第2話 祖母の幼少期

祖母の故郷は山口県。

イタズラが好きで周りの気を引こうと、悪いことばかりしていたと言う。


祖母はイタズラをする度に親に追いかけられ、それから逃げるのに足が速くなり、いつしか山口県で1番足が早くなったという。

その1番というのも、近所での話か本当に山口県内での話しか分からないが、祖母の娘である私の母が運動会で毎回リレーの選手だったと言うから、恐らく本当なのだろう。


昔から運動神経は抜群。

よく考えてみたら、私が幼い頃当時60歳前後の祖母がよく公園でうんていや鉄棒をやって見せたのだから、よほど体を動かすのが好きだったのだろう。


私が空中逆上がりが出来るようになった時に祖母に披露すると、祖母も真似しようとした。

それを母に伝えると驚いた顔をしていたが、祖母は歳を重ねても幼い頃の負けず嫌いだけは健在だったのである。


祖母の母、つまり曾祖母は産後が悪くてすぐに亡くなった。

今では医療も進化しているので、この時代に曾祖母も生まれていたら助かっていたのだろう。

幼い頃に母という存在を失った祖母は、母親の愛情を知らずに育った。


祖母に弟が生まれてしばらくして、父親が再婚し新しいお母さんを迎えた。

しかし、その新しいお母さんは祖母を可愛がることも無く、嫌がらせばかり受けたという。


それでも祖母は我慢し続けていた。

相当辛かっただろう。


そんな姿を見ても再婚相手に注意ができなかった祖母の父(私からしたら曽祖父)は、どんなに悪くなくても実の子である祖母を叱るしか無かった。

その申し訳なさからか、曽祖父は生前ずっと祖母のことを「ゆきこさん」と呼んでいたそうだ。


私は想像してみた。

私の母が私のことを「みさきさん」と呼ぶ姿を。

なんだか他人のようで、変な気持ちになった。

この気持ちは誰もが想像しても、おや?という不思議な感覚になるだろう。


ずっと祖母を叱り続けてきた曽祖父だが、亡くなる時に祖母にこう言った。


「ゆきこさん、ごめんね。」


私にはこの一言が、曽祖父が今までどれほど祖母を守りたかったのかがぎゅっと詰まった愛情の一言に思えた。

それと同時に、親なら自分の子供を守り抜きもっと愛してあげて欲しかったと思ったのもある。


そして、祖母の弟。

私は幼い頃に数回しか会ったことがないが、穏やかで落ち着いている人だ。

眉毛が太くて、笑うと目尻が下がり、すっと通った綺麗な鼻筋が祖母と似ている。

祖母も、祖母の弟も、曽祖父も、心臓が悪いのは遺伝なのだと思う。


祖母は弟としばらく会っていない。

これには色々な問題が絡んでいるので、私もよく知らない部分が多い。

たった1人の大事な弟と会えないのは、とても辛いことだろうと私も思うので会わせてやりたい。

しかし、「会わない」のではなく「会えない」のだ。

2人の仲はとても良い。



祖母は少し辛いことの多い幼少期を過ごしてきたようだ。

だからこそ、私は83歳になった祖母を大事に大事に愛してあげたい。

幼い頃に辛い思いをしてきた祖母に、これからは楽しい事だけが待っている人生となるように出来ることをしてあげたい。


私はいわゆるおじいちゃん・おばあちゃん子だから、この思いは人と比べたら異常かもしれない。

けれども、辛い幼少期を過ごしてきた祖母が最後まで辛い人生を送るのは可哀想であり、勿体ないとも思う。


私は私なりに祖母を「世界一幸せなおばあちゃん」にしてあげたい。

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