第14話 アマネのやらかし
空中戦を演じる巨大エネミーと
「バティディアなんかどこにいたんだ」
呆れ顔で見るカイトと裏腹に、エーファは焦燥のにじんだ顔で空を見ていた。バティディアが扇状にビームを放射し、飛竜はそれをかいくぐりながら接近戦を挑んでいる。師であるリクが強いのはわかっているが、それでも心配でたまらない。
「そんな、先生お一人でっ……」
「エーファ、隊の連中を連れて拠点に戻ってくれ。オレはリクを手伝いに行く」
「はいっ! お願いします!」
エーファは即座にうなづいた。すぐにでも駆けつけたいが、それができないならカイト以上の援軍はいない。
その時にはもうカイトはエーファの声を背に走り出していた。超人の身体能力全開で木を蹴り、まっしぐらに空へ飛び出す。落ちかかったところでスキルで宙を蹴ってもう一度ジャンプ。ちょっと距離が足りないなと思ったところへ、旋回した飛竜が飛んできた。戦略マップを見ながら戦っていたリクが、カイトの接近に気付いて迎えに来たのだ。
「ありりー」
「おう。ソロだと面倒なところだった」
リクの後ろにつかまって、カイトは拾ってくれた礼を言う。子供体格だから二人乗りも余裕。
「どうする?」
「んー、上に落っことして」
「了解」
打ち合わせとも言えない声掛けだけで済むのは、長年一緒にプレイしてきた仲だからだ。
バティディアの上を通り過ぎる飛竜から、カイトが飛び降りる。背に着地したカイトは左右の手にブレードを呼び出した。そのまま片方のヒレにあるコア目指して疾走する。
それを見たリクも飛竜を回り込ませて反対側のコアに槍を向けた。
「そりゃあ!」
カイトが回転するようにコアに向かって左右のブレードを振るった。ツインブレードの
「ちっ、フル強化の☆10だったら一発でコア割れるのに!」
手持ち武器のレア度に不満をこぼしつつ、尻尾側へ退避していたカイトは衝撃波が収まるのを待って再度突撃。
何度か攻撃を繰り返すとコアが破壊され、バティディアが汽笛のような叫びを上げてのたうち回る。さすがにしがみついていられずにカイトは振り落とされた。が、滑り込むように飛竜が先回りして途中で回収する。
「ありり! いやあ、
「あとは頭だな」
「んだ」
ゲームの時は、コアを狙うには降下してきたタイミングで攻撃するか、移動系スキルや
だが今は違うゲームが共存しているため、飛竜という空中戦力がいて運んでくれる。しかも相方はどう攻略するか知っているので、サポートも行き届いていてやりやすい。
赤と青の少年は阿吽の呼吸で巨大なエネミーを追い詰め、やがてコアを破壊されたバティディアは力を失って弱体化。残りHPを削り切られ、黒い粒子となって消え去ったのだった。
リクとカイトを乗せた飛竜が拠点に戻ると、大歓声と拍手が出迎えた。巨大な空の怪物をたった二人で討伐したのだ。戦闘職の者たちはリクとカイトの強さをある程度知っていたが、拠点が襲撃されたことで初めて、生産職たちも守護者の実力を目の当たりにしたのだった。
「さすが御使い様だ!」
「先生ー!」
「カイト様かっこいいー!」
現場にいた職人たちはいち早く逃げ出しており、何人かいた怪我人も僧侶たちの回復魔法で治療されていた。というわけで被害は第三区画の建造物のみである。
「おつかれー」
他の人々と違ってアマネのテンションは低かった。せっかく積み上げた塔を破壊されたことと、大型ボスとはいえゲームで散々倒した敵だったので他の者ほど危機感はない。勝って当然の敵だったのである。
「しかしなんで拠点が襲われたの?」
外から駆けつけたカイトが首を傾げた。拠点は安全だと思っていたから、被害が出ているとは思わなかったのだ。
「そうだよ! ちゃんと女神像があったのに!」
アマネが眉を下げ、不具合と言いたげに唇を尖らせる。リクは少し考え、アマネを振り返った。
「おそらくはみ出したんだろう」
「は?」
「守護の効果範囲っていうのは球形なんじゃないのか?」
「えっ……ああああ、そんなあ!」
女神像を置く時のエフェクトを思い出し、アマネは頭を抱えて崩れ落ちた。アマネは女神像の効果範囲を考えて区画の広さを決めている。水平方向の範囲は当然把握していた。それを垂直方向で考えれば原因は明白。
「多分だが、あの塔が高すぎたんだ。それでバティディアに気付かれた」
「あー、なるほど」
ひょいとジャンプして現場を見たカイトが納得した。てっぺんから突き崩された塔は半分ほどの高さになっている。
「うう……みんな、ごめんなさいー!」
アマネは事故に巻き込まれた人々に平謝りである。幸い皆、アマネを責めることもなく許してくれた。
「まあ、上空にああいうのもウロウロしてるってわかってよかったんじゃ?」
「だな。飛行タイプの兵種を育成する時は注意しないと」
「一度二人で掃除にいく?」
男子二人がそんな話をしているが、アマネはやらかしたショックでどんよりとへたり込んでいたのだった。
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