弐拾
学習塾の調査の後、
そんな訳で司法取引
興味半分に午前中に単発のバイトを
こんなに簡単に進むものなのかと『警戒して損した』程度に考えていたが、実際にバイト先に向かい後悔した。
本屋では影鬼図書館で何度か見た女性職員が先に働いており、店長からは同じ様に今日、急に決まったバイトだと紹介される。
……スマホが監視されてるのは知ってたが、ここで先回りしてくるって事は何か有るのか?
首を
30分もせずに説明が終わり女性職員と共に在庫室での作業を頼まれる。
「こんにちは」
「どうも。仕込みですか?」
「はい。さっきの店長は影鬼の協力者です」
「マジで?」
「まあ色々と有るのですよ。ああ、影鬼と
「事情を知りたい訳じゃねえし良いさ。それより何の用だ?」
「メッセージだけだとニュアンスが分かり
「了解。四鬼側に怪しまれない程度の調整はそっち任せで良いんだよな?」
「はい。
「
本の入った段ボールを指定された場所に運びながら裂は名前も知らない女性職員からの質問に応えていった。
「へぇ、
「向こうは雑談のつもりだろうが俺にとっては迷惑だしな」
「
「麻琴も卒業まで3ヶ月、ステルス妖魔の捜査がそんなにポンポン進むとも思えないし、もう関わる事も無いだろ」
「
「……麻琴は分家だし鬼に成れない。俺みたいな
「そう言えば聞いていないんでしたね。麻琴お嬢様は影鬼の
「……本人、嫌がってたんじゃないか?」
「ええ。
「受験生に
「
「利害関係じゃないのか。事情は聞かない方向で」
「余計な情報は
「婆さんが関わってたみたいだし遅かれ早かれだ。
「四鬼からしたら丁度良い人材なのは確かでしょうね。ご
「はいはい。今日の情報交換はこれで充分なのか?」
「はい。四鬼側を突き放しているだろうとは麻琴お嬢様から聞いていましたが、想像していたより強く
犯罪者の自覚が有る裂が警察を相手に
裂が思い付く限りでは四鬼に何かしらの
四鬼側が事情を知らなければ影鬼側からどんな
「俺の魔装は影鬼の技師に見て貰ってるんだ、四鬼に下手に取り入ったらどんな目に
「ああ、影鬼に
「そんなところだ」
「高校生なのに
「どう考えても麻琴の影響だ。アイツのせいで何回も影鬼内のパワーゲームに巻き込まれた」
「麻琴お嬢様、こんなにも人材教育に成果を上げられて」
「
自分は苦労しているのにその原因人物が
だが影鬼図書館の職員たちが麻琴に入れ込んでいるのは知っているので裂は特に何も言わず段ボールを運び終えた。
「言われた仕事は終わったな。どうするんだ?」
「バイトはあと30分程ですか。少し待っていて下さい」
そう言って女性職員は在庫室を出てレジに居る店員に次の仕事の話を聞きに行った。
残された裂はスマートフォンを取り出してメッセージの
直ぐに戻って来た女性職員から自分はレジを担当するので裂は在庫室で本が不足したら指示に従って段ボールを
漫画や小説は電子
30分の間、声を掛けられたのは1回、高校受験用の参考書だけだった。
バイトの時間が終わり残業の依頼も無かったので裂は女性職員とは別のタイミングで本屋を出る。
特に意識もせずに窓の外に目を向ければ自然な動作で裂から視線を外した者達が居た。
ベンチで缶コーヒーを飲んで休憩するスーツ姿の男、壁際でスマートフォンを操作し人を待っている様に見える私服の女。
裂に認識出来たのはその2人だが、他にも監視者は居るのだろう。
流石に霞は顔見知りなので見える範囲には居ないが体格を隠す様に
……さて、あれだけ言ったんだし次は変に雑談を振られないと良いんだがな。
仮にも
麻琴との関係を勝手にラブコメとして楽しむ
その結果、影鬼側にとって
黒子とはいえ四鬼所属の人員に手を出すのはリスクが高い。
その為、裂にとって最も良い状況は霞が完全に裂を仕事上関わるしかない犯罪者と認識しコミュニケーションは最低限に
……頼むから次からは事務的な会話のみにしてくれよ。なんならこの間の
そんな事を考えてポテトを
培養液の成分はやはり直接確認する事は出来なかったようだ。研究員に質問したところ30年前の代物なので完璧な成分は不明だった。また、当時のヤクザが購入できる程度の薬品では品質が保証出来ないので研究員が想定している成分で実験が出来たという保証も無いらしい。
影鬼が要約する上で
また、研究員は培養槽が破壊された時にはその場に居なかったので詳細は不明とされている。
……つまり、進展無しと。
本格的に
司法取引で四鬼に協力する期間はステルス妖魔への対策が確立するまでだ。人海戦術で探すというのは対策としては確実かもしれないが裂のように早く関わりを断ちたい者からすると最悪の対応となる。
裂の予想では窓の外に見えている以外にも客に
漫画やドラマで見るような背後の席に座った相手と小声で会話
プライベートな
監視者が個人的に飽きても組織として裂を監視しないという選択肢は四鬼にも影鬼にも無い。
裂もそれは分かっているが、監視されていると思う事はそれだけで圧迫感が有る。
面倒だと思いつつ灰山桐香と浮気男の妖魔について考えてみる。
そもそも研究員が捜査にどの程度の熱量で協力しているかは不明だ。研究者のプライドや
疑い出したら現実的な物から自分でも
店を出て目的地も
……これで補導されたら同じ様に歩いてる制服姿の奴も巻き込もう。
もしかしたら
本当に望遠で監視されていたのかは不明だが視界に入る
新たに妖魔が出た可能性も有るが裂の影鬼製アプリには通知が無い。
もしかしたら影鬼から通知が来ないように設定されている可能性は有る。
しかし、これも可能性だ。
どうでも良いかと思い直した裂は40分程の散歩の後に満足して家に向けて歩き出す。
……監視者さん方、お疲れさん。
裂の家の方角は知っているのだろう、裂の視界の範囲内で数人の監視者達は明らかに気が抜けた様子だ。
視界の
特に後先は考えずにその監視者を追い掛ける為に走り出す。
司法取引の中には監視者が居る事も、監視者を追いかけ回す事を禁止する内容も記述されていなかった。
つまり現状では裂のプライベートについて
監視者は裂に見つかったから走り出した訳ではない。走る速度も全力ではなく1キロ程の中距離を最短で行く走り方だ。
裂は鬼として一般人の様な
監視対象である裂に自分が追われている事を察知した監視者だが、元々の距離も有って直ぐに2人での
だが監視者も覚悟していた通り、高校が近く土地勘の有る裂を人混みを利用した程度で
スーツ姿の男が男子高校生にネオン街で追われているという珍しい状況だ。
監視者は人混みを
追走劇は数分で終わり、裂はネオン街と住宅街の
「驚かせてすみません。落としましたよ」
裂は軽く息を切らせてポケットからポケットティッシュを取り出し監視者に渡し、周囲に怪しまれない様に
「あ、ああ。ありがとう。オヤジ狩りかと思って済まない、走ってしまった」
「いえ。この辺の道は知らないのでしょう、駅まで案内しますよ」
「い、いや、大丈夫だ。ほらスマホも有」
「案内、しますよ」
そう言って裂はポケットティッシュを受け取った監視者の手首を掴み、いつでも
裂の
背後では同じ様にバタバタと足音がして裂は他の監視者が追い付いて来た事を
仕方が無いと溜息を吐いた裂は小声で監視者に話し掛ける。
「しゃーない。別に目的が有って追い掛けたんじゃない。アンタ以外にも数人が慌ててただろ? だから興味本位で追い掛けたんだよ」
「……私の
「良いよ別に。四鬼だろうが影鬼だろうが、俺が監視に気付いて
「
「監視対象に見つかる場所で慌てて視線外す方が悪い」
「くっ」
「何が有った? 妖魔でも出たか?」
「自分のスマホで見、痛っ」
監視者が言い終わる前に力を込めて黙らせた裂は視線で先を
「そうだ。近場で妖魔が出たから、確認の指示が出た。他にも数人向かっている」
「やっぱりか。さて、お
そう言って手を離した裂は芝居を再開する。
「いやぁ、お
初対面の霞にすら見せなかった周囲の人混みから疑われない
追い付いて来た監視者達も四鬼側と影鬼側でバッティングしない様に距離は取っている。
その様子を
……やっぱ妖魔探知アプリの通知を操作されてるか。さて、どうするか。
司法取引から数日経っているが妖魔探知アプリの通知は有った。しかし裂から距離の有る物ばかりで妖魔に近付く事を操作されているとは想像出来なかった。
不用意に妖魔に近付かない様に影鬼に操作されているのか、別の
裂では
・追っている相手は
・
・妖魔探知は操作されている。
・
・影鬼の
思い付くだけ頭に浮かべてみて、裂は大きく息を吐いて思考を
自分が
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