第10話 その時は突然に

祖母の症状は気になっていたが、様子を見てみようと心の片隅に置いていた。

そして、その時は突然だった。


2021年3月31日。

私はいつも通り仕事をしていた。

空き時間にLINEの通知が1件あり、ふと開いてみた。


「ゆきちゃんが救急車で運ばれ、ICUで治療中。緊急入院。」


母からだった。


私は、お母さん冗談ばっか言って・・・と思いながらお客様の予約が入っていない時間だったので、外に出て電話をかけた。


「もしもし?お母さん?ああいう冗談はやめてよ〜。私がいつもお母さんにドッキリしかけるからって、度が過ぎませんか〜?」

笑いながら言った。

すると、静かに母が言った。


「本当だよ。今、ICUで酸素マスクつけてる。」


それでも私は信じなかった。


「だーかーら!嘘見え見え!」

私は笑いながら言う。


「わかった。嘘だと思うなら写真送るから見て。」


そう言い電話を切る母。

お母さんも私を仕掛けようとしてるんだなと笑いながら、送られてきた写真を開く。


そこには、今まで見た事のない祖母の姿が写っていた。


顔全体が浮腫み、目がギュッと押しつぶされたようになっている祖母。

酸素マスクをつけて、眉間に皺を寄せながら苦しそうな表情。

ぶらんと力の入っていないような細い腕に繋がれる、沢山の医療器具のコード。


祖母の姿を見た時、最初に出てきた言葉は「え?」だった。


先日まで楽しそうに笑っていたのに。

一緒におやつを食べていたのに。

どうして私は一緒にいながら、何も気付けなかったのか。


あの時、病院行ってみる?と言っておけば。

病院嫌いの祖母を無理矢理にでも連れ出していれば。

こんな事にはならなかっただろう。


「写真見たてしょ?本当なの。緊急入院で、いつ家に帰られるか・・・。今入院するにあたて、必要な荷物をまとめているところ。何か分かり次第、すぐ連絡す」


母も動揺しているのだろう。

誤字がそれを物語っていた。



一体、ゆきちゃんの身に何があったの・・・?


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