カッパ釣り

夏川しおめ

第1話

 目の前には大きな川。そこに、私と内田うちだ教授は並んで釣り糸を垂らしていた。糸の先にはキュウリを結んである。

 せっかくの土曜日に、私は大学の教授と何をしているんだろうか。

一宮いちみやさん、つまんなそうだね」

 内田教授が話しかけて来た。

「だって、釣れないじゃないですか」

「朝はあんなに張り切ってたのにねえ」

「ここで半日もこうしていて、目が覚めました。やっぱりカッパなんていないですよ」

「夢がないなー、一宮さん」

「教授の口車に乗せられてここまでついてきてしまった、自分が信じられない。冷静になるべきだった」

「僕は一宮さんと一緒で嬉しいよ」

「キザったいです、調子に乗らないでください」

「……はい」

 何をしているかというと、カッパ釣りだ。

 妖怪伝説の専門家である内田教授の、きっと釣れるからという熱い語りを聴いてついて来てしまった。はぁ。

「教授、カッパって相撲好きなんですよね?」

 退屈なので、意味もなく話を振る。

「うん、そういう話は多いよ」

「もし釣れて、相撲を仕掛けられたらどうしますか?」

巴投ともえなげを決める」

「その技やった時点で教授の負けじゃないですか」


 突然、私の竿がグイっと引っ張られた。

「あっ! 教授! なんか来ました!」

「なに!」

 糸を巻いていくと、キュウリの代わりにアユが一匹結ばれて上がってきた。

「ん? なにこれ」

 私と教授は目を見合わせる。

 すると、今度は教授の竿が引かれた。

「ああっ‼ こっちも!!」

 教授の竿にも同様にアユが結ばれていた。

「一宮さん、これきっとカッパの仕業だよ!」

「ええ! 私もそう思います!」

「キュウリと交換ってことかな⁉」

「等価交換ですね!」

 教授と興奮して言い合った。



 結局カッパは釣れなかったが、存在を感じることが出来たことと、合計二匹のアユが手に入ったことで私と内田教授は大満足で帰路に就いた。

「タダで持って行かないあたり、カッパの人間性が表れてましたね」

「そうだね、今夜はこのアユで一杯やろう!」

「勝手にやってください」

「……はい」



 高揚感のあまり、おやつ兼つり餌として持っていったキュウリの残り全てが何者かに持ち去られていることに、二人が気付くことはなかった。






 








 

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カッパ釣り 夏川しおめ @colokke

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