第11話 育成方法
「み、御使い様!?」
「いや、確かにそうなのかもしれんが……」
「そんな大層なもんじゃ……」
顔を見合わせる三人。胸の前で手を組んで見上げてくるエーファに、拝まれているような気分がして大変に居心地が悪い。
「あ、あたし部屋用意してくるっ! 食事も四人分作らなきゃだし!」
真っ先に逃げ出したのはアマネだった。
「力仕事手伝う!」
続いてカイトが逃亡した。アマネ自身が石ブロックを積んでいる時点で力仕事などというものは存在しない。ただの口実だ。
残されたリクは嫌でもエーファに対応せざるを得なかった。
「……まあ、俺の担当なのは間違いないか……」
リクの目に見えるエーファのステータス表示は『
「再生された人類はどうなるのかと思っていたが、ゲームシステムも適用されるんだな……」
リクは転生の交渉をした時の女神ティエラを思い出す。できるだけの援助はすると言われた。システムの適用もその一環だろう。
例えば今後人が増えた時、生産をアマネだけに頼るわけにはいかない。開拓や防衛だってそうだ。三人だけで何もかもをカバーすることはできない。エーファが『紋章』ステータスということは、新たな戦力が増えたということ。
リクはエーファの手を取って立たせた。
「こういうのはいらない。俺たちは君を保護するが、ちゃんとその分は働いてもらうつもりだからな」
「でも……」
「ここで一緒に暮らすんだ。もっと砕けてもらって構わないよ」
エーファはしばらく戸惑うようにリクを見ていたが、身長差もあってどうしても見下ろすことになるので諦めたようだ。
「わかりました。あの……」
「リクだ」
「はい、リク様」
「様……」
何とも言えない表情になってリクは口を結んだ。さっさと逃げた二人を巻き込んでやると決めて、リクはカイトとアマネを紹介するためエーファを家へ連れて行った。
「じゃあ拠点の拡張始めるね!」
朝食のあとアマネが宣言した。
再生人類第一号が見つかった以上、今後同様の人々が見つかる可能性が高い。そうなれば今の拠点では手狭だ。住居はもちろん、農作物や家畜も増産しなければならない。
何かわくわくした表情なのは、大義名分を得てクラフト欲のまま爆走するつもりなのだろう。
「あー、アマネ」
「なに?」
「エーファさんのために教室を作ってほしい」
「え? ……あーっ!!」
「まさか!」
エーファのステータスについては昨夜のうちに話してある。リクの注文はそれを踏まえてのものだが、アマネは一瞬首を傾げ、それからはっとして叫んだ。遅れて気づいたカイトも声を上げる。
「ちょ……そこまで読んでた!?」
「だから先生か!」
「当然だ」
リクは眼鏡の位置を直して胸を張った。
人気ゲームである『
『
プレイヤーはまだ騎士や魔術師といった職業を持たないノービスを指導し、スキルを伸ばすことで目指す職業につかせる。普通なら実戦でしかスキルやレベルを上げられないが、この八作目だけは教室で学ばせることが可能。安全に序盤の育成ができるのだ。
「リアルに考えれば人を教育するって何年もかかるだろう? でもゲームシステムを使えば圧倒的に早く能力を伸ばせるし、ステータスを見て適性も確認できる。比較的早く自衛くらいはできるようになるはずだ」
「くっ、さすがリク……!」
「女神様を言い包めただけはあるぜ」
「実際に転生するまではどうなるだろうと思っていたが、カイトのクラスカウンターが機能したんだ。それらしいものがあれば授業で育成できると思う」
アマネとカイトが眼鏡の深謀遠慮に仰け反る。だからこその軍師。だからこその司令塔。
「く……こうなったら士官学校再現してやる……!」
「いや、そこまでしなくても」
「クラフター的に! 負けるわけにはいかない!」
「なんの勝負だよ!?」
アマネが作業台を抱えて飛び出していった。慌ててカイトがそれを追い、リクも続こうとして途中で振り返る。
「あー、エーファさん! 家で待っててくれ!」
「は、はい!」
防壁の外に出たアマネは拠点を作った時と同じように整地を始めていた。カイトが邪魔にならないところで周囲を警戒している。
「カイト、一応今のところ周囲におかしな動きはない」
「らじゃー」
エフェクト音が連続するいかにもな工事現場を横目に、リクはカイトと本日の予定を相談する。
「今日はオレはここでアマネの用心棒かな」
「うむ。俺はエーファさんに兵種の説明や志望先の聞き取りをしようと思うんで、こっちは任せていいか?」
「ういうい。そのうちリクは本当に軍を率いるようになりそうだなあ」
カイトがくすりと笑って言った。リクは目を逸らし肩をすくめる。
「マップに何か見えたら声をかける。頼んだぞ」
「任された」
午前中のうちにアマネは整地を終え、中央に女神像を据えた。守護範囲ギリギリまで取った敷地は三人の家がある拠点よりも広い。元の拠点を第一区画、隣接して広げた部分を第二区画と呼ぶことにした。
「リク~、教室こんな感じだったよね?」
「ああ、ありがとう。よく覚えてるな」
急いで仕上げてもらったので外装はただの箱だったが、黒板や長机が置かれた部屋のレイアウトは、リクにも見覚えのあるものだった。
「まあ建物のデザインとか参考にしたりするからね」
「なるほど。じゃあ昼から授業やってみるよ」
「ん。がんばってー」
アマネはリクに手を振って扉から出て行った。すぐに建築のエフェクト音が聞こえてきたが、拡張工事中なのでリクはあまり気にしなかった。
夕方までエーファに講義をしてリクが教室を出ると、周辺には建設予定地としてきっちり土台が敷かれていた。遠からず帝国士官学校が建ちそうだ。
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