第15話ライバル出現!? 謎のイケメン騎士。後編
「げほっ、げほっ」
咳き込みながらも起き上がるキリア。鎧も溶け、衣類もボロボロ。皮膚も所々が赤くなっている。
レジーナが慌てて駆け寄ると、治癒魔術をかけていく。
「大丈夫? キリア」
「はぁ、はぁ……だ、大丈夫ですレジーナさん……げほっ」
淡い光に包まれ、キリアの顔色も少しずつ良くなっていく。
おお、治癒魔術まで使えるのか。レジーナは万能だな。
ともあれ、どうにかキリアは無事のようだ。
私を助けようとして逆に死なれちゃあ寝覚めが悪いしね。よかったよかった。
私は安堵の息を吐きながら、キリアに頭を下げる。
「ありがとうキリア、助けてくれて」
「それはこっちのセリフだ。僕が勝手にやっただけなのに、礼を言われる筋合いはない」
プイっと横を向くキリアだが、私は構わず礼を言う。
「それでも嬉しいよ」
だって勝負の最中にライバルの命を助けようとするなんて、まさに『物語』のライバルそのままじゃないか。
そんな素晴らしいライバル的行動を取って貰えるなんて、本当にありがとうとしか言いようがない。
「……ふん、それでこちらが助けられていたら世話がない」
「いやいや、これもまた王道展開ってやつよ。それにキリアのおかげで私も魔術制御が出来るようになったし」
「嫌味か君はっ!」
全然そんなつもりはなかったんだけどなぁ。
ちなみにもう一人の恩人であるサンドワームは傷口を塞いであげると、穴の中へと逃げて行った。
魔物というのは基本的にすごく生命力が高い為、多少の傷なら勝手に塞がるのだ。
サンドワームは土を耕し大地を豊かにする魔物だから、あまり殺さない方がいいんだよね。
私の地元みたいな実り少ない北の大地では、特に大事にされていたくらいである。
「あ、そういえば勝負がまだだけど……動ける?」
「……いや、僕の負けだ。しばらくまともに身体を動かせそうにないからな。それにどちらにしろあのままいっていたら君の方が先に草刈りを終えていただろう。完敗だよ」
そう言って手を差し出してくるキリア。私はその手を取って笑顔で頷くのだった。
◇
こうして依頼を達成した私たちは、ギルドで報酬を貰うと真っ直ぐ公衆浴場へと向かうことにした。
草刈りや何やらでドロドロになったからである。
そうして公衆浴場に辿り着いたわけだが――
「わぁーおっきなお風呂!」
その大きさに思わず感嘆の声が出る。
すごいのは外観だけではない。
中へ入るとまるで神殿のような外観、大理石の柱に池のような大きな湯舟、更にはシャワーまであるなんて、いやぁー流石は都会、進んでるなぁ。
私は期待を堪えきれずパパっと服を脱ぎ、湯船に入る。
「ふはぁー、生き返るぅー」
ざぁっと湯船から水が溢れるのを眺めながら、大きく息を吐いた。
いやぁ、やっぱりお風呂はいいねぇ。疲れた身体に染みわたるようである。
特に私は冷え性だからな。お風呂がなければ生きていけないのだ。
ちなみに使い魔は入れないということでメフィは置いて来た。
残念がっていたがこればかりは仕方ない。
「ふふっ、アゼリアったらお風呂が好きなのねぇ」
「……わお」
少し遅れて湯船に入ってきたレジーナの美しい肢体に思わず声が漏れる。
私よりも少し、いやかなりおっきい。どこがとはいわないけれども。背も高く腰も細いし。ちびで寸胴な私としては羨ましい限りである。はぁ、へぇ、ほぉ。
私がジロジロ見ているのに気づいたのか、レジーナは少し頬を赤く染めた。
「……ちょっと、どこを見ているのかしら?」
「いやぁ、色々参考になるなぁと思って」
「何のよっ! ……全くもう」
恥ずかしそうに湯船に身体を沈めるレジーナ。
むぅ、残念。そう考えながらもお風呂を堪能している私の前に、一人の女性が腰を下ろした。
「あぁ全く、一張羅がべとべとになってしまったよ」
どこかで聞いた声だ。しかもつい最近聞いたような……
「ってキリアっ!?」
思わず声を上げてしまう。
そこにいたのは見紛うことなくキリアその人であった。
「だってあなた、男じゃあ……ない、ねぇ……」
顔と身体を交互に眺めるが、どう見ても男ではない。
顔こそ端正な顔立ちのイケメンだが、意外と胸はあるし男性にあるべきものがない。
むしろ身体だけを見れば私よりも余程女性らしい程だ。
ジロジロと見る私にキリアは怪訝な顔をする。
「……アゼリア君、まさか僕のことを男だと思っていたのかい?」
「そりゃあだって、自分のことを僕とか言ってるからてっきり……レジーナのことが好きだから、私に絡んできたのかと思っちゃったよ」
「なっっ!? ば、馬鹿か君は! そりゃ確かにレジーナさんのことはすすす、好きというか尊敬はしているがっ!」
なんだかすごく動揺しているが、うーん、私の勘違いだったかな。
紛らわしいなぁ、もう。メフィが変なことを言うから。
そんなことを考えていると、キリアがため息を吐く。
「……僕は聖騎士だ。男世帯で舐められないようにするには、まずは外見と口調から変えていくのが手っ取り早いからね」
「……何か考え方がアゼリアと似ているわね」
確かに。流石は私のライバルだ。
いや、ここまできたら永遠のライバルと呼ぶべきかな。うんうん。いい響きである。
「レジーナさん。何かこの子、僕を変な目で見てくるんですが……」
「諦めて。この子ちょっと変わってるの」
二人に何やら言われているが、気にしない。
ともあれこうして、ライバル対決は私の勝利に終わったのである。
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