第13話 祖母へ送る手紙
荷物の受け渡しのみ可能と先生に言われてから、私のやりたい事は決まっていた。
祖母に毎日手紙と写真を届ける事だ。
祖母は携帯を持っていない。
そのためLINEを送ることも、写真を送ることもできないのだ。
病院でただ1人、治療をし家に帰るため頑張る祖母。
そんな祖母が寂しくならないよう、手紙を書こうと思った。
祖母は手が震えるため、手紙の返事は書けない。
けれど、私の今日あった出来事や家族の様子を文字にして伝えることなら出来ると思った。
返事が来なくても、祖母が少しでも手紙を読んで嬉しい気持ちになってくれたら私はそれでよかったのだ。
そして、祖母への手紙が始まった。
手紙というものは残るものだ。
わたしも昔友達に貰った手紙はしっかり残している。
読み返して、くすっと笑う時もある。
私は祖母が読み返したくなる手紙を書こうと思った。
「今日は2021年4月2日。ゆきちゃんが入院して3日経ったよ。調子はどうかな?」
いつも手紙の始まりは、祖母の日付感覚がなくならないよう、日付や時刻を書き込んだ。
そして、その日あった事を書き綴った。
「私のことを指名してくれる○○さんがね、私の事を励ましてくれたよ。おばあちゃん入院しても、みさきちゃんが毎日笑顔で励ましてくれたら元気になってくれるはず!って言ってくれたんだ。私、こんなにも私のことを気にかけてくれる大事なお客さんがいてうれしくて、泣きそうになっちゃった。でも、そのお客さんはわたしのボケが好きだから、走って病院抜け出してくるかもしれないよね!私のおばあちゃんだもの!って言ったら、大笑いしちゃってたよ!」
祖母がくすっと笑えるような内容を手紙に綴る。
そして必ず最後に書く文があった。
「明日は予約が沢山だから、忙しいかなぁ。ゆきちゃんが治療やリハビリで忙しいなら、私もお客様の予約で沢山!って忙しくあるべきだよね。ゆきちゃんだけが忙しくて頑張るのは違うもの!明日も笑顔で乗り越えていこうね。」
最後に明日の予約状況を書くことで、祖母が病院で過ごすときに「みーちゃん、今お客様やってるんだろうな」と想像できるようにしてみたのだ。
ずっと病院にいるのは退屈だろうから、少しでも祖母が想像出来るような手紙の内容にした。
私の仕事が終わるのは19時。
荷物受け渡し可能時間は20時まで。
電車を乗り換えて、着くのは19時半頃。
裏口から入り、名前や住所を記入し、祖母の入院する階に向かう。
エレベーターが開いた先にはナースステーション。
看護師さん、こんな遅い時間にごめんなさい。
でもどうしても、これを渡したいんだ。
近くにいた看護師さんに「あのぅ・・・」と声をかけた。
「はい!どうされました?」
看護師さんは凄い。
このコロナ禍で忙しいはずなのに、嫌な顔ひとつせず笑顔で対応してくれた。
「3月31日から入院している祖母にお手紙を渡していただきたいのですが・・・」
「あぁ!ゆきこさんかしら?もちろんです!お預かりしますね!」
よろしくお願いいたしますと言い、手紙と写真が入った封筒を渡した。
「娘さん?」と聞かれ、私は笑ってしまった。
「ごめんなさい、孫です。」
そう言うと看護師さんはすぐに、ごめんなさい!と言った。
しかし、わたしが看護師さんの立場でも最初に娘さんですか?と聞くだろう。
でも、情緒不安定だった私に明るい笑顔を見せてくれた看護師さんは女神のようだった。
「ゆきこさん、容態は安定してきました。一時はどうなるかと思ったけど、頑張ってますよ!この調子で行けば、少しずつ良くなるんじゃないかしら」
嬉しかった。
嘘だとしてもその言葉に本当に救われた。
「ありがとうございます。祖母をよろしくお願いいたします。」
そう言い、病院を後にした。
病院の外に出ると、まだひんやりとした空気がどこか寂しかった。
しかし、祖母が頑張っていると聞いて心はとてもあたたかった。
ピロン。
LINEの着信音だ。
「みさき、おばあちゃんにお手紙渡せた?少し待たせちゃうかもだけど、車で今から迎えに行くね。」
旦那からだった。
「渡せたよ!疲れてるところごめんね、ありがとう。○○のあたりで、待ってるね!」
こんな素敵な人達に恵まれて、私は幸せだ。
旦那の優しい気遣いが嬉しくて、近くのコンビニでホットの缶コーヒーを買った。
寒い中迎えに来てくれた旦那に渡したかったのだ。
恐らく、あと10分はかかるなぁ。
そう思った私は、買ったばかりのホットの缶コーヒーをコートの内側に隠した。
少しでも旦那に温かいコーヒーを渡せるように。
そして迎えに来た旦那に渡したコーヒーは温くなっていたのに、旦那は手顔で「あったかいねー!ありがとう!」と言った。
時には人を傷つけない嘘も大事なんだなと、1人で笑ってしまった。
私の旦那は嘘は下手だが、心がすごくあたたかい人だ。
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