの速さにミカルは反応出来なかった。しかし、ミカルの顔面に持つ剣が突き刺さることはなかった。
「そこまでだ」
マルクスによりルークの攻撃は止められていた。
「ミカル君を殺す気かい? それに遺物の使用は禁止だよ」
無我夢中だったルークはいつの間にか遺物の力を発動させていた。バルベリとの訓練中では出来なかった遺物を亜空間にしまった状態での遺物を使用した肉体強化を行なってしまっていた。
肉体強化を解除してミカルを見ると驚愕の顔で固まっていた。しばらくすると表情は険しくなりルークを睨みその場から去っていく。
「ルーク君は反省文ね。あと、自分が開けた穴埋めといてね」
マルクスの発言で校庭を見るとミカルへの最後の一撃の最初の踏み込み部分が土を蹴り上げたのか凹み、最後の踏み込みも土が圧縮され陥没していた。
改めて遺物の強さと恐ろしさをルークは実感した。
凹んだ地面を埋め終わるとちょうど午後の授業が終了した。
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