第3話 遺物

 それは獣型の魔族で獣鬼種と呼ばれ、人間と獣が合わさった様な姿をしている。狼の様な耳が頭に付き口は鋭い犬歯がのぞく、腕と足は大きく太く服から出ている部位からは毛が見えている。


 そんな魔族が2人、出口の前に立っていた。

 

 逃げる? どうやって? どこへ? 外に出られる? そんな思考がルークの頭をぐるぐる回り茫然と立ち尽くしてしまった。


「ルーク逃げるよ」


 エミリーがルークの手を引っ張り古代遺跡の奥へ走り出した。手を引かれてやっと意識が戻ったが絶望的な事は変わらない。


 獣鬼種の身体能力はかなり高く人間と比べると雲泥の差でありまず人間に勝ち目はない。戦いの訓練すらまともにしていないルークと獣鬼種が戦闘になった場合どうなるかは火を見るより明らかだ。


 古代遺跡の広さはそこまで大きくない。最奥の円状の広間に着くのにそう時間はかからなかった。

 身を隠せる場所はないかと辺りを見渡したが目ぼしい場所はない。これなら途中の部屋に隠れた方がまだ良かったかもしれない。


「遺跡って案外狭いんだな」


 ルーク達が身を隠せる場所を見付ける前に1人の魔族が最奥の部屋へとやってきた。

 エミリーを庇う様に魔族との間に立ち睨みつける。それを見て魔族は鼻で笑いゆっくり近付いていく。


「人間のガキが一丁前に俺の前に立つとはな。死にたいのか?」


 明確な殺意を始めて浴びたルークは恐怖を感じている。恐怖で足が震えていたがエミリーを護りたい一心で何とか立つ事ができていた。


「う、うわぁー!」


 恐怖に飲み込まれない様に自分に奮い立たせる様に腹の底から叫び声を上げてルークは魔族に突撃する。


 突撃したルークの拳が魔族に当たる前に右頬に強い衝撃が来て、次の瞬間左側へ吹き飛んでいた。

 何が起きたのか分からなかったがはっきりとした右頬の痛みと口の中で鉄の味が口に広がる。


「ルーク!」


 エミリーの叫び声で痛みで呆然としていた意識が戻ってくる。魔族の方を見ると不機嫌そうな顔をしてこちらに歩いてきているのがわかる。


「うざいヤツだないきなり叫びやがって。遺跡の調査と破壊が命令だがガキ殺しても別にいいよな」


 魔族の爪は人間のそれと比べ鋭利である。その爪をルークに突き立て殺そうと魔族は振りかぶった。


 ルークが死を覚悟した瞬間、エミリーが魔族とルークの間に立ちはだかった。ルークを狙った攻撃はルークではなくエミリーに当たった。


 エミリーに魔族の爪が突き刺さりその場に倒れる。ルークはエミリーを抱き抱えると手にはべっとりと生暖かい血がつく。


「エミリー? エミリー!」


 エミリーを譲り声を掛けるが反応が乏しい。聞こえるか聞こえないかくらいの声で「逃げて」と呟くのみだった。


 兎に角魔族から離れないと。そう考えたルークはエミリーを引きずりながら涙を我慢し歩く。


「逃げれるわけないだろ雑魚が」


 魔族はそう呟くとルークの腹に一発の蹴りが入れる。ルークは蹴られた衝撃でエミリーを手放し部屋の中央の台座に衝突し背中と腹に激痛が走る。


 辛うじて意識を保っているルークには立つ事すら困難であった。霞む視界にゆっくり近付く魔族が見える。


 エミリーを助けたい。ただその一心で台座を支えに立ち上がる。立ち上がった所で何か出来るとは思えないがそれでも立ち上がらずにはいられなかった。


 辛うじて台座を支えにして立ち上がり魔族を睨むと魔族は警戒の色を強めていた。なぜ、警戒しているのか分からなかったが直ぐに理由がわかった。


 支えにしていた台座が光っていた。


 光は次第に強くなり目を開けていられないほど光を放つ。目を開けると薄ぼんやりと光る剣が台座の上に浮かんでいた。


 その剣に鍔はなく片刃の剣で黒い刀身はまるで木の根の様に枝分かれした赤い線がグリップ部から描かれている。


 ルークは何かに吸い込まれる様にその剣を握ると心臓が一度強く脈打つ。その瞬間、視界がクリアになる。


 体が軽い。痛んでいた部位の痛みもいつの間にかなくなっている。ルークは不思議な高揚感も感じていた。


 剣を握りしめ魔族の方を振り向くと今まさに襲い掛かる瞬間だった。


 咄嗟に剣を振るうと魔族の爪と剣が衝突する。強い衝撃が手を伝うがルークは吹き飛ばされる事なく逆に魔族を吹き飛ばすのだった。


 ありえない現象に驚きつつももしかしたら勝てるかも知れない。そう思うと剣を握る手に力が入る。


 吹き飛ばされた魔族は再び地を蹴りルークに迫る。魔族が爪での攻撃を数度繰り出すがその全てをルークは剣で防ぐ事ができた。


「ふざけるな。これが遺物の力か!」


 悪態をつく魔族に力任せに剣を振るう。それを魔族は爪で防ぎ力の押し合いとなる。


 早くエミリーの手当てをしないといけない。これで終わらせなければ。その思いに呼応する様に力がみなぎり剣の赤い線は赤く光る。


「うぉー!」


 ルークの叫び声と共に光は強くなり刀身が赤いオーラを纏い爪ごと魔族を一刀両断する。


 勝った。そう思うと急に力が抜けて地面に膝をついてしまう。早くエミリーを連れて逃げないといけない。いつ新たな魔族が来るかわからない状況に焦りを感じつつエミリーの側行こうと剣を杖代わりにする。


「まだ終わってねぇーぞ」


 声がする方を向くと傷口を抑える魔族がルークを睨んでいる。


 確実に致命傷を与えたと思ったがどうやらぎりぎりで避けられたらしい。


 完全に避けられた訳ではないがまだ動ける魔族に比べルークは立つのがやっとだった。


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る