災禍の底ー2021年9月
壱
海上のカジノホテル、そう表現される程度に金と権力の集まる
月に照らされた純白の船体に似合わず船内は金が
全員が人目を気にしたマスクを掛け男も女も
それを含めて知らぬフリをするのがここのマナーだ。
そんな欲望に満ちた客船の中、
扉の中は十字架に
しかし日本人デザイナーが男を喜ばす為にデザインしており
修道女ともシスターとも明確に区別できないが妙に身体のラインが強調される聖職者風の服の女が数人、聖書らしき本を持って距離を取って席に着いている。
その女たちを
ここの客だが1人は若い実業家と表現されそうな細身の
知り合いではないらしく互いに簡単な
「表のカジノには興味が無いのですかな?」
「はは、少々
「ああ、それはお気の毒に」
「そちらこそ、どうされたのです?」
「昔から神聖な物に引かれる
「それは信心深い。良き事です」
軽く話して、実業家の男は最奥の若い女に声を掛け懺悔室に
少し後にスキンヘッドが別の女に声を掛けて懺悔室とは別の扉に入っていく。
懺悔室に入った2人、実業家の男が先に話し始めた。
「ここに来て長いのか?」
「ええ。ここは迷い人が多いですから」
「そうか。俺も君からすれば迷い人か?」
「貴方は違いますね。迷いが無いとは、貴方を知らない私には言い切れませんが、少なくとも強く目的意識を持っています」
「ここの客は大なり小なりだと思うが?」
「ええ、8割はそうです。しかし中には悩みを晴らす為にこの船に来られる方も居ます」
「意外だな」
「どこまで行っても人は人、必ず例外が有り少数派が居ます」
「なるほど、真理だな」
「ええ。それよりも本日は
懺悔室の中か、それとも奥のベッドルームか、そういった意図の選択肢だが実業家の男は懺悔室を選ぶ
静かに這い寄る女が男の
「震えているな」
「……そうでしょうか?」
「君の
「……何を
「まあ今は楽しもう」
「……分かりました」
渋々と男の言葉に従い女が膝に乗って男に抱き着く。
やはり身体は小刻みに震えており明らかに経験が少ない事が分かる。男の調べでは女が客を取るのは今日が初であり先程の言葉も運営が指導したマニュアルに
「さて、事前調べだと
「……」
ほぼ
男が手を動かす度に小さく震える女の反応を見て確認した男は女の耳元で鼻で笑い手を離した。
何事かと怪しむ女に対して男は両手を上げてみせた。
『自分で思いつくようにしてみろ』
男のジェスチャーをそう取った女は震えを
その
「いや、すまない。今日は女を抱きに来たんじゃないんだ」
「……何だって言うの?」
「君を選んだのは1番口が
そう言って足元の開いた壁から脚だけでスイッチを操作して隠し扉を開く。
スイッチの位置まで調べ
「結局、やる事はやるんじゃない」
そう
女が男の
その瞬間、男の周囲に翡翠色の鎧が現れ男の身体を
右手に
「……鬼」
「まあ、正確には違うんだがな」
そう言った翡翠の騎士は壁に向けて腰を落として右腕1本で薙刀を引き絞る。
「斬り飛ばせ」
マントが薄く発光し槍が金属ではなく、光の
「
翡翠の騎士はその刃を
その動作に合わせて
男が薙刀を振るった先、スキンヘッドが女を連れ込んだ部屋が有る壁には傷1つ無い。
しかし女の想像力は既に答えを出していた。
「どちらかが、妖魔だったんですか?」
「うぅん。秘密って事で」
「貴方、鬼だったの?」
「ちょっと違うんだが、まあ気にするな。お互いに騒ぎは嫌だろう?」
「……ええ」
「俺はもう帰るよ。君も仕事に戻った方が良いだろう?」
「貴方、特殊部隊とか、何かなの?」
「ははは。言ったろ、気にするべきじゃない。それとも俺に付いてくるのか?」
「……私は」
「
「……本当に調べてあるのね」
「言っただろう。口が堅そうだって」
静かになった朱夏に薄く笑い掛けて男は小さく伸びをした。
懺悔室と同じ、思う事をやってみろと言いたげなその姿に朱夏はベッドから降りた。
「連れて行って。役に立ってみせるわ」
「へぇ。どうやって?」
「……夜のお世話とか?」
「漫画の読み過ぎじゃないか?」
「くっ」
「
「鬼に成れる程度には訓練したけど、最後まで終えてないわ」
「マジか。まあ聞いといてなんだけど戦力は求めてない」
「何なら求めてる?」
「家政婦」
「え?」
「家政婦。正直、家事をやってくれる奴が居ると本当に助かる」
「花嫁修業もさせられてたから家事は一通りできるわ」
「良いね。契約成立」
手を差し出した男の手を朱夏が取った。
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