第11話 病気の正体

祖母が緊急入院したその日の事は、あまり覚えていない。


しかし、心のどこかで「嘘だ」と思っていた私が仕事終わりに祖父母の家に向かったのだけは覚えている。


祖父は私の不安な気持ちを払おうと、家に入るとにこっと笑いかけてくれた。


いつも祖母が座っている椅子。

お昼寝するマット。

睡眠薬を飲んで寝言を言いながら寝る布団。


どこにも祖母の姿は無く、飼い猫が寂しそうに祖母の布団の上で丸くなっていた。


「ゆきちゃん、どういう状況で運ばれたの?」


祖父が重い口を開き、説明してくれた。


2021年3月31日、いつも通りに起床しテレビを見ながら祖父母は過ごしていたようだ。


しかし、肩で呼吸をする祖母を見て祖父はおかしいと思ったそうだ。

そして母に電話をし、母を呼んだ。


かけつけた母も祖母を見て、おかしいと思ったそうだ。


それから母は祖母に質問をしていく。


「どこが痛い?いつからこうなった?」


意識朦朧とする祖母は説明しても言葉にならない。


すぐに母が言った。

「病院、行こうか。」


そして、病院嫌いの祖母が首を縦に降って


「おねがいします・・・」


と答えたそうだ。


直ぐに車を走らせ、かかりつけ医に行った。

様子がおかしいと思った看護師さんは、すぐに診察室に通してくれたようだ。


先生が祖母の顔を見て一言。


「これは普通の状態ではありません。すぐに救急車を呼びます。」


しばらくして鳴り響くサイレン。

意識朦朧とした祖母はそのまま酸素マスクを付けて、病院に運ばれたそうだ。


祖父は言った。

「元々凄く頑固な人だから。頑張ってしまう人だから。我慢してたんだろう。」


私は涙をこらえて続きを聞いた。


「ゆきちゃんの体は、病名はなんだったの?」


「・・・急性心不全だそうだ。しばらくICUで治療をして、今日から3日間くらい山場と先生が言っていた。」


急性心不全?

私は直ぐに携帯を開いて調べた。


症状・・・顔の浮腫、息が苦しい、動悸等。

はっとした。

全て当てはまっていたのだ。


どうして、どうして私は万が一の事態を考えなかった?

どうしてここまで楽観的なのだ。

ただの馬鹿ではない、大馬鹿者だ。

どうするんだ、自分。


そんな事ばかり浮かんだ。


堪えていた涙が流れた。

「もっと・・・もっと早く気づいてあげればよかった・・・」


すると祖父が言った。

「大丈夫。絶対家に帰ってこられる。信じてあげよう。」


そして気付いた。

1番辛いのは祖母。私ではない。

何泣いてるんだ。それしか出来ないのか?

本人が頑張っているのに、私達が信じてあげないなんて何事だ?何様だ?


涙を拭って、「そうだよね。信じてあげないと。」そう伝えた。

そして、しばらくして家に帰った。



その日は眠れなかった。

体は疲れているのに、最悪のケースを想像して涙をこらえて。その繰り返し。

夜は嫌なことばかり浮かんでしまう。


すると、涙が溢れて鼻を啜った私に旦那が気づいた。

そして、そっと抱きしめて頭を撫でてくれた。

小さい頃に、祖母が私にしてくれたように。


「辛いよね、嫌な事ばかり思いついちゃうよね。でも、大丈夫。絶対帰ってくるから。みさきの思いはおばあちゃんに通じるから。みんなで乗り越えよう。今日はみさきが寝るまで、俺も起きてるから。大丈夫。」


私は旦那の腕の中で大泣きした。

涙が止まらないのだ。

私も祖母に似て強がりだから、そんな優しい言葉をかけられると我慢出来ずに泣いてしまうのだ。


しばらく大泣きして、気がつくと朝だった。

そして隣にはずっと手を繋いで寝てくれた旦那がいた。


私と旦那が入籍し、祖父母に会いに行った時祖母は旦那の事をすごく大事にしてくれた。

「私、みーちゃんが優しい旦那さんと一緒になって嬉しいのよ」と言っていた。


ゆきちゃん、なんでゆきちゃんがわたしの旦那さんを大事にしてくれたかこの時分かったよ。


私とゆきちゃん、似た者同士だもんね。

そりゃ、同じような人を大事にしたいと思うわけだ。


ゆきちゃん、皆が味方だよ。

皆がゆきちゃんの帰りを待っているよ。

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