第4話 ルークの覚悟

「ガルク、引くぞ」


 魔族とルークが睨み合いをしているといつの間にか別の魔族が部屋の入り口に立っていた。


「隊長!こいつは新しい遺物使いです。今のうちにとどめを刺しとかないと後々大変なことに」


「わかっているそんな事。しかし、正式な王国の調査隊が近づいておりその中には槍の遺物使いが混ざっておる。今は引くんだ」


 ガルクと呼ばれたルークと戦っていた魔族は苦虫を潰した様な顔をして足速に部屋から出て行く。その後に続いて隊長と呼ばれた魔族も引くのであった。


 魔族たちが出て行くのを確認して直ぐ様ルークはエミリーの元へ覚束ない足取りで向かう。


 エミリーの側によると彼女は辛うじて息をしている状態だった。


「エミリー、しっかりしてくれ。魔族はいなくなったから直ぐ医者の所に連れて行ってやるから」


 ルークは声をかけるが浅い呼吸をするばかりで反応がかえってこない。焦るルークだが自分は剣を握り元気になった事を思い出した。


 直ぐに自分の持つ剣をエミリーに握らせるがぼんやり光っていた剣の光が失われ、灰色になるだけだった。


「頼む、遺物なんだろ? 遺物には凄い力があるんだろ? 俺みたいにエミリーを助けてくれよ」


 滲む視界の中ルークは呟く。しかし、剣が反応する事はなかった。


「ルーク、泣かないで」


 かすれたエミリーの声がルークの耳に入る。

 エミリーを見ると自分の首に掛けていたペンダントを外していた。


「これ、大事にしてね」


 最後の力を振り絞っていたのかペンダントをルークの首にかけるとエミリーはそのまま力が抜け手は地面に落ちる。


「エミリー? エミリー!」


 ルークが声をかけるが反応がない。さっきまであった呼吸音も聞こえなくなっている。

 

 エミリーが死んだ。その事が受け入れられなくルークはただ泣き叫ぶしか無かった。


 ルークの叫び声に混ざり古代遺跡の方から爆発音がする。直ぐ様爆風がくる。吹き飛ばされない様にルークはエミリーに覆いかぶさった。


 爆風に耐え終わり、涙を拭い部屋の入り口を見ると天井や壁に亀裂が入っている。亀裂は次第に大きく広がる。


「早く出ないと」


 ルークはエミリーを抱きしめてゆっくりと古代遺跡の出口を目指す。しかし、古代遺跡の崩壊のほうが早く入り口は落石で塞がれた。


 ルークは力を振り絞り剣で落石を切り付けたが少しばかり落石がかけるだけだった。


「くそー!」


 行き場のない怒りにただ叫ぶしか無かった。

 魔族さえいなければ、もっと早く遺物が使えていたら、古代遺跡に行かなければ。そんな憤りを胸にただ叫んだ。


 叫んだからといって事態は好転する事は無くただただ悪化していった。壁や天井から軋む音が大きくなりどんどん落石が増えていく。


「ふざけるな!」


 何に対しての言葉なのかルークすら理解できていない。

 ただ、ルークも限界が近づいていたのかその言葉を叫ぶと力が抜けて地面に倒れ込み意識を失った。







 ルークが目覚めたのはそれから数日後の事だった。


 どうやら、ルークが魔族と戦ったその日に王都から調査隊が村に着き次の日にはルークを救出したようだった。


 ルークは全身に軽い打撲は有るものの大きな怪我はなかった。おそらく遺物のおかげだろう。


 目覚めて直ぐルークはエミリーの家へと向かった。エミリーの家に着くと少し痩せこけたダナが迎えてくれた。


 家へ入ると直ぐにあの日あった事を全て話、ダナへ謝った。謝る最中に泣くわけにはいかないと涙を我慢していたが耐えられず涙が溢れてくる。


 全て話終わるとダナはルークに近づいてくる。


 殴られると思ったが痛みはなかった。


 ダナは涙を流しながら同じく涙を流すルークを抱きしめていた。


「ルーク君のせいじゃないわ。悪いのは魔族よ」


 ルークはその言葉に自分の不甲斐なさと魔族への怒りを感じていた。魔族を倒し世界を本当の平和にする。ルークはそれを決意したのだった。


「ダナさんこれ」


 エミリーに渡されたペンダントをダナに渡そうとした。エミリーの死の間際に渡されたものだがダナに渡した方がいいかと思ったからだ。


 ダナはそれを受け取るとルークの首に掛けた。


「ルーク君が持っていて。きっとその方が娘も喜ぶから」


「わかりました」


 ルークはペンダントを握りしめて強く魔族打倒を誓ったのだった。



 エミリーの家を後にし、ルークの自宅へと戻ると見知らぬ50代ぐらいの白髭白髪の男性が家にいる。


 男性は椅子に座り、ルークの親が出したであろうお茶を飲み話しかけてきた。


「待っておったぞ少年よ」


「どちら様ですか?」


「王都から派遣された調査隊のバルベリじゃ。単刀直入に聞くが少年遺物に選ばれたな?」


「なんでそれを?」


 遺物を使用したのを見られたのは魔族のみでこの村の村人すら知らないはずの事を言い当てられて驚いた。


「簡単じゃよ。お主を見つけた時に遺物らしきものを握っておったからな」


 バルベリはそう言うと机の上に灰色の剣を置いた。


 その剣は確かに見覚えがあったルークが手に取ると、剣は灰色から黒色にそして赤い木の根の様な線が光浮かび上がった。


 それを見たバルベリはニヤリと笑う。


「新たな遺物使いが誕生じゃわ」


「バルベリさん、この力を使ったら魔族を倒し世界を平和にできるでしょうか?」


「今のお主には無理じゃろ。技術も経験も何もかも足りん。だが、その言葉を発すると言う事は戦う覚悟はあるという事じゃな?」


「はい。俺は戦いを終わらして世界を平和にしてみます」


「よかろうならまず王都の騎士学校に通うがよい。途中入学になるがまぁ良かろう」


 バルベリはそういう立ち上がり家の外へ出て行く。


「入学前にまずはそれの基本的な使い方を教えねばな」


 バルベリが外へ出てそう言うと彼の右手が光いつの間にか銀色の槍が手に収まっていた。


「銀色の槍……まさか王国唯一の遺物使い!」


「お主がおるからもう唯一ではないがの。お主がその気なら今から特訓してやるがどうする?」


「お願いします」


 こうしてルークの親に騎士学校入学への相談と入学の準備のために約一ヶ月間ルークはバルベリに遺物の使い方を習うのであった。

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