参拾伍
状況が分からずに
女は扉を開けて無言のまま入室を
相変わらず何も喋らない女に潤は溜息を吐き、
女は2人の入室を確認すると共に入室して扉を閉め扉に背を預けて姿勢を崩した。
麻琴も潤も室内で既に椅子に座って待っていた
老人にも関わらず異様に存在感と圧迫感の強い真打に
「こんばんわ、お爺様」
「ああ、2カ月ぶりか。
「はい。今日は危なかったですが、潤に助けられました」
「ははは、そうか。影山の娘っ子だったな。孫が世話に成った。礼を言うよ」
「
「妖魔の打撃を受けたと聞いている。後で
「ありがとうございます」
「あら、
「お嬢様!?」
「くくく、お前は前線には向かんよ。
「お爺様にそう言われては仕方有りませんね」
祖父と孫は
真打の左右には体格の良いスーツの男が控えており、その男達の足元には3人の男女が転がされている。
全員が口を
車内で思い付きで話した内容が正解なのかは知らないが、真打が集めた時点で裏取りも完了しているのだろう。
「さて、今回は麻琴には迷惑を掛けた。龍牙はお前への
「龍牙君がステルス妖魔誕生の情報をリークしたというのは聞いています。鋼牙さんと白奈さんは初めて聞きました」
「お前の予想が有れば聞きたいが、何か有るかえ?」
「鋼牙さんは私が影鬼幹部候補に成ったと聞いて、私を蹴落とし龍牙君を幹部候補にしたかったのではないでしょうか。いくら龍牙君でも鋼牙さんからデータを奪うのは難しい
「正解じゃ。白奈については?」
「私が死ねば龍牙君は私への恋慕を
「その通り。鋼牙と白奈については情報も無かったろうに、この場で想像したか?」
「お爺様、見え見えのヒントを聞いた後のクイズで正解して
「おお、すまんすまん」
2人の間で交わされる
特に麻琴は口に手を当てて上品に
「さて、そろそろ答え合わせをしようと思うが、最後の妖魔の姿は見たな?」
「はい。多少形状は異なりますが、アレは
「そう。灰燼鬼は
「それはさぞ
「くくく、今でも当時の騒ぎは覚えておる。四鬼も異端鬼もみっとも無く慌てて良い
「それは見れなくて残念です。しかし、よくそんな相手をヤクザが
「拉致等しておらぬよ。桐香は自ら妖魔の実験体に成ったんじゃ」
「……それは想像していませんでした」
「まだまだ幹部候補の域だ、これから影鬼内で上を目指すならば慣れていくと良い」
真打の言葉に肩を
麻琴に影鬼幹部を目指す向上心が無い事は真打も分かっているのだろうが、その
「
「確かに5体目の妖魔は裂に
「恐らく、そう言う事なのだろう。数年前に業炎鬼の倉庫から灰燼鬼の魔装が消滅した。それが灰山桐香だったのだろうな」
「裂ばかりがステルス妖魔に狙われ続けたのは何かご存知でしょうか?」
「あくまで
「だから灰燼鬼に連なる者を優先的に狙う様に他のステルス妖魔を
「そうだ。四鬼が研究所を襲撃する前に影鬼として馬鹿共に接触して得た研究内容だ。1体の妖魔を完璧に人間の制御下に置き、その妖魔が他の妖魔を制御する。そういった
「写真はその時の物ですか」
「ああ。妖魔を、人の
溜息を吐いて首を左右に軽く振る真打を見るに本当に妖魔の制御は不可能だと考えていると察し、麻琴は話しを進める事にした。
「私が報告出来る事は特に無いのですが、今の内に答えられる事が有れば答えてしまうつもりです」
「大体の事情は把握しておるし、灰燼鬼の魔装の行方も知れて儂の知りたい事は知れた。影山の嬢ちゃんの報告書が出てくれば事足りるじゃろう。あとは、この馬鹿共の
「お任せします。私は特に興味が無いので」
その一言で鋼牙と白奈が目を見開いて麻琴を
今回の件で麻琴は完全に被害者だ。鋼牙の思惑と白奈の暗躍によって危険な目に
だが麻琴の表情に嘘は無い。
本気で3人に対して何の興味も無いのが明白な様子に真打が嬉しそうに
「自分の命を脅かした相手でありながら興味は無いか」
「もう私には何も出来ないでしょう。これ以上はただ手間なだけです。
「何もしないと言ったら」
「どうぞ。それこそ興味が無いので」
「くく、くはははははははっ」
「良いだろう、処遇は儂が決めよう。別に報告も
「はい」
「しかし、このままでは儂は大変な目に遭った可愛い孫に何の手助けもしない酷い
「あら、別に潤や裂に守って貰ったので特に大変な目には遭っていないのですが」
「まあまあ。孫を甘やかしたい爺の
「そうですね。では、裂が四鬼にスカウトされるのを防ぎ、今後も異端鬼として活動出来る様にお願い出来ますか?」
「くくく、気軽に孫の我儘を聞くものでは無かったな。全く、
「大変な様なら別に構いませんよ。ただの思い付きですから」
「構わん構わん。孫が好きな様にペットを愛でたいと言っているのだ、爺としてもその程度は叶えてやりたい」
「あんな
「悪趣味な事だ。流石は儂の孫だよ」
「あら、可愛い孫に酷い言い様ですね」
「はははっ。幹部候補に
「ありがとうございます。潤、行きましょう」
それに麻琴も続き、喋らない女が扉を閉めて付いて来る時に薄っすらと聞こえた
恐らく鋼牙の一家は行方不明にでも成るのだろう。
本当に興味を失って潤を医務室に連れて行き、やけに
「あら、お嬢様に心配して貰えるなんて
「良いから早く
「無理する
気安い会話をしながらベッドに寝かされた潤を女医が
やはり殴られた場所はかなり痛む様でスーツとブラウスのボタンを外して
その痛ましい様子に麻琴は少しだけ目を細め、潤に気付かれた。
軽く首を横に振って心配するな、気にするなと無言で示す潤だが、その態度を簡単に受け入れられる麻琴ではない。
だからこそ影鬼の基準で鬼に成れないのだが、だからこそ麻琴は影鬼図書館の職員たちから支持を得ている。
職員達も麻琴に先頭に立って欲しいとは思っていない。
自分達が
いっその事、今回の件で麻琴に関わると危険だと認識してくれれば麻琴としては気が楽なのだが、そんな風に考えるからこそ職員達は麻琴を信頼し手伝おうと思うのだ。
一通りの触診が終わり、酷い打撲だと診察結果が出て湿布が数日分、手渡される。
女医が出来る事は全て終わったとデスクに戻り潤がボタンを閉める。
そのタイミングを見計らって麻琴は潤が座るベッドの横の椅子に座った。
「ああ、お待たせしました」
「良いの。私の為にした
「ふふ、
「負傷しないのが1番よ」
「それはそうですね」
2人で苦笑して、改めて姿勢を正して麻琴は潤を正面から見た。
本当は潤も前線で荒事に参加する人員ではない。
それでも今回は麻琴と付き合いが有るせいで危険な事に巻き込んでしまった。
麻琴の価値観では、それは許されない事だ。
「潤の気持ちを踏みにじる事を前提で言うわ。今回は危険な事に巻き込んでごめんなさい」
「……私こそ、お嬢様の希望を無視して勝手をしました」
「私の為に自分を犠牲にした人を勝手だなんて言いたくは無いわ」
「だからこそ、私達は貴女を認めているのです。貴女が貴女である限り、それは変わりません」
「ふぅ。
「貴女に付いていく様な者達ですよ。誰も彼も頑固です」
「分かった。
「ふふ、犯罪組織に生まれた人の言葉とは思えませんね」
「別に影鬼家に興味は無いのよ。知ってるでしょ」
「ええ。無欲なのか欲が深いのか、ご当主が現在の幹部を無視して推した理由が分かります」
潤の言葉に溜息を吐いて麻琴は天井を
流石にこんな事件に巻き込まれる事は当分無いだろう。
あと2ヵ月もすれば大学生だ。
職員達からの期待は今でも重いと感じている。少しは裂を見習って自分の好き勝手に生きて行こう。
それで職員達が離れたらそれはそれだと自分に言い聞かせる事で麻琴は気持ちを切り替えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます