第14話写真と手紙

祖母への手紙には必ず2.3枚の写真を入れた。


合わないメガネを持って入院した祖母は、手紙を看護師さんに呼んでもらっているらしい。

看護師さんがいないと手紙が読みづらいなら、写真はなんとなく見やすいのではないかと思ったのだ。


私と旦那が入籍した時に、婚姻届を持って撮った写真。

料理する祖父の後ろ姿。

私の妹が大口開けて爆睡している写真。

飼い猫が祖母の布団で丸くなり寝ている写真。


家族の色んな姿を撮った写真を入れた。


何日目かの手紙に、私が自分の顔に黒マーカーで落書きしたとびきりの変顔写真を入れたのだが、よく考えてみれば手紙を読み上げてくれる看護師さんも見ていただろう。


鼻の穴を黒マーカーで大きく塗りたくり、まぶたの上にもう1つ目を書いて、おでこに25歳と自分の年齢を書いた写真を看護師さんが見た時、どう思ったのだろうか。

かなり笑えたと思う・・・(笑)


それでもいいのだ。

祖母が少しでも笑ってくれるのなら、私の変顔なんて安いものだ。


そして、祖母の山場と言われた3日目最終日。

主治医の先生から電話が来た。

「ゆきこさん、かなり危ない容態でしたが今では落ち着いてだいぶ良くなりました。このままいけば、2週間程度で退院出来ますよ。」


家族みんな胸を撫で下ろした。

そしてその後先生が言った。


「他の先生にも協力してもらって、ゆきこさんの様子を見てもらったんです。そしたら、ゆきこさんお孫さんから送ってもらった写真を飾っていて、病院でお孫さん有名になってますよ。」


私は直ぐにわかった。

私と妹が温泉に行った時に休み処でとったすっぴんの写真だ。

するとそれを見た先生達が次々に言うそうだ。


「お孫さんお2人とも美人さんですね!お姉さんは綺麗系、妹さんは可愛い系だわ〜!よかったら僕のお嫁さんになってもらえないかな〜?(笑)あ!僕結婚してたんだった〜!」

そんな先生の言葉に祖母は嬉しそうに笑い、上の子は結婚してるけど下の子はまだだから、良かったら他の先生どうかしら?なんて言ったそうだ。


勝手に合コンセッティングをしていた祖母に笑ってしまった。

でも、そこまで元気になったのだから本当に良かったと思った。


そして主治医の先生のお話通り、私は知らない間に病院で存在が知れ渡っていた。


いつもの様に仕事終わり手紙を渡しにナースステーションに行くと、「あら!みさきちゃん!ゆきこさんのお手紙ね!渡しておくわ!」と言われた。


今日の看護師さんははじめましての人だ・・・

なぜ私の顔を知っている・・・

もしかしてこの人も、私の強烈な変顔写真を見たのか・・・

だから顔がわかっているのか・・・


まぁ、そんなこといいや!と思った。

目的は祖母が笑ってくれること。

看護師さん達が見て笑ったんだから、祖母も笑っているだろうと上機嫌で帰る私。

しかし、自分でも思った。

「私、やっぱりズレてるなぁ〜。でも、まぁムードメーカーって事で受け入れておこう」


ズレてるとはよく言われるので、慣れている。

少し前に家で旦那と話していて、「音が聞こえないから大きくして」と言われたのに対し、自分の話す声を大きくした。

すると、「いやいや!テレビの話ね!声の大きさは十分聞こえてる!!」とツッコまれ、自分の事なのに大笑いしていた。


今度ゆきちゃんにこんな話をしてあげようとか、そんな事を考えながら帰宅し、翌日動けるようになった祖母から病院の電話を使って電話が来た。


祖父が電話を取ると、すぐみーちゃんに代わってと言われたそうだ。

ゆきちゃんから電話!?と、電話を代わり

「ゆきちゃん!大丈夫??」と勢いよく話す私。


するとすぐにそれ以上の声量で返事が来た。

「みーちゃん!アンタアホかね?!あーんなに鼻の穴を黒く塗って、目玉書いて、おでこに自分の歳書いた写真入れて!みーんな笑ってたわ!可愛い顔してんだから、あんなバカなことすんじゃないよ!いいか?!言うこと聞けよ?!」


声量と勢いに押されて、私は大笑いしてしまった。

病人なのに自分の心配より孫の心配して、更には勢いも戻ってきた。

いつものゆきちゃんだ。


安心した涙と、大笑いの涙で顔がびしょ濡れになった。



そして、その伝説の強烈変顔写真は今も祖母のドレッサーの引き出しに封印されている。14日分の手紙と写真達と共に。


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