第21話初めての冒険(多分)ゴブリン討伐。前編
ガタゴトと馬車に揺られながら向かう先は街の郊外。
外壁の外には一面に畑が広がっている。ゴブリンたちはどうやらそこの農作物を荒らしているそうで、農家の人たちが何とかして欲しいとギルドに依頼を出したのである。
「所々に被害が見受けられるわね」
「えぇ、ひどいものです」
畑を見たレジーナとキリアが顔を顰めている。
馬車から見えるだけでも、畑の至る所に掘り返された跡が見える。
そういえば実家でも祖父がよくゴブリンが畑を荒らして困る、とか言ってたっけ。
時々ブチ切れて巣を潰しに行っていたのを思い出す。……すごい怒っていたなぁ、あの時のおじいちゃん。
農家の人たちも似たような気持ちだろう。頑張らなきゃね。
「おっと、もう着いたみたい」
そうしている間に私たちは森の手前へと辿り着く。
これ以上は魔物が出現する為、馬車で移動できるのはここまでだ。
御者に運賃を支払い馬車を降りると大きく伸びをした。
んー、これが『物語』でよく見る馬車に乗られると身体が痛くなるって感覚か。なるほど、背骨がパキパキ鳴ってるなぁ。
面白がって鳴らしていると、レジーナが咳払いをする。
「さて、流れを再確認しましょうか。まずはここらでキャンプを張り、ゴブリンを見つける。それを追跡し、巣を見つけて潰す――で、いいわね?」
「うんっ!」
まさに『物語』の王道的ゴブリン討伐の流れである。何の盛り上がりない地味な展開だからこそワクワクが止まらない。こういうのを求めていたんだよ。こういうのを。
思わず顔が綻んでしまう。……おっと、油断しないようにしないとね。
「ゴブリンは夜行性で昼間はほとんど動かない。少し早いがキャンプの準備をするとしようか」
「じゃあ道具を出すね」
そう言って私は『空間庫』の中からテントや何やらを取り出す。
頭で考えただけで指定した物を取り出せるってすごく便利だなぁ。
ちなみに前に誤って取り込んだ床とか椅子は元あった場所に戻しておいた。
「ありがとうアゼリア君。では僕はテントを組み立てるとしよう」
「私はこの辺りを見張る準備をするわ。気配避けの結界も張らないとね」
「じゃあ私は薪を拾ってくる! 『空間庫』あるしね」
キャンプにも料理にも火は欠かせない。魔術で火を出し続けるのは結構疲れるので、薪は必須である。
……それにやってみたかったのだ薪拾い。冒険者っぽいもんね。
「ちゃんと使える枝を拾ってくるんだぞ」
「わかってるよ。湿っているのはダメ。火が付きやすい軽い枝を中心に、消えにくい重い枝もある程度。火種になる松ぼっくりや杉葉も取ってくればいいんでしょ?」
「く、詳しいじゃないか……」
私が答えるとキリアが若干引いている。ふふん、そりゃもう、勉強してますから。
「じゃ、行ってくるね」
「気を付けて」
二人に見送られながら、私は森へと入っていく。
地面には探すまでもなく沢山の枝が落ちており、どんどん拾っては『空間庫』に入れていく。
ふん、ふふーん、ふんふん♪ いやぁ楽しいなぁ。
「浮かれてますねぇご主人様」
「まぁねー、こうして一人で森にいると、変なテンションになるっていうか」
「一応私もいるのですが……」
「ごめんごめん、変な意味じゃないからさ……って、ん?」
ふと、私は足を止めた。
前方からの気配を感じたのだ。
こっそり近づいてみると草むらの影にはゴブリンがいるではないか。
「ゴブリンですよご主人様、どうやらこちらには気づいていないようです」
「うん、チャンスだね。このゴブリンの後をつければキャンプする必要もなく巣を見つけられるかもしれない――」
言いかけてふと、思い直す。
「いや、でもキャンプはやってみたいよなぁ……外でやる焚火とか調理ってすごく楽しそうだし、仲間たちと見る星空とかも感動的って言うし……」
しばし考えて、
「よし、スルーしよう」
そう言ってポンと手を叩いた。
「いいんですかご主人様っ!?」
「まぁいいでしょ」
急いでもいいことないし、森の中を下手に追跡したら服がボロボロになるかもしれない。
それはちょっとはしたないしね。令嬢的に考えて。
それに冒険者の楽しみの一つと言えばアウトドア。
ここでさっくりゴブリンの巣を見つけたら、集めた薪やレジーナたちの用意が台無しになってしまうではないか。私はキャンプをやりたいのだ。
「はぁ……まぁご主人様がいいなら構いませんが」
「ってことで戻りましょうか」
薪も十分拾えたし、準備はバッチリだ。さーて、キャンプを楽しむぞー。
◇
パチパチと火の爆ぜる音が夜の闇に聞こえていた。
目の前には燃え盛る焚き火、その上には金網が設置されている。
網には塊肉と野菜がみっちりと刺さった串がいい匂いを漂わせていた。
「うーん、美味しいー!」
串にかぶり付きながら、思わず私は両手で頬を押さえる。
とろけるような柔らかさ、噛むたびに肉の旨味が口の中に広がっていくようだ。
「流石レジーナさん、いいお肉を買いましたね」
「ふふふ、どうせなら良い物を食べたいもの。キリアこそ相変わらずいい腕してるじゃない。このタレすごく美味しいわ」
「うんうん、すごいよキリア」
キリアが作ったのは串焼きだけではない。
シチューに、スパゲティ、更にはデザートにアップルパイまでついており、とてもキャンプとは思えない豪華さだ。
はふはふ、んーほっぺた落ちそう。
「ありがとう。……といってもアゼリア君がこれだけの調理器具を用意し、レジーナさんが周囲を魔術で見張っているからこそだ。普通のパーティではこうはいくまい」
「いやー私は料理とか出来ないから、キリアがいてこそだよ」
「えぇ、頼りになるわねぇ」
仲間たちと焚火を囲みながら食事をしつつ、談笑をする。
なるほどこれがキャンプというものか。確かに良いものだ。
「ふぃーご馳走様。それじゃあお風呂入らない?」
そう言って『空間庫』から大きな金属筒を取り出す。
簡易型の風呂だ。二人はそれを見て目を丸くしている。
「……呆れたな。風呂まで買ったのか」
「だって身体も洗いたいじゃないの」
しかもこれ、三人一緒に入れる一番大きな奴だ。
「とりあえず、お湯を入れましょうか」
そう言ってレジーナが魔術で湯を張る。
あっという間にアツアツの風呂が出来上がった。
「おー、やっぱりレジーナは魔術が上手だよね。いい感じのお湯になってるよ」
「ふふ、ありがと」
「アゼリア君だとこうはいかないだろうな」
キリアの言う通り、私じゃ水か熱湯しか出せないだろう。
「さ、入りましょうか」
「こら、押すんじゃない!」
「ふふふ、いいじゃないの女同士なのだし」
冷たい夜風に当たりながらの風呂はとても気持ちよく、思わず鼻歌を口ずさむ。
今日は曇っているから星が出ていないのだけが残念だ。
気持ちよくなった私たちは湯冷めしないうちにテントの中に入る。
「わお、広いわねぇ」
「というか広すぎだ。十人は軽く入れそうだぞ」
「折角だし、ぜいたくに使っちゃおう」
部屋ごとの仕切りを取っ払い、大きな部屋を作る。
そこへどーんと寝袋を三つ並べた。
「こんな感じでどう?」
「……本当に贅沢だなぁ」
「ふふ、でもたまにはこういうのもいいかもね」
三人で寝袋に入ったはいいが目が冴えてしまっており、どうにも眠れない。
どうやら初めてのキャンプで興奮しているようだ。最近はしっかり朝型にしたつもりだけど、時々夜の眷属が出ちゃうんだよなぁ。
なんてことを考えながら、私は隣で眠るキリアに尋ねる。
「……ところでキリアって、好きな人とかいる?」
「ぶっ!」
私の問いかけにキリアは咽る。
「い、いきなり何を言い出すんだ君はっ!?」
小声ではあるが、キリアは顔を赤くして私を睨み付けてくる。
……ま、夜のガールズトークもキャンプの醍醐味ってやつでしょう。
「そしてその反応……いるわね?」
「ば、馬鹿っ! 知るわけないだろうっ!」
キリアはそう言うと、ぷいっと私に背を向ける。
一瞬レジーナの方を見た気がしたけど気のせいかな。
ちなみにレジーナは早くも寝息を立てている。
うーん、誰も相手してくれないし、寝るしかないか。
「おやすみー」
私はそう呟くと、ゆっくり目を瞑るのだった。
見送り、私はその場に待機するのだった。
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