第9話 検証と考察
翌日、みんなで女神像にお祈りをしてからリクとカイトは出掛けた。信仰が神の力になるというのはよくある話だし、世界を再生しているのは女神ティエラだ。いくらかでも足しになるかもと日課にすることにした。
彼女のおかげで転生し、無事生活できそうなのだ。礼の一つもするのは当然。
今日はアマネは拠点で留守番だ。昨日大活躍した分ゆっくりするよう言ったが、多分じっとはしていないだろう。
「森が増えてる……」
昨日より明らかに緑の範囲が広がっていた。何もない平原だった場所にも草が生え、ちらほらと花をつけているものあった。大地に生命が感じられる。
カイトがぽそりと言った。
「最初からオレたちの記憶の都市を再生するってわけにはいかないのかな」
「【世界の
「そっかあ……」
「だから、一緒に文明の伝播なんてことを言われたんだろうな」
振り向くと拠点の門が見える。ゲームアイテムという形だが、あそこには文明が生きている。
「で、今日はどうするの?」
「スキルとレベルを上げたい」
リクの言葉にカイトはにんまりと手を上げた。少年二人の拳が打ち合わされる。
「いいねえ。敵がどれくらいいるかわからないけど、強くなるに越したことはないよな」
「違うタイトルの敵と戦った場合どうなるかも、早めに知っておきたい」
「なるほど。オレもそれは興味ある」
「マップに引っ掛かったら仕掛けて回るでいいかな?」
「らじゃー」
SFとファンタジーの装いの二人は、恐れげもなく森の中へ踏み入った。
ガサガサと下草を踏みしだいて走り回るズムト。集団行動が多いこの敵は、五匹の群れだった。
「リク!」
「こいつは任せろ!」
前足を振り上げて襲ってくるズムトに、リクが応戦する。現在の兵種は主人公のデフォルト職そのままに剣士。とはいえレベルは1でスキルランクも低い。
リクは冷静に剣を抜き、突きかかってきたズムトの前足を切り払った。『
「お」
大剣で敵を薙ぎ払っていたカイトが、それを横目で見て声を上げる。駄目なら助けなければと思ったが、問題はなさそうだ。
リクは返す刃でズムトの胴を両断する。すぐに戦闘は終わった。
「ふむ。感覚的には初期マップのレベル一桁の敵だな」
「ドロップ出てんじゃん。拾っても?」
「ああ……いや。俺が拾ってみよう」
「ういうい」
コンテナが出現したのはリクが倒した敵だ。ゲームタイトル違いということで何かあるかもしれない。
「なんだった?」
「……ロッドだな」
「う……」
コンテナから出現したのは『SOO』の装備品だった。超能力という名の魔法を使うマハティ用の杖だ。装備できないことはすぐわかったし、リクには不用なのでカイトに渡す。
「メモリがないと意味ねえ……」
「できれば銃器が欲しいところだったが、サブクラスの取得には使えるだろう?」
「まあね。でもここじゃセットできないっぽい」
『SOO』のクラス取得には該当するクラスのメイン武器が必要だ。ソルジャー職しか得ていないカイトは、ロッドを得たことでマハティの職を解放できる。ただ、肝心の
「なあ、ちょっとマジでドロップ狙いたいんだけど」
「俺はスキルランクで職が解放されるから構わんぞ。とりあえずは剣を上げたい。こっちも武器や魔法書が出るだろうしな」
レベルのないアマネと違い、リクとカイトは経験値と戦利品が必要だ。
「なら片っ端からやっつけようぜ!」
「実はちょっと覚えのない敵の反応がある」
「どんな?」
「ステータスを開いてみると『紋章』なんだが、『邪族』って兵種表示なんだ」
「んん? そんなのいたっけ? 見に行ってみよう」
マップに反応があるということは位置もわかっている。リクとカイトはそちらに向かい、木陰から様子をうかがった。
「なんだアレ……」
「魔物系エネミーっぽいデザインだな」
そこにいたのはベースは人型だが、角を持ち黒い皮膚のどこか歪な印象の生物だった。簡易な皮鎧を身につけ、弓を手にしている。近くには槍を持っているのが一体と、剣を下げているのが二体いる。
「見覚えはないけど明らかに敵だよな」
「……世界が再生する過程で、邪神の残滓がモンスターになると女神は言っていた。多分、ゲームの敵として現れているのがそうなんだと思う。女神像のアイテムテキストからしてもそう解釈できる」
考え込んでいたリクが、そう意見を述べた。
「邪神の影響を取り除くという意味でも都合がいいし、うまくゲームの中に落とし込んだんだろう。でも『紋章』の敵はそのまま出現させるわけにはいかないから、こんな風になったんじゃないか?」
『
「なるなる。じゃあれは一応『紋章』のエネミーってことか。確かにマップに配置されてる一小隊って感じだな」
カイトも納得した。女神から与えられたミッションは世界の再生と人類の救済だ。人間がエネミーとして出現するのは本末転倒。あれが邪神の残滓なら遠慮なく攻撃できるというものだ。
「弓から片付けるか」
「槍はオレが行くわ」
軽く打ち合わせをして二人は飛び出す。こちらに気付いた敵が意味不明の叫びを上げて武器を構えたが、その時にはリクとカイトは目標に肉薄している。
リアルになったシミュレーションゲームは、当然ターン制ではなかった。
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