あまりにも既視感があり、本当にフィクションなのか疑いながら読み進めました。作中で描かれる歪みは、どことなく薄暗い現実を表していたと思います。もしかしたら、当時の自分はそういう風に利用されていたんじゃないのか。将来、そうした人が近づいてくるんじゃないか、と漠然とした恐怖に駆られたのも本作の一押しポイントとなっています。
とにかく描写が巧みで、ノンフィクション臭が漂う。だからこそ如実に、人間の心理が伝わってくるといいますか。極端な話、地の文がなくても台詞だけで登場人物の考えていることがわかってしまう。それは人間の醜い本性なのか、それとも一人歩きした虚栄心なのか。子をもつ親なら、本作の言わんとすることにより深く共感できるのかもしれません。
這い寄る恐怖と対峙する親子。その姿に、心が揺さぶられること間違いなしの一作です。