第7話 クラフト開始!
リクの能力を知ったアマネは、今日は採集を優先にして欲しいと頼んだ。必要な資材を集められれば、拠点を整備して防御を固めることができる。そうすれば戦闘能力の高い二人がエネミーの討伐に行っても、アマネは安全に留守番ができる。
それにはリクとカイトも同意したので、一行は時折現れる
そして。
「さー、んじゃ整地始めるよー!」
アマネが少年二人を拠点から追い出した。そして作ったばかりの〈はじめてのハンマー〉を大きく振りかぶる。ハンマーは溜めて振ると範囲攻撃になる。とはいえゲームの性質上、溜め攻撃はもっぱらブロック破壊用だ。振り下ろす先は仮拠点の箱家。
「えっ、壊しちゃうの?」
「いつまでもこんなもんに住めるかーっ!」
少ない材料で間に合わせに組んだ仮拠点はただの直方体。土壁だけの俗に言う豆腐だ。木材が手に入った。石材も確保した。各種植物素材もある。となればまともな家に建て替えたいのは、アマネにとって当然のこと。
あれよあれよという間に異世界はじめての宿は跡形もなく消え去った。階段状の物見台も何の未練もなく撤去され、アマネは堀を埋め戻していく。
「うわあ……」
呆然とするリクとカイトの前で、ブロック積みのエフェクト音が高速で響いた。高いところは削られ低いところは積まれて、見る間にショッピングモールの駐車場かというような平面が出来上がっていく。
リクとカイトも『クラフトオーダー』をやったことはあるが、アマネほどハマったわけではない。そして完成品は見せてもらったが、アマネの建築作業を見るのは初めてだ。
「なんかオレと作り方が根本的に違う……」
「そうだな。俺も何が起きてるのかわからん」
裏技的なものでもあるのか、早送りでもしているような作業速度だ。
「ちょ、アマネ!」
「なに?」
カイトが呼ぶと、アマネは振り向いた。
「これって何やってるの?」
「え? 安全で快適なお家を作るんだよ」
「……広すぎじゃね?」
「何言ってるの。寝てる時エネミーに侵入されたらやだし、土台をちゃんとしとかないとあとで困るもん」
当然と言わんばかりのアマネに、リクもカイトも何も言えなかった。
「土台とエネミー関係あるのか……?」
「建築で土台が大事なのはわかるが……」
そういえば海の上に空中都市を作る娘だった……と男二人はため息をついた。こうなったら止まらないだろう。好きにやらせるしかない。
「あっ、アマネ! 釣り竿って作れるか?」
「ちょっと待ってー」
はっと気づいたリクが慌てて怒鳴った。アマネが没入してしまったら聞こえるかどうか怪しい。作業に戻りかけていたアマネは、その声を聞いて少し離れたところに出してあった作業台に向かった。
「はい」
「ああ、ありがとう」
「二百ブロック……後のことを考えたら倍に、いや、エリア連結すれば……」
竿と一緒に桶までつけてくれるほどには気の利くアマネだが、もう気は建築の方にいってしまっているようだ。
「釣り?」
「ああ。ぼーっと見てるのも何だし、何か釣れるかと思って」
「まあオレたちじゃブロックにならないしな」
システムが違うから当然だが、リクとカイトが土を掘ればただの土塊と穴になる。なのでアマネの作業を手伝うことはできない。
「朝昼晩リンリンゴだけというのも飽きるだろうしな」
少年二人は湖に向かって釣りを始めた。もちろんリクはマップでの警戒を続けている。アマネを示すアイコンはせわしなく動いており、背後でクラフトのエフェクト音がしているが、気にしたら負けだ。
二人が湖のほとりに立ってしばらくの後、カイトが口を開いた。
「リク」
「ん?」
「なんでそんなに釣れんの?」
カイトの問いにリクは軽く首を傾げた。
「ゲームでこれくらいのペースだったから……かな? 釣れるものも一致してるし」
桶には結構な数の魚が入っているが、それは全部リクの釣果だ。カイトは一匹も釣れていない。
恋愛要素もある『帝国の紋章』ではユニット同士に好感度が設定されている。プレイヤーキャラである主人公ユニットも同様で、意中の相手を食事に誘って好感度を上げることができた。なので食材調達のため釣りができるのだ。もちろんリクはそのシステムを当てにしていた。
それを聞いたカイトがはっとして文句を言った。
「く……なんで『SOO』には釣りがないんだ! 移住先探してるなら食料大事だろッ!」
「そういうゲームじゃないからな。それに」
「それに?」
「もしかしたらまだリアル準拠の魚はいないのかもしれん」
「がーん!!」
カイトが崩れ落ちた。三人が持ち込んだゲームシステムは不具合なく動作している。おかげで楽ができているが、今のところリアルではなくゲーム寄りに【
「ちぇっ」
「まあこれだけあれば十分だろう。検証も兼ねて釣ってみただけだし」
釣竿を片付けて振り向いた二人は、そびえたつ防壁を見て固まった。その向こうでは依然としてエフェクト音が止まない。
「なんか……」
「家というか、要塞?」
カイトがひょいとジャンプして防壁の上から覗き込んだ。
「……あ、うん。家ができてる」
「ま、まあ敵がいるのは確かだし、用心するに越したことはない」
少年二人は中を確認しようと防壁に作られた門へ向かった。
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