第3話 母と祖母の過去
祖母は口調が強い。
そして、気も強い。
よくそれが原因で祖父と喧嘩をしているが、私はそんな祖母を見ると少し安心する。
勿論、私以外の人が「喧嘩」と聞くとあまり良い印象はないと思うが、去年入院してぐったりしていた祖母を思い出すと、言い返せるくらいに元気になったのだと安心するのだ。
時々、長く続く祖父母の喧嘩を見ていると「またか・・・」なんて気持ちにもなるが、結婚2年目の私からしたら社会勉強のようなものだ。
夫婦とは、こういう事もあるものなのか。と。
なかなか難しい勉強である。
そして、この祖父母の喧嘩を止めるのが私の母の役割。
私の母も、かなり気が強い。
ズバッと言われると、心がグサッと貫通して折れてしまうくらいの威力がある。
だが、祖母と同じで優しい一面もあるのだ。
そんな祖母と母。
昔はここまで仲良くなかったらしい。
若い頃、もっと気の強かった祖母は一言で表すと「鬼」だったと母がひっそり教えてくれた。
祖父母は夜も働いていたため、母はいつも夜ひとりで寝ていた。
雷が鳴って怖いと思う日も、
暑くて暑くて寝付けない日も、
逆に寒くて人肌恋しい日も、
母はいつもお利口にお留守番しながら、1人で寝ていたのだ。
祖父母も家族のために夜頑張って働いていたため、母の相手をしてあげることができなかった。
これはもうどちらも仕方の無い事だと思った。
しかし、私が成人してから友達とお酒を飲んで〆のラーメンを食べて、深夜に帰宅するという日常を送っていた頃、毎回楽しく飲んでいる時に母からLINEが来ていた。
「何時頃帰ってくるの?」
正直、飲んでる時はLINEの返信が面倒だった。
絵文字もない「わからないけど気をつけて帰るから先寝てて」という句読点もない読みづらい返信をして、楽しく飲んでいた。
そんなある日、私が深夜まで飲みに行っている事を聞いた祖母がお願いをしてきた。
「みーちゃん、アンタ若いのに大酒飲みだねぇ。私はお酒が飲めない人だから飲み会が楽しいかどうかもわからない。けど、お母さんに寂しい思いをさせないであげて。」
寂しい思い?
あんな元気なお母さん、寂しい思いしてるの?
私はそれしか思わなかった。
しかし、次の祖母の言葉でその考えは180度変わった。
「私は昔、幼いお母さんを家に置いて毎晩働いてたの。けいちゃん(祖父)もね。だから、静かで怖い夜を1人寂しく過ごした。わがままも言わず。あんなに元気そうに強がってるけど、本当は今でも一人で夜を過ごしたくないんだろうねぇ。」
お母さん、なんでそれ教えてくれなかったの?と思ったが、よく考えてみたらそれもそうだ。
子に弱々しい背中を自ら見せつける親というのは、あまり聞いたことが無い。
何か心配なことがあっても「大丈夫よ!」と、元気づける親が多いと私は思う。
だから、世の中の親は誰しも強く見えるのかもしれない。
祖母から母の過去を教えてもらった私は、それ以降こまめに母に連絡をするようになった。
「今電車乗ったから、10分くらいで最寄り駅に着くよ!」
「今日仕事遅くなりそう。多分、1時間後には帰れると思う。」
「スーパー寄って帰るけど、何か買うものある?」
こまめに連絡を取るようになったからか、LINEの返信を打つ母のスピードもかなり早くなった。
心も若くなったのか、今では「り(了解)」という返信までしてくる。
もはや、返信内容が若すぎて女子高生レベルだ。
祖母に母の過去を教えてもらわなければ、気が付かなかったことだと今でも思う。
そして、祖母はいつも母の幼い頃の話をするとこの言葉を言う。
「お母さんには内緒だよ!また、私がみーちゃんにいらん事言ったって言われるから〜!」と。
祖母と"母に内緒"という約束をし、こっそり母の昔話を聞くのが好きだ。
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