第13話ライバル登場、謎のイケメン騎士。中編
「んじゃ私はこれにしよう」
私が選んだのは一番敷地の狭い依頼だ。あんまり草刈りはしたくないしね。
「ふむ、では僕は……こっちだ」
キリアが選んだ依頼は、私の三倍は広そうな敷地だ。
こんな広さじゃあ勝負にならないだろう。私が疑問の視線を向けると、キリアは心配無用とばかりにフッと笑う。
「君のような可憐なご令嬢を相手に、聖騎士たるこの僕が五分の条件で戦えるはずがあるまい。このくらいのハンデは必要さ」
「いやいや、私たちライバルなんでしょ? 正々堂々やろうよ」
「これが僕の正々堂々だ。心配せずとも負けた時の言い訳にするつもりはない」
スタスタと歩き出すキリア。人の話を聞かないなぁ。こういうところライバルっぽくていいね。
「いいじゃないですかご主人様。向こうがハンデをくれるって言ってるんだし貰っておけば」
「ダメだよメフィ、ライバルというのは同じ力を持った相手だからこそ成り立つもの。ハンデなんか受け入れるべきじゃない……というわけで、私はこことこことここも受けるから!」
というわけで続けて依頼を受ける。
よし、これで大体同じくらいかな。草刈りは好きじゃないけど仕方ない。
「てか、ライバルとか言ってますけど、あいつとご主人様じゃ全然力が違うような……」
「アゼリアの力を以てすれば昼間でも圧勝だと思うのだけれど……」
メフィとレジーナが呆れた顔をしているが、聖騎士と言えば私の一族と長きに渡る戦いを繰り広げてきた強敵なのだ。私みたいな貧弱真祖と聖騎士ならきっと同じくらいの強さに違いない。
◇
というわけでやってきました河川敷。
ここが最初の草刈りポイントだ。
「うーん見渡す限りの緑ですねぇご主人様」
「草刈りはギルドでも一番人気がない依頼ですもの。でも魔術師には有利な仕事よ。火の魔術を使えば簡単にこなせるわ。魔力制御の練習にもなるしね」
「魔力制御、か」
レジーナの言葉にふむと頷く。
それはいい考えかもしれない。私は魔術が苦手だし、こういう広い所でなら十分練習すれば上達するに違いない。
「丁度人はいないみたいだし、やってみなさいな。でもアゼリアは魔力が強すぎるから出来るだけ指先一点にまとめるのよ。水鉄砲の発射口を小さくして飛距離を伸ばすように。……こんな感じ」
手で水鉄砲の形を作り、実際にやって見せてくれるレジーナ。
指先から出た熱線が一直線に伸び、草の根元を焼き切った。
「おお、すごーい」
なるほど、わかりやすい。水鉄砲ってそういう感じね。
「よーし、それじゃあ私も……『火球』!」
私は指先に魔力を集中し、言われた通り水鉄砲をイメージしながら、圧縮した炎を放つ。
――と、ごぉう! と勢いよく炎が一直線に伸び、河川敷の草を焼き尽くしていく。
草は焼き切るどころか消し炭となり、土は焼け焦げて真っ黒になっていた。
向こうの河原でお爺さんが腰を抜かしている。
あちゃあ、どうみてもやりすぎである。
「……ね、ねぇアゼリア、先日よりも威力上がってない?」
「勢いよく発射するイメージで……つい」
範囲を狭めないといけないのに、思い切りぶっ放してしまったのである。
どうにも魔力の制御って苦手なんだよなぁ。
「恐らく魔力が高すぎるが故、必要分の魔力がイメージだけで制御しきれないのね……普段から負担の大きな固有魔術を使っているから、普通の魔術を使いにくいというのもありそうだわ。あまりに強い魔力を持つ者は弱い魔術を使いにくいと聞いたことがあるけど、これがそうか……強者の悩みというものなのねぇ」
「やっぱり私、魔術向いてない?」
「ううん、むしろ向き過ぎよ! だってちゃんと制御できれば最強の魔術師となり得るんだもの。やっぱり私の目に狂いはなかったわ!」
目を輝かせるレジーナ。この惨状を見てそんな台詞が言えるなんて素直に感心する。
ともあれ魔術で焼け焦げた土を盛り直して次の現場へと向かう。
そこでも似たようなことを繰り返した。
イメージに頼らない制限法、数値で考える計算法とか、色々試してみたがどうも上手くいかなかったのだ。レジーナはそれでも教え甲斐がある、なんて燃えていたのだけれども……本当に教えるのが好きなんだなぁ。
教え方も多彩で根気と熱意に溢れており、何より私が教えた通り出来なくてもため息一つ吐きはしない。
キリアがあれだけ懐くのも無理はないといったところか。
おかげで少しずつだが、私も魔力制御というものがわかってきた……気がする。
「さーて、最後の現場は――と」
依頼書を手に向かった先は、街から少し離れた荒れ地だった。
畑にするから草を刈って欲しいとのことだが……ん?
少し離れた場所で草刈りをしている人影を見つける。キリアだ。
「はぁぁっ!」
剣を振るい、ばっさばっさと草をなぎ倒している。
おおー、すごい剣捌きだ。私のへなちょこ剣技とは大違いである。
「私も剣技、教えて貰えないかなぁ」
「ご主人様の御力なら剣技もへったくれもないと思いますけどね」
いやいや、メフィってば何を言ってるの。
あんな剣技が使えればめちゃくちゃカッコいいじゃないの。
是非ご教授願いたいものだ。勝ったら教えて貰おうかな。
既にキリアは七割近く草刈りを終わらせている。
今の私が三枚中二枚終わっているから、ほぼ互角だ。
「私が魔術を教えたり、破壊した地形を直したりで手間取っていたからねぇ」
レジーナはそう言うが、逆に指導が付いていてこれなのだからやはり互角みたいなものだろう。
そんなことを話していると、キリアも私に気づいたのか手を止めた。
「……む、ようやく来たか。一体何をしていたんだ?」
「ハンデは必要ないって、別の依頼を受けていたのよ。キリアと同じだけの草刈りをしていたってわけ。少しは認めてあげてもいいんじゃない?」
レジーナが言うと、キリアは信じられないといった顔になる。
「この少女が、僕と同等の……? なるほど。レジーナさんが認めるだけはあると言うことですか。……すまないね。どうやら君を侮っていたようだ。ここからは本気で行かせて貰うよ」
キリアが呼吸を整え、再度剣を振るい始める。
先刻よりも更に鋭い剣の冴えだ。草を刈る速度も上がっている。
「ま、まずいですよご主人様。このままじゃ負けちゃいます!」
「そうだね。こっちも刈り始めないと」
草むらの方を向き直り、人差し指と親指で三角形を作ってそれを目印に魔力を集めていく。
これは分量法というもので、魔力量の調整が難しい繊細な魔術を使う際に使うらしい。
レジーナに教わった中でも私にも合った方法で、意外と制御がしやすいのだ。
……うーん、大体このくらいかな?
「『火球』」
ぼっ、といい感じの火の球が生まれる。
中々いい感じだ。これを絞って……よし。
レジーナがやったような熱線が生まれ、それを草に当てる。
と、じゅっと音を立て草が消し炭になった。
「おおっ! やりましたねご主人様! 多少、いやかなり威力が高すぎますけど、ちゃんと出来てますよ!」
「えぇ! 素晴らしいわ。地面も抉れてないし、山火事にもなってないもの!」
二人は褒めてくれているが……正直言って素直には喜べない。
もっと練習しないといけないな。
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