拾漆
12月も後半、
影鬼による四鬼のIT技術者
裂の周囲に居る生徒たちから
特別に仲の良い相手の居ない裂は何となく雑談している時も有れば今のように特に誰とも話さずに居る時も有る。その為、孤立していても誰も何も思わない。
だが移動教室で廊下をクラスメイトと歩く
……アイツ、私が卒業したら本当に学校で孤立するんじゃないでしょうね?
つい視線で追ってしまったのを
「
「またって何よ?」
「いやいや、最近は心ここに
「何でも恋愛に
「じゃあどうして2年生の教室なんて
「何て言うか、どうしようもない
「要介護者って、凄い事言うね」
「裂の
「うわ、そこまで
「そうなのよ。高校に入る前からの付き合いだし、流石にね」
「ふぅん。でも何でそんな感じなんだろうね?」
「さあ? ただの
「あ~、それは
「でしょう」
裂が聞いたら心配される
人よりも多少は
それでも視線には
それは四鬼も影鬼も関係無い裂の有り方だ。
元々、裂の放課後の行動を制限してくる学校関係者は少ない。
先日の先輩3人は例外中の例外だ。
期末試験とクリスマスを控えているが時期的には期末試験にクラスメイトの意識は持っていかれている。
まだ放課後に何かに
そもそも四鬼からの呼び出しが有ったら学校の付き合いは断らないといけないが、クリスマスに用事が有ると彼女だなんだと騒がれて面倒なのだ。
それは去年に影鬼の仕事が入った時に実感したので今年は静かに過ごしたい。
面倒だと思いながらチャイムに合わせてスマートフォンをポケットに
放課後に成るまで
呼び出されていた通り四鬼が八王子警察署とは別に設置している事務所に向かう。
行政組織が高校生を仕事に使うなよと
場所は立川駅から徒歩10分のテナントビルの2階だ。3階も四鬼の
裂は
「よう、高校生」
「どうも」
扉の中はファミレスのスタッフルームのようになっていてパイプ椅子4脚と机が有り2人の男が座って
先日
魔装のサイズから分かっていた事だが獄炎鬼の
気安い口調で挨拶してくるのは
椅子の
裂は
「
「竜泉、コイツだって雑談は
「うっわ、これだから堅物は。どうだい?
「ブラックなら貰う」
「ほれ」
机の上には
空中で
口に
その後は特に会話も無い。
竜泉は
裂が適当にコーヒーを飲み終わった頃、事務所の扉が開いて
どう見ても
裂が居なければアダルトな映像作品の控室にも見えるが、鬼の2人が霞を
「こんにちは」
「
「ステルス妖魔
「……」
状況は事前に通知されていたので誰も驚かないが、裂だけは挨拶する
霞には司法取引の時に待ち伏せされたりステルス妖魔に2人で取り込まれた時など良い思い出が無い。
「
「ああ」
「男ばっかりだし、早く終わらせてしまおう」
「……」
裂の無言を
置かれた黒ペンを手に取って
それは今までに確認されたステルス妖魔と、過去に拉致された激流鬼の研究員の情報だ。
「この研究員から研究内容は聞けたのかい?」
「はい。彼から聞いた情報の中に今回の様な異常な性能を示す妖魔は居ませんでした」
「何?」
「拉致事件の当時に行われた聞き取り調査の再確認になっただけなのですが、ヤクザには満足な研究施設が用意出来なかったようです」
「研究では何も成果は無かったという事か?」
「お、異端鬼でもその辺は気に成るのか?」
「乱風さん、
「へぇ?」
「当時、国連から発表されていた情報よりも数パーセントは精度が良かったようですね」
「ああ、成果と言えるか微妙だな」
「そうです。ステルス妖魔の
霞の解説がホワイトボードに追加されていく。
彼女の性格から裂は
文章だけで説明するには面倒だが、写真に残す事を許す程に四鬼という組織が甘いとも思えない。スパイ映画のような小型カメラを持っている訳でも無いので文章化するのが面倒だと思いながら先を聞く。
「当時に生み出された妖魔の数は全部で5体。現状では
「待て。30年
「はい。私もそちらの
「迷宮内では時間の流れが遅かったが、それが理由か?」
「迷宮では数時間探索したのに外に出たら30分程度だったあれね。でも30年も有ったら例え時間の流れが遅くても10年程度は考えて良いんじゃないかな?」
「可能性としては、そもそもの力が弱いか、活動出来るように成ったのが最近だった、とかでしょうか?」
「各国の発表でもステルス妖魔と思われる被害は非常に少ないみたいだし、根本的にステルス妖魔以外の可能性も有る。30年前の事件が
「……聞きそびれていたんだが、30年前に生み出された妖魔の実験体は?」
裂の質問に全員が
妖魔は基本的に
つまり
だが鬼の2人が知らないから黙っているなら分かるが資料を読んだはずの霞が沈黙している。それに鬼の2人も知らなくて霞を待っているというよりも知っていて言う事を
「そんなに言い
「ああ。特に鬼としては少々躊躇われる」
「異端鬼で人体実験でもしたか?」
「
「5体の妖魔はいずれも人間を
西洋の複数の神話に登場するサイクロプスを
子供に
博物館に
実験に使われた人たちには他にも複数の
だが残りの2体について言い
「妖魔の特徴が不明なので残りの2名のどんな部分が妖魔として表層化しているかは不明です。一応、こちらが資料から判明している2名の特徴です」
そう言って霞が自分が記述を確認するように口に出しながらホワイトボードに情報を追記する。
「1人は30代後半の商社サラリーマンです。
浮気以外に特に
裂はこの後の人物に何か有ると
「最後の1人は女性です。当時は夫と数人の子供が居たようです。名前は、
「つまり、
「俺の
「30年前だとちょっと君の年齢が考え辛いね。40年とか45年とか言われるとシックリ来るけど」
「兄弟は多かったらしいし
「確かに灰山君の祖父、
「マジで?」
「授業
「あ、そうなの」
「灰燼鬼は灰山貴臣氏の代で業炎鬼に
「いいや。残っていた
「……
「ま、
「司法取引の条件として灰山君個人の事に
「よくそんな条件を四鬼上層部が許したね」
「それだけステルス妖魔を優先すると考えているようですね」
「つまり、灰燼鬼とはあくまでステルス妖魔の討滅についてのみ協力すれば良いのだろう。俺たちは
「灰山桐香と灰山裂君の間に接点が有ったら本業に
「信用は求めていない。そもそも俺は犯罪者だ」
「そりゃそうだ。OK、灰山桐香と君の関係については俺も忘れておくよ。あくまでステルス妖魔に
裂の
裂個人には興味が無いという面も有るのだが、霞は変に事態が
鬼の仕事で他の組織と大きく違うのは感情論や疑念によって人を説得する必要が無い部分だ。相手の気持ちに
……それに反発心が有るから私は鬼に成れないんでしょうね。
「当時の状況では人体実験の被害者は保護されなかったようです。薬物
「つまり、制御は全く出来ていなかったという事か」
「
「その分、
「でも俺たちが
「
「はいはい」
「思う所は有るでしょうが、ここからは現実的な話に成ります」
「そうだね。今までは過去の回想と状況確認だ」
竜泉の
今までと同じ様にホワイトボードに情報を書きながら話を再開させる。
「獄炎鬼、乱風鬼の
「まあ今までの話じゃしょうがないよね」
「取り込まれて分かったが、現時点では
「俺は別って事か?」
「ここからは灰山君を司法取引の相手に選んだ理由に成ります。君には灰山桐香の
「灰山家の
「そういう意見も出ていますが、出来る人員とは思えません」
正面切って
霞も機嫌を損ねるとは思っていなかったが少し安心してしまう。
「君にはヤクザの研究施設や灰山桐香が
「分かった。同行者は?」
「そうだよ
「か、霞ちゃん? えっと、調査は最低限の
「何? 妖魔に
「四鬼上層部としては戦力も発生率も分からない1体の妖魔を追う為に人員は最低限しか
「国連まで巻き込んだ妖魔に対して
「……そうか。確かどこかの
「私も細かい事情は知らされていませんが、人員を必要とするという事なら有り得る話だと思います」
「そっちの事情は俺たちが考える事では無いな。灰山裂と共に調査する日程は決まっているのか?」
「はい。次の土曜にしたいのですが、周囲に怪しまれるような予定は有りますか?」
「無い」
「では他に予定が入らないようお願いします」
「了解」
「おいおい、
「倒せると確信している訳じゃない。俺が何を意見しても意味が無いから
「うっわ、本当に業炎鬼系の鬼と同じメンタリティだ。霞ちゃんも同行するなら気を付けるんだよ?」
苦笑して竜泉のフォローに
「本日、こちらから伝えたい事は以上です。四鬼の2人には
「良いだろう。青山、気を付けろよ」
「頑張ってね、霞ちゃん」
「ありがとうございます」
「じゃ、俺は帰って良いんだな?」
「はい。ありがとうございました」
飲み干した缶コーヒーを捨てる場所は有るかというつもりで竜泉に缶を振って聞いた裂だが、竜泉は手を伸ばし渡す様に示される。
素直に空缶を竜泉に渡したが友好的な態度で受け取られ
「そんなに意外かな?」
「ああ。四鬼としては異端鬼は泳がせているが現場では目の
「正直だね。目の敵にしている四鬼が居るのは事実だけど、何事も人によるのさ。あまりここに居たくは無いんだろ? 帰るなら止めないよ。君には手の内を見せちゃってるし、長い付き合いはしたくないんだ」
「俺も、あんな馬鹿みたいな攻撃範囲を避けきれる自信は無い」
「あはは。じゃ、お
そう言いながらも竜泉は挑戦的な視線を裂に向けている。
言葉と
……四鬼ってのは妖魔討滅の
呆れて何も言う気に成らない裂は適当に手を振って別れを
竜泉の言う通り長い付き合いはお
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