弐拾参
四鬼からも影鬼からも特に仕事の連絡が無いので暇を
気ままな1人暮らしな事を利用して積んでいたゲームをプレイしているが12時を過ぎて
……ファミレス増えてる。スーパーがセールだ。あ、この服屋閉店するのか。
新たに出来ていたファミレスは今まで裂も利用した事が無い店だったのでコンビニは中止してファミレスに足を運んだ。
新規でオープンした店なので店員の接客も慣れおらず開いている席を探す視線も安定しない。
考えてみれば昼食時のファミレスは非常に
裂は初めて見たがファミレス内にはカウンター席が設置されており、その最奥の席に案内された。時間帯的に1人客が
カウンターの内側からキッチンスタッフにメニューを
スマートフォンを取り出して漫画でも読もうかと思ったらメッセージアプリに着信が有り、クラスメイト達のグループにクリスマスイブにカラオケに行こうという誘いの連絡が入っていた。
参加不参加の管理表に不参加と入力してアプリを閉じ、漫画アプリを開く。
……これ、不参加にしたせいで面倒が起きるか?
仮に面倒な
漫画は既に1回読んだ内容だが特に興味を持って読んでいなかったので新鮮な気持ちで読める。そもそも5巻目なのだが4巻の内容を覚えていないので全然理解出来ないまま読み進めた。
この辺の
適当に漫画を読んで時間を潰しているとステーキ定食が運ばれてきてレシートも
久しぶりにナイフとフォークを使う食事だと思いつつ、そもそも洋食を食べていなかったと思い直す。
ファミレスらしい値段の
先日、
そんな事を思い出しつつ、視界の端に何度か入る監視者に
せめて見つからない
背後に居るなら気にしないのだが前方に居るのはどうにか成らないものだろうか。
そんな風に思いつつ、潤の連絡は既読無視しているので裂の感想が伝わる事は無い。
このまま
……いやいや、掛け忘れちゃいない。
室内に誰か居るのか、
準備運動に肩を回して
8畳の1Kで玄関から直ぐに廊下になっておりトイレ、キッチン、バスルームが有る。途中の横の扉がリビングに繋がっており、他の部屋と
1Kの男部屋の廊下に金目の物や
最初から廊下はあまり期待していなかったが、多少は覚悟していたので
やはり特別に気負う事も無く、警戒心も薄くリビングの扉を開く。
衣類は壁やベッド下の収納スペースに保管されているので男子高校生の1人暮らしの割に裂の部屋は物が少なく
そのベッドの上に侵入者が座っていた。
「よう、邪魔してるぜ」
「万丈か。何の用だ」
「ちょっと婆さんからお前に質問が有るってよ」
20代前半の茶色に染めた短髪を
数年前から1人で鬼の魔装整備を
裂の魔装は担当していないが、万丈の
裂は椅子に腰を下ろして万丈と視線の高さを合わせ、話を進めた。
「ババアから質問?」
「そうそう。お前、スマホ監視されてるし婆さんは四鬼大嫌いだしで俺が代わりに来たって訳だ」
「ババアはそもそも歩けるのか?」
「……この間、リビングでビデオ通話のエアロビしてた」
「……いくつだったか?」
「そろそろ95だ」
「ババア自重しろ」
「冬キャンプの準備してた」
「
「かなりガチな装備しててよ、ちゃんと暖房設備も有ったぜ」
「人生楽しんでんな」
「今でも好物は天丼とカツ丼だ」
「コレステロール」
元気一杯な当主に呆れつつ裂はいい加減に本題を話せと
「お前の状態は聞いたぜ。四鬼と司法取引とか、馬鹿じゃねえの?」
「好きで取引したんじゃない」
「んで、その事で話が有るんだよ」
「何だ?」
「お前は多分、影鬼としての活動が制限される。特に、
「……監視はされるだろうな」
「だが魔動駆関の付いていない魔装なら話は別だ。婆さんから聞かれてるのは魔動駆関を
「流石に無いだろ?」
「どうかなぁ? お前の年齢でその戦闘力は
「ババアの見立てとか面倒な事に成るな」
「婆さんを親族でもねえのにババア呼びして生きてるお前が分からねえよ」
意味が分からずに
「ま、今直ぐって話じゃねえ。今回の仕事は
「いつまでに決めれば良いんだ?」
「時期は正直分からねえな。魔動駆関が無ければ魔装の性能は下がるし、お前の場合は特に
「
「それに
「影鬼として使える戦力には、
言って大きく息を
お
「お前がどんな事情を抱えてるか俺は知りたくもねえが、お前の魔装は面白い。整備も
「人の魔装を面白半分で弄るな」
「犯罪者同士仲良くしようぜ。俺はお前を買ってるんだ」
「俺の魔装を、だろ」
「そうそう。今じゃ婆さんが見てるが、あの魔装を組んだ
「その幸運は俺が影鬼で鬼のままで
「そう。だから、お前には影鬼に居て貰いたいし、魔動駆関も外されちゃ困る」
「俺が四鬼に行っても魔装は置きっ放しにしてればお前が弄れるだろ?」
「使われねえ魔装に何の価値が有る。それに、使われなきゃ魔装を進化させられねえだろ?」
「……魔装は別に
「おいおい、その戦闘用で飯食ってる奴が何言ってんだ」
何も言い返せずに肩を
その後は
……万丈は軽くても技師としては優秀だ。その万丈があれだけ入れ込むって事は、片影家でも灰燼の魔装は大事にされるか。
それなりに思い入れの有る魔装なので仮に自分の手を離れても大事にしてくれる者が居るのは
万丈が出て行った扉に鍵を掛けて台所から塩を持ってきて1
……さて、ゲームするか。
高校2年、状況は特殊だが裂も将来について考えなければならない時期に来ていた。
▽▽▽
期末テストを無事に赤点に成らない程度の
そんな訳で高校2年のクリスマスイブを裂は特にイベントの無い普通の日として過ごす事に成った。
昨年はクラスメイト達の誘いでボーリングやカラオケに目立たない程度に付き合った後に麻琴の指示で妖魔
「我ら生まれた日は
「明日も仕事だコンチクショー!」
「クリスマス限定ケーキいかがですかー!」
適当に日の
夜の東京の冷え込みは馬鹿に出来ない。マフラー、手袋、コートでも身体が冷える感覚は避けられない。
裂は近場の自動販売機からホットのペットボトルコーヒーを買い口に含んでポケットに入れカイロ
意外にも今日は裂が気付ける監視者は
裂は目的地も無く適当に1人でも入り
……何が悲しくてクリスマスに何の目的も無い俺の監視なんてしなきゃならないんだろうな。日頃の行いが悪い奴が担当だったらマジで笑える。
人でなしな事を考えながらチェーン店でないラーメン屋を見付けて入店を決めた裂は店の前に置かれた券売機で大盛のラーメンを頼む。更に
店内はカウンター席しかなく、6時半という時間で裂としては意外だったのだが席は8割程埋まっていた。客層は大人から高校生くらいまで幅が広く裂と同じ様に1人客ばかりだ。
裂の入店から1分も掛からずに目付きの鋭い男と若い女がスーツ姿で入店し裂から2席離れた位置に案内された。
人の移動に合わせ本能的に視線で追ってしまった裂だが自分だったら
同時に短い時間で観察してしまったスーツ姿の女が
……せめて関係無い
裂としては四鬼側の監視者は複数人居ると思っているのだが、まさかの人選に四鬼は人手不足か考え無しなのかと疑ってしまう。
この店は一般的な中華そばに分類されるラーメンをメインにしている様だったので裂は
しかし目付きの鋭い男は辛さ十倍ラーメンを頼んだ様で霞が引いている。
券売機には『初めての来店のお客様はご注文出来ません』
そんな事を考えている間に先に
目の前で麺が
……シンプルだけどそれだけ自信が有るんだろうな。
スープは一般的な醤油ラーメンの様だが口に含んでみると
つけ麺店
グルメ番組で大人が『もう大盛ラーメンとサイドメニューは食べきれませんね』
そんな堪能中、小さくだが確かに店内に女の悲鳴が聞こえた。
想定外の物を見た様な『ヒィッ!?』という声は裂の聴覚では霞が居る辺りから聞こえ、周囲が注目したのに合わせて裂も視線だけ向けてみる。
霞の前には普通の中華そばが有り悲鳴を上げるような物は無いが、その隣は確かに裂も驚くだろう物が置かれていた。
器のサイズは裂の手元に有る大盛中華そばと同じだ。他にサイドメニューは頼まなかった様で器の前に座る目付きの鋭い男は箸を右手、レンゲを左手に器を嬉しそうに
その器の中は、赤い液体だった。
裂の位置から少しだけ見えるのは真っ赤とかし表現出来ない液体だ。
辛さ十倍の
霞と別の客が
……アレが隣は素直に同情するぜ。
その異常な赤い液体に男が箸を伸ばし、赤く染まった麺を掴み上げる。
本当にラーメンだった事に驚きを隠せない
裂は比較的早く気を取り直し、早々に食べ切って店を出ようと中華そばと
先程は錯覚だと自分に言い聞かせた裂だが、スープが
「ご
「ありがとうございましたっ」
提供される時と同様に威勢の良い店員の声を背に受け裂は
……冗談じゃねえっ、監視されてるだけなら良いが飯の邪魔される覚えはねえぞ!
クリスマスイブに下手に変わった事をするものじゃないと思い裂は
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