第6話 祖父の真実を知った19歳の冬

祖母は祖父とよく喧嘩をする。

祖父は亭主関白な人だ。

今は歳を重ねて、だいぶ丸くなった。


その喧嘩が毎回、本当に些細な事から始まるのだ。

凄い勢いで祖父に向かってものを言う祖母。

そして、その姿を笑いながら見ている祖父。


テレビでお笑い芸人がすごい速さでツッコミをし、それに対して観客が大笑いする。

まるでそんな感じ。


時々、喧嘩が長引いてお互い知らん顔してるなんて事もあるが、その2人の様子を観察するのが好きだ。


私はまだ旦那との間に子供がいないので、本当のところは分からないが「子育ては予想外の事も起こるし、上手くいかないから難しい」と3人の子を持つ幼馴染が言っていた。

祖父母の喧嘩も、子育てと同じ感じで予想外なのだ。

私にも子供が出来たら、祖父母のように予想外の毎日が起こるのだろうかと勉強しながら見ている。


私は、19歳の頃学校の海外研修でパスポートを作るため、初めて戸籍謄本というものを取りに行った。


その時に、戸籍謄本を見てある事を知った。

祖父は私と血の繋がりがないのだ。


私はその事を母に尋ねた。

すると、19年間隠していた真実が明らかにされた。

「あんたが大人になったら、言わないといけないと思っていた。なのに、あんたから気づいちゃったね。ショックだった?言わなくてごめんね。」と、母が言った。


話を聞いてみたら、母が幼い頃祖母が経営していたバーに祖父が仲間を連れてきた。

その時、祖父は祖母に一目惚れしたそうだ。

若い頃の祖母は私も写真で見た事があるが、モデルのように綺麗だった。


すっと通った鼻筋、

外人風の大きな瞳、

すらっと高めの背丈。


細身の体型が更にモデルの雰囲気を出していた。


祖母は母を産んだ後離婚していて、いわゆるシングルマザーだった。

そのうち、祖父母は付き合うようになり私が生まれた年に籍を入れたそうだ。

長年付き合ったら、籍を入れなくてもいいと思ったのだろう。

しかし、区切りとして入れたと聞く。


それから祖父母と母で3人の生活が始まり、亭主関白の祖父は昭和のスパルタ教育で母と当たることも多かったそうだ。


だが、私は母の言葉で1つ心に引っかかったものがある。

「ショックだった?」と聞かれた言葉だ。


本来なら、血の繋がりのない家族に何十年も可愛がられてきて突然それを知ったら、驚く人が多いだろう。

でも、私は1ミリもそうとは思わなかった。

私が祖父の立場なら、孫を可愛がられるかと言ったら、わからないからである。


19年間、真実を隠してきた祖父。

いつか言わないとと思いながら生き抜く毎日は、辛かっただろう。

大きなプレッシャーだったろう。


私は思ったのだ。

血の繋がりが無くても、こんなに孫を可愛がってくれる祖父が他にいるだろうか。


私が美容師になるために練習をする姿を見て、何十万もするハサミを贈ってくれた。

バレーボールに打ち込む姿を見て、「身長の低いみーちゃんが、少しでも活躍出来るシューズを買おう」と買ってくれた。

明日のお弁当のおかずを何時間もかけて何種類も作ってくれた。


血の繋がりだけが、本当の家族ではない。

どれだけ思いやって、大事にしてくれるかが家族なのではないか。と思った。


だから、私は母から真実を聞いたあと祖父に気持ちを伝えに行ったのだ。


「パスポートを作るのに戸籍謄本を取りに行って、お母さんから話を聞いたの。」


バツの悪そうな顔をして、俯く祖父。


「私とけいちゃんは血の繋がりがないって。でも、私はそれを聞いて嬉しかったの。」


頭がおかしくなったのか?と言いたげに、眉間に皺を寄せて私の顔を見た祖父。


「血の繋がりなんて、そんなのどうでもいいのよ。けいちゃんが私のために、色々な事をしてくれるのが本当に嬉しい。私はこれからも、私のことを大事にしてくれるけいちゃんをもっと大事にしていきたいな」


祖父の目は涙で溢れていた。

それを見て見ないようにしながら、お腹すいたから皆でおやつ食べよう!と話を変えると、祖母は微笑んでいた。


私は幸せ者だ。


そして、自分の言った事には責任を持てと母に言われたよう、今でもその通り祖父と接している。


そんな祖父と、EDWINの色違いお揃いTシャツを着て今日も祖父の買い物に付き合った。



血の繋がりが無くても、心で繋がっているのだ。

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