弐拾陸
クラスメイトに誘われたのはクリスマスイブでありクリスマスは予定が開いている。彼女の周囲ではそれぞれが恋人や家族と過ごす事は事前に知っていたし、自身も家族と過ごすつもりだったので影鬼の仕事だと言って家を出て来た。
両親は既に麻琴が影鬼の幹部候補に成った事は知っていたが2人は特に幹部を目指す事は麻琴には求めなかった。影鬼の中での権力に興味が無い両親なので麻琴もその反応は予想通りだった。
身内からのプレッシャーが無いのは麻琴としては
図書館に到着して通い慣れた関係者以外立ち入り禁止の通路を通って会議室に入れば
麻琴の
「クリスマス当日にすみません」
「気にしないで。両親と少し良い食事をしようって言ってただけだし。昨日、
「はい。
「……
「可能性としては前から
「誰が考えても裂が狙われていると思うでしょうね」
「5体目は
「実は5体目がステルス妖魔の
「それが正解なら灰山裂は本当に運が無いですね」
2人で笑みを浮かべて裂に同情し、麻琴に四鬼が裂に調書した内容が報告された。
基本的に小型妖魔が居ない事を
「へぇ、妖魔
「四鬼からの報告に入っていない事を考えると
「関係者を調査に使わないなんて警察組織の常識だと思ってたわ」
「仮にも灰山裂の監視が主目的だったからではないでしょうか」
「意外とただの人手不足だったりして?」
「いくら数が居ても人手が足りる事は無いですからね」
「組織運営は
「そうです。組織としての処理能力、
「物事はいつだって複数の要因から起きる、だっけ?」
「はい。たった1つの理由から組織が動く事は
「そりゃそうか」
わざわざ1人の人事情報を全て細かく開示する様な手間を掛けてはいられない。
数人の組織ならそれも可能だろうが、全国に様々な能力の人員を配置している巨大な組織では不可能だ。また、上層部が個人を把握する事も不可能に成るので形式化されたプロフィールに致命的な情報が無い限り数合わせで配置される事も多い。
今回の焼慈の配置も裂の監視を考えた際に致命的な部分が無ければ近場の黒子だからと言って採用される事は充分に考えられる。
「数合わせでそんなピンポイントな人員を引いているなら裂の不運もいよいよ致命的ね」
「今までそんなに不運だと思った事は有りませんでしたが、お嬢様から見ては
「まあ、運は無いわね。異端鬼の中でも
「周囲の
「そうよ。
「はい。麻琴お嬢様に
「そうそう。まあ裂の性格が少しでも分かれば本当に何の情報も持ってなくて、当主が
「御当主から直に麻琴お嬢様に専属鬼を命じられたと情報が出回ってたのが
「そうね。当主と強いパイプの有る異端鬼かと警戒して誰も彼も
「結果的にただ麻琴お嬢様と歳が近い以上の特徴が無いと判明して無事だった訳ですか」
「多分ね」
基本的な運は悪くても悪運は良いというのが2人の共通見解と成る。
ステルス妖魔への対応にしても司法取引前から全て四鬼側の人員と共に巻き込まれているのに何とか逃げ切っている。数で
もし恐竜妖魔の時に現実に戻るのが駅のホームだったら逃走は不可能だったと考えて良いだろう。
「悪運が良いだけでは、どこかで逃げ切れなくなりますね」
「ええ。私が高校卒業したら本格的に距離を取るでしょうね」
「幹部候補と下手に繋がりが有れば権力争いに巻き込まれる。でも巻き込まれた際に灰山裂には立ち回る術が無い、ですか?」
「そう言う事。アイツは権力争いなんて
「お嬢様の
「巻き込むならそれなりの手を考えておきなさい。
「流石に鬼の強行突破を止める術は有りませんね」
麻琴には影鬼幹部の座は何の価値も無いが、潤達のような影鬼図書館の職員からすれば自分達が
その為、現状では麻琴は特に幹部になる努力をしていないが潤やその周辺の人員が麻琴の
「そう言えば、池袋での打合せで四鬼に同行していたのは知り合いの黒子でした」
「知り合い? ああ、学生時代の友達が今は四鬼に所属してるんだっけ」
「はい。青山霞と言います」
「あ、時々言ってたオッチョコチョイで振り回してくる人?」
「そうです。多分、口調で気付かれたと思います。図書館近くを張っているかもしれないのですが、まあ無視して下さい」
「良いの?」
「まあ大丈夫ですよ。私はそもそも図書館勤めを始める前から四鬼に監視されてます。特に犯罪は起こしてないので捕まる事は無いですけどね」
「犯罪者の協力者ってそれだけで犯罪じゃない?」
「鬼関連だとその辺の法律はちょっと違うんですよね。刀の製造者が刀で犯罪が起きても罪に問われないような物なのですが」
「何か聞いた事が有るわね。異端鬼に殺人依頼した依頼人が実行犯より相当に
「そうです。過去から何度も問題を起こした法律ですが様々な思惑で変わる事は無さそうですね」
「理由って?」
「私が知っている範囲だと、政治家や大企業の人間が
「被害者からしたら冗談じゃない理由ね」
「私達の様な影鬼の事務員にとっては悪くない法律ですけどね」
「成程、異端鬼を組織化している私達も
満足そうに頷いた潤だが、少し厳しい顔をしてタブレットを置きスマートフォンを取り出した。
メッセージアプリを起動し麻琴に見せると、そこには青山霞の名前と共に潤に対して異端鬼の関係者なのかを問う文章が書かれている。
「これはまた、随分と苦悩を
「ええ。なので四鬼の条件では鬼には成れませんでした。もし影鬼ならこの辺の苦悩を受け流せる様にマインドセットして異端鬼にしてしまうところですね」
「まあ組織が違えば基準も違う、か」
「そうです。お嬢様には申し訳無いのですが今後、霞の様子次第では急に私から距離を取る様に連絡する事が有るかもしれません」
「まあ仕方ないわね。私の事は裂の周辺を調べる際に知ってるでしょうけど、私が鬼に成った事が無いから見逃されているんでしょうし」
「恐らくそうでしょうね。影鬼と四鬼が互いに監視で済ませているのは適度に妖魔討滅に役立つからですし、四鬼は異端鬼の取り締まりより妖魔討滅を優先する組織ですから」
潤としては友人としても尊敬する仕事相手としても麻琴との接触が減るのは避けたいが、自分が理由で麻琴の生活が
その為、不本意では有るが麻琴に距離を取る可能性の話をしている。
「それと、これは灰山裂の話に成りますが、影鬼からの監視は強化されます」
「へぇ。残りは1体だし、四鬼も鬼を投入してくるかもしれないのに?」
「はい。なので数は減らすのですが
「質を上げるって、黒子から
「それも有りますが、メインは鬼ではない
「あら、日本で鬼じゃない魔装使いはよっぽど
「それも有りますが、灰山裂の卒業後の蒲田が少し関係しています」
「どういう事?」
「実は蒲田で活動する影鬼の中には鬼並の戦力を持つ魔装使いが居るんですよ。灰山裂が高校卒業後に蒲田に行くなら、どちらかが一方的にでも知っているだけ後でスムーズかなと」
「あら、随分と優しいわね」
「今回は司法取引で
「四鬼に行かれて面倒な敵に成るのを避ける為に
「ペットに餌をやるのは飼主の義務ですし、私達は1度飼ったペットを捨てるような者には成りたくありませんから」
「人間は
「
2人はその後も細かい部分の確認をして麻琴だけが図書館を後にした。
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