弐拾弐
ブラウスを押し上げる胸に冷たい視線を向けつつ、部屋の隅の椅子で待機していた
「お疲れさまでした。
「使い潰されるのは確定したようなものじゃない」
潤の
「高校生で手帳を内ポケットに持っている人って珍しいでしょうね」
「誰のせいよ誰の」
想像以上の疲労を自覚して麻琴は鞄からペットボトルのコーヒーを取り出して口に
「ま、将来的に
「私達が蒲田支店を
「そう言えば
「彼はスカウトされた人材じゃありませんよ。評価が上がるとしたら、彼をここまで育てた麻琴お嬢様に成るでしょうね」
「スカウトされていない?」
「その辺はいずれご
「そう。今日はこれで終わりかしら?」
「はい。夕飯でも食べに行きますか?」
「そうね。でもこの辺ってチェーン店ばかりで
「
潤に池袋駅の地下迷宮という危険地帯を麻琴の護衛をしながら歩く
ボディガードとしてスーツをラフに
付き合いが長い潤はそのジェスチャーを正確に認識して
佐右ヱ門達とは根本的に通路が
その為、影鬼所属の3人は
寡黙な鬼は
分かれた麻琴と潤は池袋の
「最後まで
「3年の付き合いですが私も声を聞いた事が有りません」
「え?」
「もしかしたら声が出せないのかもしれませんね」
「
「チョーカーを
「そう言えば少し
「それが答えかもしれませんね」
チョーカーの下、
そうなれば声を聞いた事が無いというのも分かる話だ。
「さて、明日も学校だし
「いっその事、ラーメンとかどうです?」
「良いわね。コッテリ
「手軽ではないと思いますが、行きますか?」
「あれ、苦手だった?」
「いえ、ちょっと運動不足でして」
「ははぁ~ん?」
笑みを浮かべて麻琴が潤の
「大丈夫よ、いつも通りカッコいいから」
「……ありがとうございます」
あまり続けたい話題では無い潤は直ぐに姿勢を直して普通に歩き出し話題を変えた。
「受験勉強はどうです?」
「
「塾にも行ってないのに凄いですね」
「まあ受験勉強とか向いていたんでしょうね」
「私は
「高学歴だけと
「A判定ならそうでしょうね」
繁華街に着いて適当に直ぐに入れるラーメン屋に入り、食券機の前に潤が立って麻琴にメニューを確認するように半身だけ振り返る。
「じゃ、普通のラーメンと卵掛けご飯が良いのかしら?」
「良いんじゃないでしょうか。男子高校生なら大盛にしたりチャーシュー丼にしたりするんでしょうね。私はラーメン、と」
「仕事は終わっているんでしょ、別にビールとか頼んでも平気よ?」
「いえ、実はラーメンにビールはどうも
「そうなの?」
「単純に重いのかもしれませんね。
「知らないのよね」
「じゃあ今日は私が適当に頼んじゃいましょう」
「私達が呪文だなんてね」
そう笑って店員に案内された席に2人で並んで座り、潤は麺
他の客が『カタメニンニクマシマシヤサイオオメアブラオオメアジコイメ』と
「食べ慣れた方なんでしょうね。慣れない内は止めた方が良いですよ。驚きますから」
「驚く?」
「あ、似た様な注文をした人のが台に乗っていますね」
潤の視線に合わせて麻琴がまだ客に
「……野菜の山?」
「店によってはモヤシやキャベツは無くてホウレン草や
他の客向けの
ただ2人ともそんな視線に興味は無いので気付いているが知らない
先に麻琴向けに卵掛けご飯が
「へぇ、卵だけでなく海苔や
「この辺も店によりますね。他に見た事が有るのは
「ああ、良いアクセントに成るでしょうね」
「あ、ラーメン来ましたよ」
店員が麻琴に声を掛ける前に潤が視線で店員を
ガードの
「最初はそのまま食べて、
「このニンニクとか、
「そうです。博多豚骨ラーメンもこの辺は似ていますね」
「ああ、
「今度行きましょうか。頂きます」
ヤサイオオメを頼んでいないのでモヤシとキャベツは器より少し頭が出る程度の盛り方だ。
始めて食べる麻琴は潤が先に箸でモヤシとキャベツを軽く
「これは、確かに大変ね」
「見ないで下さい」
思わず潤の脇腹に視線を向けそうになった麻琴だが潤が
肩を
30分後、店を出た潤は満腹感から口を細めて大きく息を吐く。
その背後から出て来た麻琴は少々グロッキーの様でお腹を
「ちょっと多かったですね」
「私には卵掛けご飯は多かったわね」
「あはは。私も高校の時は運動してたし大盛でもいけたんですけどね」
「す、凄いわね」
「後から入って来た人で特盛で野菜多目の方が居ましたね。
「考えただけでお腹が
「男性でもかなり食べる方でしょうね」
麻琴の胃を心配して潤は非常に
時刻を見て満員電車を避ける為にスマートフォンで駅前に影鬼の車を呼んだ。
「悪いわね。確かに満員電車は辛いかも」
「私もこの時間の電車には乗りたくありませんから」
苦笑して自分の
満腹感からくる
駅前に到着すると潤が見慣れた車に近付くとタクシーの様に自動でドアが開く。
麻琴が先に入り、潤が後から乗り込む。
扉はやはり自動で閉じ、
「家で良いですよね?」
「ええ」
「そう言えば、四鬼を
「正直に言えば、ただの人だなと思ったわね。怒った時は驚いたけどそれは人も鬼も変わらないしね」
「まあ
「ある意味で激流鬼が1番分かり
「そうですね。四鬼の中でも個人差が大きくて対応し辛い相手です。場合によっては本題から完全に外れる事も有るので打合せが成立しません」
「それ、四鬼の中で1番
「はい。なので四鬼の記者会見
「そう言えばテレビで激流鬼や轟雷鬼は見覚えが無いわね」
「適材適所ですね。マスコミが強引に激流鬼や轟雷鬼に取材を
「
「ちなみに激流鬼の研究時間を邪魔した、轟雷鬼にしつこくし過ぎた為に物理的に痛い目に
「……気を付けるとするわ」
「ええ。私もさっきは危なかったですね」
業炎鬼系の鬼だと思って無視される前提で
実例を思い出して呆れた様に天井を
「今回の件は影鬼としては待ちの姿勢で良いのかしら?」
「はい。ステルス妖魔の
「そうね。でも四鬼との接触回数を減らす為にも早期に終わらせたいものね」
「良い感覚ですね。四鬼との接触は極力減らすべきです。接触する際には最低限にする為、事前に状況を整理して短時間で済む様に
「今回は事前に資料をやり取りして、会話の時間は短くなる様に努めた?」
「そう言う事です。今回の方法は企業の会議でも理想とされている方法ですね」
「ああ、無駄に会議を長引かせない為に事前にレジュメを提出して参加者に読んでおいて貰う、
「そうです。
「もし、相手がこちらを
「はい。ドラマとか映画で見られる光景ですね。会議室の外で何か作戦を進めておいて、相手に対応する隙を与えない」
麻琴の理解を嬉しそうに見つめる潤は生徒の成長に喜びを感じる教育者のそれだ。
その視線に気付いて麻琴は
「で、
「そうですね。後で四鬼に
「ただの気紛れね。特に何か
「例えば、四鬼の関係者を捕まえて
「無いわね。逆に与えられていない情報が有っても気にしない、というか下手に情報を持って面倒が増えるのを嫌うと思うわ。その
「それはまた、
「人間を相手にしていると思っちゃ駄目ね。気紛れな猫を相手にしていると思わないと」
「猫を相手にしているつもりで虎が出て来たら最悪ですけどね」
「それはそうね」
猫なら
確かに裂の戦闘力なら生身の人間相手なら数人まとめて殺せてしまう。
「影鬼側の人員なら
「だからって
「本当に警戒するべきなのは攻撃性能ではなく、
そう言って潤は溜息を吐いて組んだ脚に
味方だと確定していれば使い
灰で視界を
戦闘に
「お嬢様、やはり灰山裂を
「確かに能力は買ってるけどね。あんな面倒な奴、今くらいの距離感が丁度良いのよ」
別に専属鬼でなくても麻琴が裂を仕事で使う事は可能だ。
影鬼
潤は
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます