拾捌
『少し気に成る事も有るのでこの後、時間を下さい』
発信者は
裂が部屋を出て直ぐにメッセージを送ろうとしないとこのタイミングで受信はしない。
直ぐに追加のメッセージで場所と時間が指定されたので裂が予想したような3人での打ち合わせは無かったようだ。
面倒な予感に
指定された場所はチェーン店の喫茶店、時間も事務所を出てから20分後だ。
先に到着した裂がケーキセットを頼んで後から連れが来ると伝えて2人席に着いた。
裂も事務所から喫茶店に着くまでに10分程歩いたので霞も似た様なものだった。
注文からケーキセットから運ばれて来るまで3分程だったので霞もカウンターで注文をして裂の
「お待たせしてしまいましたね」
「何の用だ? 仕事の話はし
「ええ。聞きたいのは凄く個人的な事で先程の2人は全く関係が有りません」
何となく霞の
つまり裂にとっては良くない事にプライベートな事でお
「君の行動は学校を休んでいる時から追える範囲で追っていました。
「
「君を見付けたのは
「最悪な偶然だ」
「
「ブルーライトカットと印象を変える為に使っている」
「確かに眼鏡が有ると君は随分と大人しい印象になりますね」
「無いと?」
「
「人の評価としては最低だな」
「君にとっては悪くない評価なんじゃないですか?」
「……まあ良い。俺を見つけたのに接触するまで随分と時間を掛けたな?」
謹慎中に見つかったと言ったが、裂が復学して数日が経っている。四鬼程に大きな行政組織なら裂を見つけて即日には
「私の
「……」
「呆れないで下さい。流石に彼女さんとの時間を潰すのは気が引けたんです」
「彼女じゃない。
「良いじゃないですか、彼女だと言っていれば影鬼さんとの関係を変に疑われませんよ」
「……彼女と言う事にしてお前が楽しみたいだけじゃないのか?」
「あ、バレました? 恋愛漫画とか良いですよね」
「個人の趣味に口は出さないが、
「何なら私の書いた小説でも渡しましょうか」
裂のあまりにも異常者を見る視線に悪戯が過ぎたと霞は
「冗談です。単純に関係者か
「個人投稿の小説サイトは有るんだ、才能の有無と小説を書く書かないは無関係だろ?」
「……君、意外と優しいですね」
「は?」
意味が分からずに
「聞いてみたかったのは彼女との関係です」
「あん?」
「君の協力を得るのに彼女は使えるのかなと?」
「……似合わねぇ」
「知ってますよ」
「本当に似合わねぇやり方だな」
「趣味と
「意外と
「まあ
「そんなもんだろ。俺だって自分に都合良く状況を動かせるならって思う事は有ったし」
「……本当に自覚が無いんですね。普段の無関心さとのギャップが凄い」
「俺が優しいって?」
「
「もしくは、面倒を避ける為かもな」
「……
「
「
「このくらいだったらな」
四鬼の中で嫌味を言えるのは
霞の青山家の様な
だから子供の
「仕事
「アンタの周囲じゃ嫌味も策略も
「そうなんですよ。
「
「お
過去、四鬼の戦闘力を軍や対テロ部隊に組み込もうとする者たちは居た。
しかし妖魔
結果的に軍も対テロ部隊も
その時の状況、鬼の戦闘力は映像記録にも残されており四鬼の
当時最新鋭の戦車隊の砲撃を全て正面から雷の斧が
鬼への
各国が持つ魔装では
また、各国のテロ組織は鬼に使用される
それ程までに圧倒的で無慈悲で、同時に危険を
「あんな事件が有ればな。俺だってアンタ達には関わりたくない」
「酷い言われ様ですが、仕方の無い事ですね」
「はぁ。結局、何がアンタの本題なんだ?」
「最初から嘘は言っていません。学校を休んでいた間に同行していた少女との関係が知りたい」
「何でまた?」
「あの
「調べたのか?」
「まだです。彼女の名前は知っていますが、調べるには時間も人も足りないんですよ」
「人手不足は日本の常、だっけか?」
「ええ。あ、バイトとか探してません?」
「割の良いバイトしてるから良い」
「勧誘失敗ですね」
「本気じゃないだろうに」
「まあスカウトは無理ですよね。今の場所に思い入れが有るようですし」
「というか、そっちは
「あ~、それはどうしようもないですね」
霞にも心当たりが有るようだ。スカウトも本気じゃないのは軽い口調で分かる。
何よりも霞は裂と影鬼の少女が離れるのは楽しみが減るので嫌なのだ。
会話の流れでスカウトぽい事を口にしてはみたが裂の意見を聞く為の
霞も四鬼として鬼に成る為の訓練は受けており、その結果が良くないから黒子に成っただけだ。
自分のストレスが
趣味と実益は霞が最も重要視するものであり、実益よりも趣味が優先される。
その為、霞は仕事として影鬼の少女の調査を進める事を
裂に知らせる気は無いが、恐らく意図は伝わっただろう。
……私は君の邪魔をする気は有りませんので、楽しいラブコメを
そうでなければ裂と迷宮で共闘したり今回のように司法取引で間に入ったりはしない。
裂は今まで見えてこなかった霞のそんな部分を見て認識を改めた。
……何だ。四鬼の中に居る割に、この黒子はかなり異端鬼寄りじゃないか。
小さく笑みを浮かべた裂に霞が困惑した。
何かを確信したというか、意外な面白い物に気付いたといった笑みだ。
「どうしました?」
「ちょっと面白い事に気付いた。気にするな」
「ん? あ、彼女さんの事とか?」
「あん? いや、アンタの事だが?」
「は? 私の事ですか? 何てつまらない」
「アンタ、よくそれで社会人やってんな」
一気に興味を無くしてケーキを
一般的なコミュニケーション能力が有るならここは『何の事です?』とか『私の事は良いんです』とかいう場面だ。
それが自分の話題に成った瞬間に『つまらない』と言い出した。
「最初はもっと真っ当なヤツかと思ったが、意外にも危険思想だ」
「そうですか?」
今も20代中盤としては可愛らし過ぎる
裂の見立てでは四鬼が基準とする鬼になるメンタリティを満たしていないだけで異端鬼なら何ら問題無く鬼に成れるだろう。
「これ以上は特に面白い話は無いぜ? 何か聞きたい事なんて有るのか?」
「では彼女との馴れ初めを」
「それは無理」
「あら?」
「言わない様にって約束なんだよ」
「
「良い性格してる」
「お
「良い。
「あら、
「その方がアンタには楽しみが増えて良いんじゃないか?」
「うふふ、こんな嫌味も新鮮です。では、お付き合い頂きありがとうございました」
霞からの視線は感じないが周囲の客から
あまり気分の良い物ではないので裂は
土曜にはまた顔を合わせるのだ、今の内に霞への心理的耐性を付けておかないと
……影鬼と四鬼が繋がってなければこんな仕事、バックレてやるのに。
馬鹿らしい疲労感は頭を振って外に追い出し
霞との話を
帰りの電車の中で必要項目を埋めるだけの報告書をアプリに記入して家に着く前に報告を終えた。
追加の質問は来るかもしれないが今は知った事ではない。
乱暴にスマートフォンをポケットに放り込んで壁に背を預けて街を見下ろす。
立川駅周辺はビル街だが途中から住宅街に変わっていく。特別な事の無い日常を普通の人々が
裂はその日常という物に思い入れや
そんな無感情な理由から裂は自分の力を
同時に日常を崩す様な犯罪者や先日の暴力的な先輩3人は理由が有れば排除するのに
苦労させられているステルス妖魔にしても
現状では仕方なく四鬼に協力しているが残りの2体を討滅すれば開放される、と信じたい。
……国家権力と取引しておいて都合良く開放されるとも思えないけどな。
思い付く今後の状況はいくつかある。
影鬼へのスパイを要求される。
司法取引を無効にされる。
ステルス妖魔討滅中に
何の制限も無く今まで通りの生活に戻れると思っていない辺り裂は自分が犯罪者だという自覚は強い。
だから麻琴には連絡をしないし、彼女からの連絡が有れば無視して記録も可能な
……ま、異端鬼なんて犯罪者になったのが間違いだと言われたらその通りか。
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