参拾参
それは自分の
灰で出来た
細い足場の先に繋がる半円の足場に出て来た侵入者達5人もそれに気付いた。
先頭に大柄な男が
この空間に繋がる灰の円は崩れ去り、侵入者達を追う鎧をワイヤーで追い立てる意味も無くなった。
少女を降ろした少年をそれは見る。
兜の下に隠れていた肉体は内部から鎧に
鎧が黒い肉に侵食され
兜に開けられた目、耳からも黒い肉が溢れ流線形の形状に合わせた不気味に吊り上がった
「灰山が見られている様だが?」
「何だろうな」
兜から
大柄な男の発した灰山という単語にそれが反応する。
今までは何となく
そのワイヤーは細い通路が有るにも関わらず、円形の足場の
「ご指名みたいね」
「ほら、
「まあ
「悪いが俺達は
「言い訳はお
他の人間達から雑に押し出され裂が半円の足場から細い通路に歩み出す。
「安心しろ。援護に入れる距離には近付いておく」
「嬉しくって涙が出るよ」
やはり雑に伝えられたフォローに裂が雑に返す。
言った手前、流石にフォローはするつもりの様で裂の後を少し離れて4人が追う。
裂が闘技場の前に着くと背後の4人も足を止める。
それは向き合う裂の顔を
……早く来て。
静かに大きく呼吸したそれの意思に
床を向く膝関節から伸びた刃は肉だけだ。肉は足の形に変化し膝関節から下が4脚に成る。逆関節に成った
……貴方を、私に。
▽▽▽
「装着」
短い
闘技場の中央で狼男を思わせる
……客を待たせるのは、良くないんだったか。
全身が完全に闘技場内に入ると背後に灰色の
今まで通り、過去に4度も経験した事で今更何の感慨も無く、灰燼鬼は灰燼妖魔に向き直った。
ボクシングの様な顔を守る構えを取り、身体を小さく屈めた灰燼妖魔と今度こそ
背後には壁しかない。遠距離攻撃の手段は無い。
……いつも通り、前に出るしかないんだよな。
自分を
約8メートルの距離は一瞬で
猫背にも関わらず床から全高3メートル程の巨体の灰燼妖魔が全身で放つ攻撃を全高2.5メートル程の灰燼鬼は大きく避ける必要が有る。
横は腕を伸ばされる可能性が高く、後方は壁で逃場が無い。
敵を視界から
ほぼ
灰燼妖魔を見れば
……流石に灰燼鬼らしいリーチの
灰燼鬼を相手にする場合は距離で躱すのではなく、
普段は自分が行うリーチを
位置は入れ替わり
前に出るしかない状況も変わらない。
大きく息を吸って、前に出る。
灰燼妖魔も同様に距離を詰めて来て、右手を
灰燼鬼はギリギリで避ける様な事はせずに大きく左に飛んで
先程まで灰燼鬼の兜が有った高さに到達する直前で肉立ち包丁が分厚く変化する。ギリギリの回避では間に合わなかった打撃が床を打つ。
巨体が発する打撃による衝撃で床が揺れて灰が大量に舞う。
足場を崩し視界を阻害する基本的な崩し技。
接近を
揺れる床に
灰の中心で最も視界が悪い距離では有るが、全く見えない訳では無い。低い姿勢からの右アッパーを灰燼妖魔の右肩に向けて放つ。
しかし4脚を持った灰燼妖魔は多少姿勢を崩しても素早く姿勢を整えられる。後方に
……灰燼鬼相手の躱し方じゃねえな。
アッパーの影に隠した
地面から脚が離れる程の
灰燼妖魔は切られた事で混乱する様な感覚は持っていない。斬撃を受けた事を危機と察知し本能的に灰燼鬼から更に距離を取って右腕を切断されるのを
灰燼妖魔が下がった事で再び距離が生まれ、深く切傷の入った灰燼妖魔の右腕から黒い
それを目視で確認した灰燼妖魔は右手を灰燼鬼に向ける。
闘技場に入る前にその動作を見ていた灰燼鬼は闘技場中央である右側に向けて身体を倒す様に灰燼妖魔の指先の向きから身体を離す。
その
ワイヤーが灰燼鬼に直撃する事は無かったが、灰燼妖魔は灰燼鬼を追う様に指を曲げてワイヤーによる斬撃を灰燼鬼に向けた。
灰燼妖魔の迎撃は蹴りだった。
右半身が最初から灰燼鬼に向いている事を利用して右手も左手も床に付けて身体を
逆関節の蹴りでは有るが、元々生えていた
灰燼鬼は身体を倒した所から前方に踏み込んだ為に
黒い肉の槍は灰燼鬼に裂かれながらも
……やっぱ攻撃範囲の
灰燼妖魔の変化量は
対して黒い肉の槍は踏み込みに合わせて深く両断されており、灰燼鬼はそのまま左肘刃を振り切って灰燼妖魔の右腕に横向きに斬撃を放つ。茨に踏み込みを邪魔され右腕の切断には届かなかったが、腕の7割の深さまで切り付ける事は出来た。
左肘のスラスターを細かく吹かし、勢いを殺さずに灰燼鬼は左回転を行いながら灰燼妖魔に見えない場所で右肘刃の
……鎧の硬度は高くない。見切りも対応も甘い。
まだ切断した体積は2割程度だが灰燼妖魔にとっての鎧の部分と黒い肉の部分の扱いは不明だ。鎧は音を立てながら落ちていくが消滅する様子は無い。
鬼としての知識の中では鎧の形を持っていても本体から切り離されれば消滅する
灰燼鬼の兜の中で
仮に悪鬼だとしても目撃例は少なく、切り離された部位がどの様に変化するか裂は知らない。
だからやる事は変わらない。
ただ妖魔の体積を
右腕を切断された妖魔の動きは
距離を取る様な事はせず、灰燼鬼は着地と同時に刃を灰として
▽▽▽
「鎧が消えないわね。もし知っていたら、そして教えて貰えるなら聞きたいのだけど、
「あ~、正直言うと知らないんだよね。業炎鬼だけで処理された件で資料は普段は見れなくてさ」
「そう」
腕を組んで何かを思案する麻琴を見た竜泉の感想は『危険』だ。
池袋地下通路に居たという事は高校生でありながら影鬼側のスタッフの1人だと想像も付く。
そして潤とどの様な会話が有ったか分からないが、麻琴は正確にステルス妖魔から逃走し
更に迷宮に取り込まれてからの行動も
司法取引の本人である裂を四鬼との間に
卒業
今は恐らく高校生という事もありこんな最前線に来るだけあって影鬼の組織内でも大した影響力は無い
だが、大学に進み、卒業後も
だから竜泉は麻琴に四鬼と争わない様に
「そうだね。もし帰還して資料を見る事が出来たら教えようか?」
「……止めておきましょう。お互い接触は神経を使うでしょう?」
ここで乗って来る様なら
だが麻琴は
そもそも司法取引をしている裂が居るのだ、わざわざ監視の可能性が高い現実世界で竜泉と麻琴の間で情報交換をしなくても竜泉から裂に必要な情報としてリークすれば良い。
罠だと気付かれたのか麻琴の表情から真意は読み取れない。
「私は別に四鬼と敵対したくは無いのよ。ほら、敵が多いと面倒でしょう?」
「
「大丈夫よ」
「え?」
今までの声とは違った。
信頼では無い。
希望でも無い。
ただ面白くも無い映画を
「大丈夫よ」
竜泉が聞き直したのかと思って繰り返された言葉はやはり退屈そうだった。
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