第4話 

 確か小学校の授業の一環で書いたものだ。

 茶色の封筒を手に取り、透かすように見つめながら記憶を探る。

 

 暑い教室。

 エアコンが壊れて、真夏なのに窓を開けて扇風機を回すだけの教室の中、じっとりと汗ばんだ手で手紙に鉛筆で書きこむ自分の右手。

 紙の端に汗じみを作りながら想像もつかない10年後に向けて字を綴る。

 なんとなく書き始めたのに、書いているうちに熱くなって、ふと気づくと紙も終わりが近かった。

 ざっと読み返すと、あまりに真面目過ぎてなんか気恥ずかしい。

 視線が急に気になって、背が丸くなる。

 眼だけ動かしてちらちらと左右を見るけど誰もこちらを見ていなくて、勝手に安心し、そしてまた残りを書き始めた。

 

 なんて書いたかはさすがに思い出せないな。

 ただ、思い返してもこれは自分のものではないことだけは確かだった。

 文字の雰囲気というか文字から受ける感じが自分じゃなさそうだ。

 まあ、と棚の端の小学生の頃のアルバムの背表紙に書かれた自分の名前を見て少し自信を無くす。

 

 仮に。

 仮に自分のものじゃないのなら、この手紙は誰のものなのだろうか。

 友達?クラスメイト?同学年の誰か?

 それに、なぜ自分が持っているのか。

 

 軽く考えてみても何も思い至らない。


 まあ急いて考えても仕方のないことだ。

 そのうち思い出せるかもしれないし。

 

 ふとスマホに目を戻すと三十分ほどたっていた。

 いけないいけない。

 ひとまず手紙を封筒に戻し引き出しにしまった。


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暇を持て余し 蒼朔とーち @torchi_1

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