拾玖
調査の説明を受けてからというもの少し
研究員は情報
その為、今回の調査は霞を含めた
合流地点に指定されたのは池袋駅から少し離れた場所に建つ学習塾だった。
30年前に学習塾と言われても想像出来ない裂だが、
駅から徒歩20分は離れた為か周囲は半分住宅街、半分ビジネス街といった
昔の話とはいえ四鬼が集団で強襲した施設だ、
建築の知識
「誰か肝試しに入って無いよな?」
「先日から調査の為に黒子が
霞以外の黒子と裂は話していない。互いに変に関わって
ただ裂としても不思議だったのは社会人というには
どの組織にも馴染めない者は居るのだと勝手に
調査と言っても四鬼側の流儀を知らない上に事件現場の調査をした事も無い裂に出来る事は無い。壁に背を預けて腕を組んで休憩の姿勢を取る。
黒子達を特に観察する気も無く何となく視線に納めていると何かの機械を壁に向けている。何かの反応を得られた様には見えず、黒子達も何も言わないので何の反応も得られていないのだろう。
そんな裂の隣に霞が寄って来た。
「調査は良いのか?」
「私は基本的に貴方の監視役で調査のタスクは少ないんですよ」
「納得の
「でしょうね。流石に異端鬼と話した事の無い黒子に任せるには少々荷が重いですし、貴方は初対面で
「……それで、何を話せば良いんだ?」
「そうですね。今回の件、どこまで知ってます?」
「何も」
「……
「俺はその研究員には関わってない」
「拉致に参加した事までは調べがついていますよ」
「研究員から聞いていないのか?
「ああ、そうすると本当に何も知らないんですね」
「そう言ってる。そういやネットに噂が立ってるぜ。ステルス妖魔は警察が
「
「マジかよ。てか俺に言って良いのかよ」
「四鬼としては警察組織の
「……それこそ話して良いのかよ」
「四鬼の活動について『妖魔
「妖魔絶対殺すマン怖いわ~」
コンクリート
裂としては
「調査結果は良くないか」
「30年前の事件ですし、調査機材のレベルが違うと言っても当時も真面目に調査はしたでしょうからね。正直、期待していないというのが本音です」
「本命は有るのか?」
「地下ですね。ただ、逃場が無いので地上部の調査は
「地下か」
確かに建物に入って1階、2階と調査しているが研究施設というには普通のオフィスの様な物しか残っていない。間取りも壁を打ち抜く様な改装の
「もし逃げないといけない事態に成ったら俺は黒子達をどうすれば良いんだ?」
「妖魔が出たら出来れば前線に出て欲しいです。私たちより戦闘力が高いのは確かですから」
「了解」
「ただ、取引先との取り決めも有りますから自身の命を最優先にして下さい」
「へぇ?」
「戦力は貸し出してやるが
「優しくって涙が出るわ」
「大丈夫、私たちもです」
言い換えれば黒子達は四鬼と影鬼の取引の中では裂よりも価値が低いと言われたのだ。それは泣きたくもなるだろうと裂も納得し
「
「まあ末端は
「確か、わざと取らせてもっと強い
「ええ。チェスを含めて世界中の駒を取り合うゲームにはそういったセオリーが有るようですね」
「戦略って言えば聞こえは良いが、歩として消費される側としては
「四鬼だろうと影鬼だろうと末端の消費されたくないという希望は同じでしょうね。地上の調査はここまでで良いでしょう。地下に向かいます」
黒子達がそれぞれの調査を終えたらしく霞に指だけで裂の見慣れない合図を送っている。
霞は全員からその合図が向けられたのを確認し裂を連れ立って地下へ向かう。
階段を降り切ると扉が設置されておりドアノブには鍵が付いている。霞が手を掛けると鍵は掛かっていない様で抵抗無く押し開く事が出来た。
霞も黒子達も鍵が掛かっていない前提で進んでいるので裂も特に気にはしない。
数日前から調査は行っているので各部屋の鍵はその時に全て開けられている。今回の調査では今日まで用意が間に合わなかった測定機器を使用しての調査だ。
古い妖魔の反応を追うには普段は使用しない機材が必要に成るのだが、調整に時間が掛かるので直ぐに用意出来る物でも無い。また、裂の生活サイクルを変えて周囲に怪しまれるのを避ける為に待っていたという側面も有る。
扉を抜けた地下室は少し長めの階段で明らかに学習塾の
30年前の研究施設というだけあって机や椅子は古い形状の物が多い。PCは四鬼が調査の為に
「アレが
「そうです」
研究室は扉から見て手前に机やPCを設置された観測室があり、強化
培養槽はどれも破壊されており周辺の床を見れば内側から割られた様に
「研究対象に逃げられたってのは本当みたいだな」
「その様ですね。では調査をお願いします」
霞の指示で黒子達が地上でも使用していた測定器具を構えて調査を開始する。
裂の監視が
「どう見ます?」
「妖魔の特性にもよるが、今まで
「
「遭遇した時の事を考えると現実世界で透明なら
「ああ、あの巨体では透明でも誰にも触れないなんて難しいですものね」
「そう考えると、培養槽の中に居る時はステルス化出来ないか、ステルス化しても出れなかったのか?」
「培養液の成分を調べる必要が有りますね。研究員への再
「というか、これくらいの事は四鬼側でも考えなかったのか?」
「四鬼は基本的に
「警察組織なんだから刑事とかと協力しろよ」
呆れて溜息を吐く裂だが霞も同意見のようで
警察と四鬼の関係が良くないのは周知の事実だ。実際に死体が発見された際に最初は警察が動くが、妖魔の案件だと分かると特に情報共有も無いまま四鬼に引き継がれる
「私たちがわざわざ犯罪者である
「この程度の
「四鬼は現場を見て妖魔の逃走先を想像する事は出来ても、通常の妖魔とは全く
「毎日妖魔ばっかり追っかけてりゃそうなるか。でも培養液なんて残ってんのか? 当時は回収出来たとして30年も経ったら
「ええ。望みは薄いですが、元々30年前の事件が簡単に追えるとは思えません。今日の調査が終わったら聞いてみますよ」
特に裂から霞に言う事は無い。
四鬼の捜査が順調なら早く霞から解放されるだろうが、その後も監視される可能性は高い。長期的に見れば捜査の
結局、黒子達の調査で
裂に知らされていない情報は有るだろうが、それを裂は気にしない。
「そう言えば伝えていませんでしたが、当時の研究内容から
「あん?」
「ステルス妖魔は特殊な薬品を妖魔に
「あくまで当時の研究内容だろ。30年経って変異が進めばその
「ええ。さて、ここまでで今日の調査は終了です。何も無ければ外に出たら解散しましょう」
黒子達は調査終了のジェスチャーを霞に向けており、最後の1人のジェスチャーを確認して全員が研究室を出始める。
何事も無いまま調査を終え、塾を出て解散となる。
霞以外の黒子達は塾を出た時点でバラバラに移動しており、塾の出口を
「結局、何も出てきませんでしたね」
「探して見つかるものでも無いんだろ」
「ええ。あ、夕飯
「帰る」
「ええ!?」
「あんまり一緒に居て知らずに情報を取られるのは困る」
「そんなに
「アンタが意識してるかしてないかは関係無い。どうせ監視用に盗聴器とか持ってるんだろ?」
「はい。カメラ付きです」
「俺が何でもない事と思ってても四鬼や影鬼にとっては
「うっわ、こんなストレートに酷い理由で断られるとは思いませんでした」
「俺たちは敵同士だろ。ほら、帰るから
「まあまあ、その前に聞かせて下さい。学校でも
「司法取引が決まってから誰とも関わらない
「……痛い所を突いてきますね」
「俺はアンタ達に協力する代わりに人との関わりを失うんだ。そんな罪悪感を感じてます、みたいな顔をされると俺が加害者みたいで
意図的に
今度は罪悪感や後悔の無い、何の感情も持たない無表情だ。
「それで良いんだよ。人の生活を破壊する側が、人らしい顔してちゃ駄目だぜ」
……これだけ言えば次は変に話し掛けて来ないだろ。
意地の悪い言い方では有ったが本音である事も事実だ。犯罪者に対して警察が加害者というのは
それを気にして傷付くのだから霞は確かに四鬼の鬼には向いてないなと思い裂は
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