第5話・スポ少サッカー
4年生の秋頃だったか、幼稚園からの友達に誘われたらしく佑太がスポ少のサッカーチームに入りたいと言い出した。
私設のサッカークラブとかではなく、学校主体のスポーツ少年団の方だから、コーチ陣はボランティアみたいなものだし、はっきり言って月謝は安い。その代わり、保護者の負担はめちゃくちゃ大きい。月1、2で回ってくる当番もそうだし、試合などの遠征があれば車を出す送迎当番もある。学校のグラウンドを使わせて貰うから、外用トイレの掃除だって順番に回ってくる。
スポーツに取り組む意欲があるのは良いことだけれど、下の娘がまだ小さい我が家には頻繁に回ってくる当番をこなせるとは思えないし、高学年になれば試合シーズンは毎週末が朝から夕方までサッカーの予定で埋まってしまうと聞いて、私は佑太を宥めたりすかしたりしながら諦める方向に話を進めようとしていた。
「いいじゃん、佑太が本気でやりたいんなら、俺が全部やるよ」
前もって予定が分かるなら土日の仕事は休めるように調整できるから、と夫が佑太のスポ少加入に賛成する。
「でも、チーム内での連絡とかはマメにチェックできる自信ないし、それだけはお願いするわ」
主にグループLINEで連絡事項のやり取りしていると聞いていたので、それは私の受け持ちとなった。
佑太を誘ってくれた子のママと連絡を取ると、学年のリーダーをしてくれているママからすぐに電話があり、次の週末には体験入部させて貰えることになった。
今の時代は親の負担が少ないクラブチームの人気に押されて、昔ながらのスポ少はメンバーが集まりにくいらしく、佑太の加入は大歓迎された。入部を決めてからスポーツ用品店でボールやスパイク、練習着、バッグ等の一式を揃えると、佑太は部屋の片隅にサッカーコーナーという名の専用の置き場所を作り始めた。そのあまりにも嬉しそうな様子に、入部を勧めた夫はとても満足そうだった。
人数が少ないながらも、幼稚園からの知り合いも何人かいたし、子供同士の仲良い子も多く、グループLINEでの親同士の交流には割とすんなり溶け込めた気がする。
入部したのは年明けで、試合シーズンではなかったから思ったより親の出番はなかった。月1で救急箱と予備のお茶を持ってグラウンドの片隅で待機する当番くらいだ。
土日に半日ずつの練習をこなしている内に、佑太もそれなりに様になって来たかなと思った頃、いつものように練習着を泥だらけにして帰って来た息子から、この上なく嫌な報告を受けた。
「今日の練習、カズ君が見学に来てたよ」
――ああ、またか……。
思わず溜息が漏れた。
まだ小さい次男君もいるし、旦那さんは土曜は必ず仕事だと聞いているから、我が家よりも入部へのハードルは高いはず。なのにそれでも一応は見に来るんだ。
どうしてそこまで我が家の動向が気になるのだろうか、不思議でしょうがない。カズ君ママは私よりも若いし、仕事してるから知り合いも多そうなのに。子供同士もタイプが全く違うし、比べられることなんて無いのに。
モヤモヤしながら夕食の準備をしていると、LINEにメッセージが届く音がした。ホーム画面に表示されていたのは、カズ君ママからのメッセージだった。
『どうしてスポ少にしたの? サッカークラブなら親がすることは少ないんじゃない? 下の子がまだ小さいのにスポ少は無理でしょう?』
とっくに入部を済ませているのに、無理だと言われてしまった。一緒にサッカークラブに変えない? とかならまだ分かる。いや、変える気はないけれど。
どうしてカズ君と何でもお揃いにしないといけないんだろう。同じに出来ないからと、逆ギレのようなメッセージを送りつけられてくる意味が分からない。
家族ぐるみで仲が良くて何でもお揃いにしたがるのなら理解できるが、そもそも私とカズ君ママは仲良しでも何でもない。どちらかと言えば、避け合ってる節があるくらいだ。
夫同士は互いの顔も知らないし、子供達もあまり気が合わないようだし、何なら佑太はカズ君のことを嫌がっている。
――なのに、なんで?
遠巻きに監視されている気分だった。何をやっても後から追いかけて来られる。関わりを持ちたくないのに、気付いた時にはお揃いにされてしまう。
――怖い。ううん、怖いというより、気持ち悪い。
『サッカーのことは夫に任せてるから、私は特に何もしないよ』
私がそう送った後、カズ君ママからの返信は無かった。
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