参拾陸
ステルス妖魔を全滅させたとのニュースが世間を騒がせる中、警視庁の1室で
「やっと、終わったか」
ただのチンピラが
報道関係者や一般人からの情報開示や調査の
「情報が有っても身を守る
普段ならわざわざ口にする事も無いが彼は数ヶ月に渡って感じ続けて来た緊張から解放されて口が軽く成っていた。
そんな警視正の個室にノック音が響き、入室を許可するとあまり見たくない顔が入って来た。
四鬼の1人、雷電佐右ヱ
そして完成されているからこそ擬態が可能なのだ。
自分が普通ではないと理解している者にとって普通を演じる事は可能だ。
警視正から見ても佐右ヱ門はその
「四鬼が私を
「そうですね、少々込み入った用が有りまして」
言って佐右ヱ門は室内を軽く見渡し、警視正と視線を合わせると
何が起きたか分からず、しかし警視正の脳が佐右ヱ門の消失に対して何かの反応を示す前に右手で首を掴まれ持ち上げられる。
思わず悲鳴を上げそうになった警視正だが佐右ヱ門が
急激な変化に理解が追い付かないが気道を一瞬でも
それは
佐右ヱ門はいつの間にか
夜と雷を思わせる黄と黒の装甲を身に
過去の
国防の為にも四鬼に軍事的訓練を
そんな相手が自分の首を締め上げている。
いつでも
やっとステルス妖魔の緊張から解放されたと思ったら今度は四鬼に殺されかけている。
何が起きたか分からないが理由無くここまでの
「何の、つもりだっ」
「簡単に言えば30年前のツケを払って貰おうというだけだ」
そう言って開いた左手で警視正のノートPCを持ち、メールを開いて入室直前の佐右ヱ門の着信を開き内容を警視正に見せた。
メールには複数の写真と音声データが
「なっ!?」
「お前単独ではない事は知っているし、生存している関係者の下には別の人員を派遣済みだ」
「ま、待て!」
「
「し、知らん!
「黙れ。知りたい事は知っているし、調べるべき物は調べ尽くした」
「わ、私は巻き込まれただけだ!」
「なら正しく抵抗するべきだったな」
雷電鬼の右手に力が込められ、
ゴミを捨てる様に床に警視正を放り投げた雷電鬼は魔装を解除して佐右ヱ門の姿に戻る。
「妖魔等よりも
今回の事件を機に、少しはマシな人員が要職に
▽▽▽
警察関係者の
教師陣も
実は上級生に囲まれた件で目を付けられているので後で不参加について怒られるのだが、例え未来が見えても裂は卒業式をサボっただろう。
スマートフォンで漫画を読みつつ紙パックのカフェオレにストローを
事前に配布された卒業式のレジュメに書かれた終了時間が近付いてきた。裂は休憩ルームから人気が無く部活等でも使われない資料室に移動してパイプ椅子を置いて
妖魔を
そのメッセージを文字通りに信じる様な素直さは裂には無いが、確かに見える
影鬼からは週1のペースで指名の妖魔調査依頼が有るので影鬼と四鬼の間で取引が有ったのだろう。
妖魔の反応も意図的に近い物が反応しない事も無くなり適当に近場で小遣い
……このまま何も無ければ卒業して蒲田支店に移って適当に過ごしたいもんだ。
高校2年生にして
カフェオレは飲み掛けのまま教室に戻るのも面倒に成った裂はスマートフォンを仕舞って身体を伸ばした。
そのタイミングを見計らった様に勢い良く資料室の引戸が開かれた。
驚きはしたが面倒臭そうに裂が扉に向けて首だけ振り返ると冷たい目をした麻琴が鼻で溜息を吐いて入室し引戸を閉める。そのまま裂の前にパイプ椅子を置いて腰掛け、裂の手からカフェオレを奪い残っている事を確認して一気に
「おいおい、後輩の
「2ヵ月でサラリーマン平均年収より
嫌な
「よ、犯罪者の娘でも卒業出来る高校って証明した女」
「長いし
「後輩に厳しくない?」
「
「そんな
ここまで不機嫌な麻琴を見た事が無い裂だが、恐らく卒業式の最中や後に人に囲まれて面倒だったのだろう。だから気を遣う必要も無い裂を探し出して
そう予想して裂は何か
「何をそんなに
「卒業式だからって面倒な呼び出しが多いのよ。全部無視してきたわ」
何度もストローを
「お疲れさん」
「今日で最後なのが唯一の救いだわ。声かけて来た連中は連絡先もさっき全部ブロックよ」
「お~、
「どうせ大学は別だし
「そう言いながらさっきからスマホ鳴ってね?」
「
ブロックしていなかった者達からの連絡の様だ。
麻琴はスマートフォンの通知を全て切って仕舞い、
「持ってるなら俺のカフェオレ要らねえじゃん」
「糖分が欲しかったのよ。これ、ミネラルウォーターだし」
「それで後輩のカフェオレ奪って良い理由には成らねえよ」
溜息を吐いて諦めた裂を見て少し
やっと機嫌が直った麻琴に
「そういや四鬼から何にも
「私? まあ当主に何か
「あ、それでか。一応、礼は言っておくか」
「要らないわよ。
「それで俺の事言ったのかよ。適当に金くれとか言っとけば良いじゃん」
「お金に困って無いのよ」
「じゃ影山ってあのお姉さんを専属にして貰うとか?」
「私が
「俺はカフェオレ奪われて
「貴方は良いのよ。今日で最後だし」
「
「どうせボッチでしょ。しかも自主的な」
「うわぁ酷い」
2人で
「別に言い寄って来る奴だけじゃねんだろ? 仲良いクラスメイトとか良いのか?」
「友達とは後でカラオケの約束してるし良いわ。学校内に居る間が1番面倒なのよ」
「人気者は大変ですな」
「煩い奴等が
「卒業生が卒業式の後に資料室に来る方が
「そういう意味では貴方も人の裏を取るのが得意よね」
「1人に成りたい時に凄い楽だぜ」
「在学中に聞いておくんだったわね。あ、そう言えば迷宮では世話に成ったわね」
「あん?」
「走る時に私だけ付いていけなかったでしょ」
「ああ。適材適所だろ」
「何かお礼をした方が良いかしら?」
「ご当主に四鬼からの監視を外して貰えただけ充分だよ」
「そう。なら貸し借り無しにしておくわ」
「そうそう。大学は渋谷だっけ?」
「ええ。魔装についての学科が多くてね」
「いやぁ、平和に成りそうだ」
「ボッチを平和と言うのは末期よ」
「良いんだよ。卒業後は蒲田支店に行く事に成ってるし、1年を適当に過ごして新天地だ」
「
「止めろよ? 俺はもう
「別に指名はしないわよ。ちょっと私の要望に
「高校生でその腹黒さは本物だよ」
「大丈夫、今の私は高校生じゃないわ」
確かに麻琴は今日で高校生を卒業し、大学入学までの数週間は所属が無い状態だ。悪態を吐く時には名前で言うしかない。
他に何か逃げる話題は無いかとステルス妖魔について考えていると裂はふと思い出した事が有った。
「そういや、龍牙は今後はどうすんだ?」
「あ、忘れてた」
「おいおい。多感な中学生男子の心を
「いやだって、好みじゃないし」
「
「はいはいごめんなさ~い」
全く心の
「龍牙君とは貴方に会う事はないでしょうね。当主が一家丸ごと
「いや人外に成ってたら脱走して俺に逆恨みして来るかもしれないじゃん」
「まあ私も彼らがどうなったか知らないのよ。当主からは知りたいかって聞かれたけど興味無かったし」
「わぁ酷い」
「貴方だって似た様なものでしょ。ああ、無駄話をしている間に結構経ったわね」
「そういや廊下も静かに成ったな。大体は帰ったか」
「じゃ、私はカラオケに行ってこようかしらね」
「おうおう行け行け。俺は教師連中に見つからない様帰るわ」
「捕まって怒られちゃいなさいよ」
そう言って立ち上がった麻琴はパイプ椅子を元有った場所に戻し引戸に手を掛ける。
「ああ、一応誤解が無い様に言っておくわ」
「あん?」
「結構楽しかった。専属鬼が貴方で良かったわ」
「……明日は槍でも降るのか」
「最後のサービスよ。
「へいへい、ありがとうございます」
「よろしい」
「あ、俺も最後に」
「何?」
「卒業おめでとう」
「……ありがと。じゃあね」
互いに素直な言葉を向けた覚えは無い。最後だからと
それ以上は何も言わずに麻琴は資料室の引戸を開いて退出し、静かに成った資料室で裂はスマートフォンを取り出し漫画アプリを開いた。
別にさっきの言葉に
……ま、面倒でも退屈はしなかったか。
何となく苦笑して裂はスマートフォンに視線を戻し、帰り際に教師に捕まり卒業式に不参加だった事について注意受けるとは知る
◇◇◇◇◇
灰山裂と影鬼麻琴のお話はここで一区切りとなります。
次回から主人公を交代し同じ時間軸で別の視点を始めます。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます