第14話ライバル登場、謎のイケメン騎士。中々編

「ふふふーん、ふふーん♪」


 鼻歌を歌いながら草を焼き払っていく。いやぁ、これが魔術を使いこなすということか。

 苦手意識を持っていたけど、結構楽しいじゃないの。


「ご主人様、あまりのんびりしてると負けちゃいますよ! ホラ、キリアの奴、もうあんなに刈っています!」

「あらホント」


 魔術が上手く使えるのが楽しくて、夢中になっていたな。

 やっと面白くなってきた所なのだ。負けてしまってはレジーナに魔術を教えて貰えなくなってしまう。


「よし、もっと火力を上げよう」


 指で作る三角形を四角形に。これで魔力量は倍くらいになるはず。……うん、このくらいかな。

 改めて『火球』を発動させる。ごおお、と燃え盛る炎が噴き出した。

 草ごと燃やし尽くす程の火力を出しつつも、地面を抉ったりはしていない。ギリギリで。

 油断したらまたぶっぱなしてしまいそうだけど……っとと、集中集中。


「やるわねアゼリア。少し教えただけでこうも魔術を使いこなすなんて。あの調子ならそのうちイメージだけで魔力制御も出来るようになるでしょう」

「何という魔術の冴え……くっ、予想以上だなアゼリア君。本当にハンデなど必要なかったようだ。……しかし僕も負けはしないぞ!」


 満足げに頷くレジーナと、更にペースを上げていくキリア。

 何かリアクションした方がいいかと思いつつ、集中している今の私にそこまでの余裕はない。

 ともあれ速度が倍以上となったことで、先んじていたキリアを追い詰めていく。

 よしよし、この調子なら私の方が早く終わるぞ。そんなことを考えながら足を早めていると、急に足元がボコっと隆起する。


「わわっ!? な、なにっ!?」


 隆起は収まることなく、私の足元を揺らし続ける。それは立っていられない程の揺れになり――ついに爆発した。


「アゼリアっ!?」

「ご主人様ぁっ!」


 二人の声が響く中、私は宙に舞い上げられた。

 真下に見えるのは巨大なミミズ―ーサンドワームだ。

 土中に生息し、地面の振動を探知しては地上の牛や馬などを喰らう大型の魔物である。

 もしかして私が炎で地面を高温にしたことで、怒って出てきたのだろうか。

 サンドワームは私を丸呑みにすべく、大きな口を開けている。すりこぎ状に生えた無数の牙が私を狙う。


「アゼリア君っ!」


 叫び声と共に落下する私の真下にキリアが飛んできた。

 そして振り翳した剣を高速で振るう。


「はあああああっ!」

「ギシャアアアアアッ!?」


 口の中を刻まれ悲鳴を上げるサンドワーム。

 しかし構わずキリアを飲み込んだ。


「キリアっ!?」


 名を呼ぶも当然答えはない。着地した私の眼前でサンドワームは地中に逃げ込んでいく。


「ま、まてこら! キリアを返しなさい!」


 呼び止める間もなく姿を晦ますサンドワームを茫然と見送る……はっ、そんな場合じゃない。


「た、助けなきゃ!」

「サンドワームの消化液は土を溶かすほど強力よ。早く助けないとキリアが危ないわ」

「それにしてもなんでご主人様を助けたのかしら。放っておけば自分の勝ちは決まっていたのにねぇ」


 メフィの言う通りだが、私にはキリアの気持ちがよくわかる。

 危機に瀕した人を身を挺して助ける、『物語』の主人公ならきっとそうする。

 私だって同じ場面ならそうしただろう。やはりキリアは私のライバル足り得る人物である。


「そんなキリアを絶対死なせるわけにはいかないよね」


 そう呟いて私は赤い霧を生成する。

 霧は形を変え、長い鎖へと変化していく、それを思い切り――投げた。

 風切り音と共に飛んでいと、鎖はサンドワームの尾にぐるぐると巻き付く。

 ずっしりとした手応え。よし、捕まえたぞ。


「っせい!」


 ぐいいっと引くと、ごりごりごりごりと地面を削る音が近づいてくる。

 暴れるサンドワームだが、赤い霧の鎖は肉に深く食い込み外れることはない。

 今度こそ逃げられはしないぞ。


「手伝うわアゼリア!」

「ご主人様、私も!」


 二人の助力に支えられながら、私はサンドワームを捉えた鎖を思い切り引く。

 どばぁ! と土塊を撒き上げながら十メートルはあろうかという巨体が姿を現す。

 地面に叩きつけられた後、口から体液を吐き散らかした。地面が溶ける嫌な臭いが辺りに漂う。……なんて強力な溶解液だ。早くキリアを助け出さねば。

 そう思い銅の剣を引き抜こうとして、はたと気づく。


「キリア、どこにいるんだろ」


 サンドワームの腹の中なのは分かるが、そのどこかはわからない。

 下手したらサンドワームごと真っ二つ、という可能性だってある。……どうしよう。


「アゼリア、こういう時こそ魔術を使いましょう」


 私の考えに気づいたのか、レジーナが言う。


「『火球』を魔力制御してサンドワームの胃を外側から切り裂き、中のキリアを助け出すのよ!」


 なるほど、『火球』を一点に集中させることで熱の刃とし、サンドワームの皮膚を切除。胃の中に侵入してキリアを助け出そうというわけか。

 確かにこれならキリアを傷付けず、助けることが可能である。


「無茶ですご主人様! そんなの相当の熟練が必要ですよ!」

「でもやるしかないわ。私が動きを止めるから、その隙に早く……!」


 レジーナが目を閉じ、全魔力を集中させていく。

 するとサンドワームの動きが完全に止まり、空中に浮きあがった。

 あれは制御系魔術『緊縛』だ。身体の自由を奪い、意のままに動かす。

 しかしサンドワーム程の巨体を縛るのはかなりの魔力、そして制御能力を使うはず。

 あれではレジーナに余裕はないだろう。ここは私がやるしかない。


「でも、上手くできるかなぁ」


 勢いが強すぎると貫いてしまうし、弱すぎると切除出来ない。

 分量法……はダメだ。指で作った形では測量具としての精度が低く、細かな制御は難しいのは先刻の通り。

 気合でいきなり出来るようになるものでもない。


「ご主人様の魔力はあまりに濃厚、僅かな量でもかなり威力が変わってしまいますからねぇ。正確な測量具さえあればいいのですが……」

「……あ」


 いや、一つだけ方法がある。この場で作れる正確な測量具を作ればいいのだ。この赤い霧で。

 ともかくやってみるしかないか。指先に生み出した霧の形を変えていく。

 モデルは冒険者ギルドで見た見事な細工時計。細かい目盛りで測れば誤差も出にくいはずだ。

 赤い霧は私の目の前で成形を終え、片眼鏡のような型になる。

 うん、いい感じだ。指で作ったものとは比べ物にならない程正確な分量が出せるぞ。


「これならいける……!」


 魔力量を調整した後、『火球』を念じる。

 と、指先から丁度いい威力の熱線が放たれた。

 動きを止めたサンドワームの腹に熱線を差し込むと、一筋の煙が上がり分厚い肉を切り裂いていく。


「おおっ! すごいですよご主人様! 赤い霧で正確な測量具を自作するとはっ!」

「考えたわね……あれなら使用する魔力を正確に導き出せる。それにしても分厚いサンドワームの肉をあんなにあっさり切り裂くなんて、私じゃとてもできやしない。……ふふ、本当に教え甲斐のある子だわ」


 感心する二人だが、正確な目盛りがあるとはいえ細心の注意が必要だ。内壁を傷つけないよう、慎重に作業を進めていく。

 ここだ。気を付けながら切っていき……っと。手ごたえあり。

 ようやく見つけた異物感を裂けるように切り開くとそこから――どぼぼっ、と胃液と共にキリアが吐き出された。

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