第10話 最初の少女
リクとカイトが拠点に帰ると、防壁の内部は様変わりしていた。拡張された畑に、小規模な林。どちらもまだ苗の状態だが、ゲームと同じなら三日もすれば収穫できる。材木もだ。
「休んでろって言ったのに」
「えー、だって物資はたくさんある方がいいじゃない。植えておけば増やせるんだもの」
「ヒーラー職がいないんだぞ。無理は禁物だ」
「む……ホントに無理はしてないから大丈夫だよ」
アマネはかなり集中力がある方だ。夢中になりすぎて病気にでもなられたら色々と困る。だが拠点が満足いくものになるまで止まらないかもしれない。
「なんか建物も増えてるんだけど……」
カイトが家の横に別館のように建っている建造物を見て言った。倉庫には見えない。やや未来的外観はどこか見知ったもののような気がする。
「あ、記憶にある感じで『SOO』のクラスカウンター作ってみたの。もしかしたらカイトのクラスチェンジとかスキルツリー取得でいるかもと思って」
「う……」
タイムリーすぎてカイトは文句が言えなくなった。ゲームでは確かにサブクラスやスキルをセットするための施設があり、そこでしか操作はできなかったのだ。三人ともが互いのゲームを経験しているからこその気配り。宇宙船の中の一室なので内装しか見たことはないが、そう言われればデザインは『SOO』をイメージさせるものだ。
やってしまったことを言っても仕方がない。リクもカイトを促す。
「検証してみようか」
「んじゃ試してみる」
結果として、アマネ作の「なんちゃってクラスカウンター」は機能した。拠点の中――一応女神像の守護範囲内を拠点と定義した――というだけでは職の解放やサブクラスのセットはできなかった。しかしカウンターへ行けば設定メニューにアクセスできたのだ。カイトはサブクラスにマハティをセットし、今日ドロップしたメモリを使用して雷撃の
「試し撃ちはまた明日にするとして、ありがとな、アマネ」
「どういたしまして」
カイトが遠距離の攻撃手段を得たことは大きい。今日一日戦闘を繰り返してわかったが、カイトの戦闘力はリクを軽く凌駕している。リクもまだ上位クラスに転職したわけではないが、未来の科学技術と超人という設定を持つカイトはおそらく桁が違うだろう。そもそもアクションゲームは個の戦闘力がものをいう設計だ。
「そうだ、お土産があるんだ」
「えっ、なになに?」
「マママッシュがいたんで、倒したらタママッシュをドロップした。ドロップ内容は敵依存みたいだ」
「マジ? ……おおう! 黒ソックスじゃん! 大当たりだよ~!」
カイトが取り出したのは笠に突起が二つ付いたマッシュルームだ。ただし大きさは三十センチほどもある。もちろん『クラフトオーダー』のアイテムだ。色は黒で軸の下方だけが白い。突起が猫耳に見えるタママッシュは基本茶色や白だが、レア柄として三毛やトラジマも存在する。黒単色はそれなりにドロップするが、軸が白いタイプは結構なレアものだった。
「キノコ部屋作って増やさなきゃ! そしたらキノコ鍋作るね!」
猫耳キノコを抱いて飛び跳ねるアマネに少年二人はほっこりする。食事のバリエーションが増えるのはいいことだ。
朝は女神に祈りを捧げてからリクとカイトは狩りに、アマネは拠点で作物の世話や物資の備蓄に努め、時には一緒に採集に向かう。夜は皆で女神に無事を感謝し、ゲーム小物として作成可能だったトランプやダーツで遊ぶ。アマネが紙を作ったので、各自覚えているゲームシステムの仕様やスキル性能などをメモったり、リクとカイトで近辺のマップや出現エネミーのデータを記録したりもした。
各自の個室はちゃんとあるが、結局寝室は三人一緒のロフトのままだった。星を見ながらお互い今日あったことを話して眠りにつく。
そんな風に三人の暮らしが落ち着いた頃。
日も傾き空が赤くなってアマネは作業を切り上げた。毎日農作業をしたり、家畜の世話もある。ちょこちょこと防壁に手を入れたりもしていた。暗くなってもスタンドライトを立てれば余裕で作業を続けられるが、男子たちが働きすぎを心配するのだ。
カイトの多機能ブレスレットを基準に暦を決めて、アマネは週休二日八時間労働を義務化されていた。アマネにとってクラフトは趣味でもあるのだが、リクとカイトからすれば生活のほぼすべてを彼女に頼っている現状、何かあったら本気で困る。
「オレンジとバナナの収穫は明日かな」
インベントリに突っ込んでおけば腐る心配もない。クラフトゲームだけあってアマネの収納量は男子たちとは桁が違う。各種素材や食料をガッツリため込んでおり、家に設置した収納ボックスには予備の家具もちゃっかりしまってあった。
リンリンゴの籠を抱えて振り向くと、丁度門が開いた。どういうわけかエネミーは扉を開けることができないので、つまりは男子たちのご帰還である。
「おかえりー。すぐご飯にするねー」
声をかけたアマネはそこで固まった。リクとカイトの後ろに見知らぬ人影があったのだ。
ぼんやりとした様子でリクに手を引かれて拠点に入ってきたのは、亜麻色の髪の少女だった。年は十五、六歳くらいか。貫頭衣のような白い簡素な服を着て、足元も草を編んだようなサンダル。夢でも見ているような表情で拠点の中をゆっくりと見回している。
「……誰?」
「わからん」
リクの答えは簡潔だった。
「聞いても何も答えない。森で見つけたんだ。特に抵抗もせずついてきたが、再生されたばかりなのかもしれん。だから」
家や果樹園を見る少女に段々と表情が生まれ、目に光が差してきた。
「拠点に連れてくれば【
入って来た時は人形のようだった少女は目を見張ってこちらを振り返った。
「エーファ。私はエーファです、御使い様」
膝をついてそう名乗った少女に、三人は盛大に慌てた。
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