陸
オヤツとも夕食とも言えない
19時を目安にマットレスが届くというので
朱夏が
「さて、事務所に来た訳なんだけど、話して貰えるのかな?」
「はい。お話しします」
姿勢を正した玲奈はブラウスのボタンを1番上以外は閉めて
それでも無意識なのだろう、腕が内側に寄って胸を寄せ上げており少し前に姿勢を
……あ~、この人、本人も周りも大変そう。
「私があの場所で待っていたのは住み込みの仕事を紹介して貰った結果なんです」
「……」
思わず頭を
それが仕事を探して影鬼に紹介された等と言われれば関わるだけ面倒にしか成らない。
「その、私は昔から運が悪いのか何故か周囲で問題が起きてしまって、何とか大学を卒業はしてOLにも成れたんですが、どこに行っても人間関係でトラブルが起きて居られなく成ってしまいまして」
「お、おう」
「ハローワークや職業訓練校にも行ったのですが何故か人間関係で問題が起きてしまって行き辛くなってしまいまして」
「う、うん」
その辺で朱夏が珈琲を持って来て翠と玲奈の前に置いて後は知らん顔で自分用の机でノートPCで何かの作業を始めた。
「その、何故かどこに行ってもホステスや、アダルトな仕事ばかりを
珈琲を口に含みつつ翠は確信していた。
玲奈は恐らく本当に何も知らない。影鬼側が何を思って翠に押し付けたのかは分からないが本人に
「わ、分かった。その、何か行き違いが有ったみたいだが俺は朱夏を家政婦として
「ええっ!? もう決まってたんですか!?」
「あ、大丈夫だ。安心してくれ。君の給料はクライアントが払ってくれるらしい。完全に
「本当ですか!?」
「ああ。ただ、ちょっと、俺の仕事には関わらないで貰って良いかな?」
「え? あ、はい。分かりました」
何を言っているのか分からない様子の玲奈だが翠からしても分からないのは同じだ。
後で依頼人に聞くしかないと結論付けて、翠はポケットから取り出した
「念の為に確認だけど、この鍵はやっぱり知らないんだよね?」
「あ、はい。私の家の鍵でも無いですし、よくある形状ですよね?」
「そうだよねぇ」
大きく溜息を吐いて肩から力を抜いた翠に玲奈は反射的に身体を
何となく今までの彼女の経験が想像出来る反応だが翠もそこには触れない。
すると今まで無関心だった朱夏が声を掛けて来た。
「新しい家政婦って事は、私の後輩で良いのかしら?」
「ま、そうなるな。玲奈さん、家事の事は朱夏に聞いてくれ」
「あ、はい」
「さぁて、ビシビシ教えていかないとね」
「えっと、お
自分よりも10歳近く年下の先輩という状況は別に気にしない様だ。
朱夏に対して子供が背伸びしていると微笑ましく思えば良いのか、普通に先輩から厳しい指導されると思えば良いのか分からない様だ。
「そう言えば玲奈さん、今日から住むって言うけど今までの
「その、実は一昨日に住んでいたアパートが全焼してしまいまして、これが私の所有物の全てです」
「……え?」
「えっと、お恥ずかしい話なんですが、職業訓練校の同級生に告白されたのですが、その、50代の方で、私も好みの方では無く断ってしまいまして」
「腹いせに放火された?」
「……はい」
「凄いわアンタ」
もう何も言う気にならず大きく溜息を吐いて今度こそ頭を抱えた
翠に視線には気付いている様だが素知らぬ顔をしており
「ん? 待ってくれ、男と付き合った事が無いって言ったが、まさか処女なのか?」
「んなっ!?」
顔を真っ赤にした玲奈を見て図星だと分かった2人だが今まで無視を決め込んでいた朱夏も今回は驚いた様だ。
ここまで無自覚に色気を
考えてみれば家が全焼した直後に住み込みの家政婦の仕事が決まるのだから運のバランスが悪いのだろう。
だが蒲田という飲屋やキャバクラ等が多い街で玲奈の様な女が歩き回っていたら危険だ。特に夜や人気の無い場所等は
思わず朱夏に視線を向けた翠だが、状況を察したのか思い切り視線を
「じゃ、着替えとかの買い出しは朱夏に頼ってくれ」
「無理!? この人、絶対に無理!?」
「え、ええっ!?」
「通販にしときましょっ。1日2日は掛かっちゃうけど、それまでは私が外で適当に買ってくるから!」
「いや、下着とか試着しないと分からねえんじゃねえの?」
「ぐっ!」
「そうですね。下着の通販はフィット感が分かり
「……行くなら3人で行くわよ。絶対に2人じゃ行かないから!」
「いやぁ、俺は仕事が有って」
「アンタの仕事は私も把握してんのよ! 逃げられると思ってんじゃないわよ!」
「えっと、2人は恋人でお仕事をされているのかしら?」
「違うわよ! こんな社会性ゼロのクソ野郎の恋人に成る訳無いでしょ!」
「え、社会性ゼロなのにこんな事務所を丸々持ってるんですか?」
「くっそ、話が進まない!」
「落ち着けって朱夏。昼間なら大丈夫だって……多分」
「小声でも聞こえてんのよ!」
翠と朱夏が玲奈の事を押し付け合っている間に19時に成り、インターフォンが鳴った。
依頼人の通達通りにマットレスが届き、その他にも生理用品やスウェット等の部屋着も有り朱夏が買い出しに出る必要は無くなった。更に玲奈が生活に不便しない様に影鬼が用意したクレジットカードも入っており名義やパスワード等の情報が書かれた書類も同封されている。
それでも下着や外出用の服が無いのは変わらないので近日中に玲奈の買物は必要だ。
届いた物品の中にも翠が回収した鍵が合う物は無い。やはり何を思って玲奈が翠に紹介されたのかは分からない。
考える事が面倒に成ったので明日の自分に全てを押し付けて翠は2階事務所から引き揚げの号令を出した。
▽▽▽
影鬼事務所蒲田支店に
人間の特性として男は集団で、女は個人で部屋に居る事が向いているらしい。
そんな
朱夏にしてみれば玲奈を警戒しての
玲奈には事前にシャワールームを使わせ、終わったのをノックの
「あの、シャワーありがとうございました」
そう言って扉の隙間から顔を出した玲奈は
「別の私が用意した物じゃないから」
事務所での話を聞いても玲奈が四鬼や影鬼といった妖魔に関わる人種には見えないというのが朱夏の感想だ。だからといって本当に関係無いかと言われると確信は無い。
今は深入りしない事にして朱夏は玲奈を
ただ髪の湿り気は朱夏が以前に
……あの船に居たら凄い
これだけの色気を
朱夏は可能な限り玲奈から視線を外して廊下に出てシャワールームに向かう。
擦れ違った玲奈が妙に良い香りをさせていて困惑する。同じシャンプーやリンスを使っている筈なのに何が違うというのか。
意味が分からず溜息を吐く朱夏に怯えて廊下の端に身体を寄せる玲奈だが、朱夏も流石にこれは玲奈に責任は無いと思っている。
「別に玲奈さんを嫌っている訳じゃありませんよ。ちょっと色気が凄すぎて直視出来ないだけです」
「へ? 色気、ですか? 私、地味ですよ?」
「うわ、気付いてなかったんだ。あのねぇ、本当に色気が無かったら風俗系の仕事を
「そうなんですか? お前に出来る仕事はそれくらいだ、って意味だと思ってました」
「今までの人の事は知りませんが、私は少なくとも玲奈さんが仕事を探してたらキャバクラとか提案しますよ。それくらい色気凄いですから」
「そ、そんなにですか」
「ええ。同じ女でも直視してると顔が赤く成りそうですから」
「そ、それはすみません」
「別に玲奈さんのせいじゃないんでしょ。困ってる人に追い打ちかける様な事はしたくないですよ」
それだけ言って今度こそ
影鬼事務所蒲田支店のシャワールームにはシャンプー、リンス、ボディソープは1種類ずつしかない。
つまり玲奈も同じ物を使った筈なのにあの色気の有る匂いを出したのだ。やはり意味が分からずに困惑する朱夏は手早くシャワーを済ませて自室に戻った。
そのままその日は
覚醒するにつれて
朱夏が押し返そうと手を伸ばしたのは玲奈の胸で、思わず軽く揉んでしまった。
揉まれた感触に玲奈が甘い吐息を
……この人は息に
思わず脳内でツッコミを入れつつ朱夏は本格的に玲奈を
家出したとは朱夏は
だが玲奈は
その間に腕だけでなく足まで
「このっ、起きろ!」
これ以上、玲奈の色気に当てられ続けたら可笑しくなる。
その確信が有ったから朱夏は強行手段として開いた左手で玲奈の頭を殴った。
流石に殴られれば目は覚める様で痛みと寝惚けを同居させた玲奈が薄目で目を覚まし、まだ寝惚けているのか
「起きろっての!」
薄くしか開いていなかった目は完全に見開かれ、朱夏の顔がかなり近くに有る事の驚いた様だ。
「あ、あれ? 一緒に寝て、ましたっけ?」
「そんな訳無いでしょ。ここ、私の部屋よ。玲奈さんが寝惚けて私を抱き締めてるの!」
「え? え? えっと、ごめんなさい?」
「良いから離れて。さっきも言ったけど、玲奈さんの色気、ヤバイのよ」
「え、でも、朱夏ちゃん、温かい」
「止めろ! 私にレズの気は無い!」
「ああっ、ごめんなさいっ」
本格的に玲奈の危険性を認識した朱夏は絶対に部屋に鍵を掛けると決意して玲奈から距離を取った。
先程までの体格や見た目の筋肉量に見合わない力は既に無い。アレが無意識だとしたら、やはり玲奈には何か本人も自覚の無い秘密が有るのだろう。
今まででも特大の溜息を吐いてマットレスから降りて立ち上がって玲奈を見下ろした。
スウェット姿なのは変わらないが髪は毛先に近い辺りでシュシュによって
……何で私が同性にドキドキしなきゃいけないのよ!
玲奈も察しは悪くないのか朱夏の出て行けという指示は伝わった様でゆっくりと立ち上がって退出していく。
少し
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます