拾漆

 四鬼しき影鬼かげおにの取引によってさく生贄いけにえにされてしまってから5日がった。


 12月も後半、期末きまつテストとクリスマスをひかえているにも関わらず裂は四鬼からの連絡を受けて学校の自分の席で溜息ためいきいた。

 影鬼による四鬼のIT技術者拉致らち背景はいけいは四鬼側に共有されているらしく、裂に四鬼からもたらされた情報には激流鬼げきりゅうき系列の研究者とヤクザの件がふくまれている。

 裂の周囲に居る生徒たちから物珍ものめずらしそうに視線が集まるが直ぐに友人との雑談に戻っていく。


 特別に仲の良い相手の居ない裂は何となく雑談している時も有れば今のように特に誰とも話さずに居る時も有る。その為、孤立していても誰も何も思わない。

 だが移動教室で廊下をクラスメイトと歩く麻琴まことはそうもいかない。


……アイツ、私が卒業したら本当に学校で孤立するんじゃないでしょうね?


 つい視線で追ってしまったのを目敏めざといいクラスメイトに見つかってしまう。


影鬼かげおにさん、また灰山はいやま君を探してたの?」

「またって何よ?」

「いやいや、最近は心ここにらずって感じだし、皆うわさしてるよ? 卒業間近まぢかで後輩の男の子と離れるのが不安なんじゃないかって」

「何でも恋愛にむすけ過ぎよ」

「じゃあどうして2年生の教室なんてのぞいてたの?」

「何て言うか、どうしようもない要介護者ようかいごしゃに不安をおぼえていた?」

「要介護者って、凄い事言うね」

「裂の世捨よすびとっぷりを知っているとね。高校中退するんじゃないかって思うくらいよ。むしろよく高校に進学したなって思ってるし」

「うわ、そこまで重症じゅうしょうなの?」

「そうなのよ。高校に入る前からの付き合いだし、流石にね」

「ふぅん。でも何でそんな感じなんだろうね?」

「さあ? ただの思春期ししゅんきなら良いけど、それで取り返しがつかない所まで行っちゃうと知り合いとしては悲しいのよね」

「あ~、それは茶化ちゃかすには微妙な感覚だね」

「でしょう」


 裂が聞いたら心配される筋合すじあいは無いと怒りそうな内容だ。

 人よりも多少は聴覚ちょうかくすぐれている裂だが流石さすが様々さまざまな生徒の雑談の中で廊下を行く集団の会話を正確に聴き取る事は出来ない。


 それでも視線には敏感びんかんなので廊下を歩く麻琴には気付いたが特に話し掛けようとは思わなかった。影鬼からの指示が無くとも別に麻琴を呼び止めようとは思わない。


 それは四鬼も影鬼も関係無い裂の有り方だ。

 元々、裂の放課後の行動を制限してくる学校関係者は少ない。

 先日の先輩3人は例外中の例外だ。

 期末試験とクリスマスを控えているが時期的には期末試験にクラスメイトの意識は持っていかれている。


 まだ放課後に何かにさそわれる時期でも無い。

 そもそも四鬼からの呼び出しが有ったら学校の付き合いは断らないといけないが、クリスマスに用事が有ると彼女だなんだと騒がれて面倒なのだ。

 それは去年に影鬼の仕事が入った時に実感したので今年は静かに過ごしたい。

 面倒だと思いながらチャイムに合わせてスマートフォンをポケットに仕舞しまう。


 放課後に成るまで無難ぶなんごして学校を出る。

 呼び出されていた通り四鬼が八王子警察署とは別に設置している事務所に向かう。

 行政組織が高校生を仕事に使うなよと溜息ためいききながら事務所に入る。


 場所は立川駅から徒歩10分のテナントビルの2階だ。3階も四鬼の施設しせつらしいが2階のオフィス内に有る階段でつながっており、逆にテナントビルとして設置されている本来の扉は溶接ようせつされて使用不可能になっている。

 裂は事前じぜんに貰っていたカードキーを使用して2階の扉を開く。


「よう、高校生」

「どうも」


 扉の中はファミレスのスタッフルームのようになっていてパイプ椅子4脚と机が有り2人の男が座ってくつろいでいた。

 先日挨拶あいさつした際にはどちらも初対面だと思っていたのだが、実は獄炎鬼ごくえんき乱風鬼らんふうきで恐竜妖魔と共闘した鬼だ。


 魔装のサイズから分かっていた事だが獄炎鬼の魔装まそう使いは非常に大柄おおがらな男で獄炎斧前ごくえん・ふぜんという。細身だがきたえられているのが分かる乱風鬼の男は乱風竜泉らんふう・りゅうせんと名乗った。


 気安い口調で挨拶してくるのは軽薄けいはく絶風鬼ぜっぷうき系列の竜泉だ。

 椅子の背凭せもたれに全体重を掛けてかり力無く手を振る仕草しぐさは酒が入ったホストのようにも見える。


 裂は形式的けいしきてきに声だけで返して壁に寄せてあったパイプ椅子を置いて座り腕を組んで目を閉じた。


灰燼鬼かいじんき業炎鬼ごうえんきに似た訓練をするって聞いているけど、態度まで似てるんだね」

「竜泉、コイツだって雑談はこのまないからこんな態度なんだ。人がそろうまで静かにしていろ」

「うっわ、これだから堅物は。どうだい? 珈琲コーヒーとか飲む?」

「ブラックなら貰う」

「ほれ」


 机の上には何故なぜか複数の缶の飲料が置かれており竜泉は裂に缶コーヒーを放り投げて来た。

 空中でゆるえがいた缶をつかむのは簡単で裂は会釈えしゃくしてから掴んだ右手の指だけでプルタブを開く。


 口にふくんで分かったが机に置かれていた為に常温じょうおんだ。インスタントと違って缶飲料かんいんりょうは常温でも飲みやすい味付けなのが凄いなとみょうな感想をいだきながら裂はコーヒーを口に含む。


 その後は特に会話も無い。

 竜泉は口数くちかずが多いのかと思ったが意外にも空気を読んでスマートフォンで自分の世界に入るという配慮はいりょが出来るようだ。

 裂が適当にコーヒーを飲み終わった頃、事務所の扉が開いてかすみが入って来た。


 いかつい男、軽薄な男、物静ものしずかな男子高校生。

 どう見ても可笑おかしな組み合わせの集団の中に霞を放り込むと更に何の集団だか分からなくなる。

 裂が居なければアダルトな映像作品の控室にも見えるが、鬼の2人が霞をかろんじていない様子に裂は驚いた。


「こんにちは」

青山あおやま黒子くろこか」

「ステルス妖魔以来いらいだね」

「……」


 状況は事前に通知されていたので誰も驚かないが、裂だけは挨拶する間柄あいだがらでも無いと会釈に見えなくもない仕草しぐさ誤魔化ごまかした。

 霞には司法取引の時に待ち伏せされたりステルス妖魔に2人で取り込まれた時など良い思い出が無い。友好的ゆうこうてきな態度を取る程に好意こういを抱ける相手では無いのだ。


早速さっそくですが、始めても?」

「ああ」

「男ばっかりだし、早く終わらせてしまおう」

「……」


 裂の無言を肯定こうていと受け取った霞は部屋のすみのホワイトボードの横に立つ。

 置かれた黒ペンを手に取ってよどみ無く何かの関係図を書いていく。

 それは今までに確認されたステルス妖魔と、過去に拉致された激流鬼の研究員の情報だ。


「この研究員から研究内容は聞けたのかい?」

「はい。彼から聞いた情報の中に今回の様な異常な性能を示す妖魔は居ませんでした」

「何?」

「拉致事件の当時に行われた聞き取り調査の再確認になっただけなのですが、ヤクザには満足な研究施設が用意出来なかったようです」

「研究では何も成果は無かったという事か?」

「お、異端鬼でもその辺は気に成るのか?」

「乱風さん、茶化ちゃかさないでください。成果せいかと言えるかは微妙ですが、通常の妖魔よりも周囲への被害ひがい考慮こうりょ、というかねらった相手以外には敵意てきいを持たないように方向付ほうこうづけする調整の精度せいどは高かったようです」

「へぇ?」

「当時、国連から発表されていた情報よりも数パーセントは精度が良かったようですね」

「ああ、成果と言えるか微妙だな」

「そうです。ステルス妖魔の片鱗へんりん垣間見かいまみえる部分としては暗殺という手段をこのみます」


 霞の解説がホワイトボードに追加されていく。

 彼女の性格から裂は勝手かって丸文字まるもじなのかと思っていたが意外にも習字しゅうじのようにげやねが綺麗だ。


 場違ばちがいな感想を抱きながら裂は影鬼への状況共有に悩んでいた。

 文章だけで説明するには面倒だが、写真に残す事を許す程に四鬼という組織が甘いとも思えない。スパイ映画のような小型カメラを持っている訳でも無いので文章化するのが面倒だと思いながら先を聞く。


「当時に生み出された妖魔の数は全部で5体。現状では単眼たんがん妖魔、般若はんにゃ妖魔、恐竜妖魔の3体が確認されていますので、もし全てが生き残っているならあと2体が30年近く進化を続けた事に成ります」

「待て。30年生存せいぞんしていたわりに先日の恐竜妖魔の力量りきりょうは平均より多少高い程度にしか感じなかった」

「はい。私もそちらの灰燼鬼かいじんき単独たんどくで2体を討滅とうめつしているのを目撃もくげきしていますが、とても30年進化し続けた妖魔とは思えませんでした」


「迷宮内では時間の流れが遅かったが、それが理由か?」

「迷宮では数時間探索したのに外に出たら30分程度だったあれね。でも30年も有ったら例え時間の流れが遅くても10年程度は考えて良いんじゃないかな?」

「可能性としては、そもそもの力が弱いか、活動出来るように成ったのが最近だった、とかでしょうか?」

「各国の発表でもステルス妖魔と思われる被害は非常に少ないみたいだし、根本的にステルス妖魔以外の可能性も有る。30年前の事件が発端ほったんだとすると青山さんが言った可能性は有りそうだね」

「……聞きそびれていたんだが、30年前に生み出された妖魔の実験体は?」


 裂の質問に全員がだまる。


 妖魔は基本的にの感情が何かを媒介ばいかいに現実世界に妖魔として発現はつげんする。

 つまりもとに成った何かが分かれば残りの2体の特徴を予想出来るし、潜伏せんぷく場所に何かの法則を見つけられるかもしれない。今までの3体との遭遇そうぐう地点は人気ひとけが少ない以外に特徴が無いので潜伏場所は誰も期待きたいしていないが、探す場所を想定出来るかどうかでモチベーションが変わる。


 だが鬼の2人が知らないから黙っているなら分かるが資料を読んだはずの霞が沈黙している。それに鬼の2人も知らなくて霞を待っているというよりも知っていて言う事を躊躇ためらっているようだ。


「そんなに言いづらい内容なのか?」

「ああ。特に鬼としては少々躊躇われる」

「異端鬼で人体実験でもしたか?」

直球ちょっきゅうで聞いてくれるね」

「5体の妖魔はいずれも人間を素体そたいにしていました。資料によれば小説家、シングルマザー、博物館警備員で今までに遭遇した妖魔の特徴に類似るいじするプロフィールはふくんでいます」


 西洋の複数の神話に登場するサイクロプスを連想れんそうさせる単眼妖魔。

 子供に執着しゅうちゃくするような母親を思わせる般若妖魔。

 博物館にかざられているような骨の標本から恐竜妖魔。


 実験に使われた人たちには他にも複数の趣味しゅみ背景はいけいを持っていたのだろうが、妖魔として表層化ひょうそうかしたのは霞が答えた部分なのだろう。

 だが残りの2体について言いよどむ理由にはならない。


「妖魔の特徴が不明なので残りの2名のどんな部分が妖魔として表層化しているかは不明です。一応、こちらが資料から判明している2名の特徴です」


 そう言って霞が自分が記述を確認するように口に出しながらホワイトボードに情報を追記する。


「1人は30代後半の商社サラリーマンです。妻子さいしは居ましたが浮気うわきをしていたようです。趣味は将棋しょうぎ草野球くさやきゅうでした」


 浮気以外に特に言及げんきゅうする特徴とくちょうの無い男のようだ。これで四鬼の仕事をつとめる人間が言い淀むとは考えづらい。

 裂はこの後の人物に何か有ると身構みがまえた。


「最後の1人は女性です。当時は夫と数人の子供が居たようです。名前は、灰山桐香はいやま・きりか

「つまり、灰燼鬼かいじんき君の身内みうちって事で俺たちは考えてたんだ」

「俺の祖母そぼだ。確かに行方不明だと聞かされてる」

「30年前だとちょっと君の年齢が考え辛いね。40年とか45年とか言われるとシックリ来るけど」


「兄弟は多かったらしいし祖父そふ再婚さいこんしている。桐香という祖母は俺と血縁けつえん関係は無い」

「確かに灰山君の祖父、灰山貴臣はいやま・たかおみ氏は再婚しています。後妻ごさいの子供、灰山君の両親は学生結婚でかなり若い時に彼を産んでいます」


「マジで?」

「授業参観さんかんでは歳の離れた兄弟みたいで微妙な目で見られた」

「あ、そうなの」

「灰燼鬼は灰山貴臣氏の代で業炎鬼に粛清しゅくせいされたと聞いているが、お前は貴臣氏から手解てほどきを受けたのか?」

「いいや。残っていた書物しょもつで個人的に訓練した」


「……魔装まそう出処でどころや現在の整備について本来ほんらいならただすところだが、話す気が無いならそれで良い」

「ま、動機どうきはどうあれ俺たちは妖魔を討滅出来れば良いしね」

「司法取引の条件として灰山君個人の事に言及げんきゅうする事は出来ません。仮に言及する場合は無条件で彼の協力は無効むこうと成り、異端鬼としての活動も放免する事に成ります」

「よくそんな条件を四鬼上層部が許したね」

「それだけステルス妖魔を優先すると考えているようですね」


「つまり、灰燼鬼とはあくまでステルス妖魔の討滅についてのみ協力すれば良いのだろう。俺たちは本業ほんぎょうだけに集中すれば良いと言う事だ」

「灰山桐香と灰山裂君の間に接点が有ったら本業にふくまれると思うけどねぇ」

「信用は求めていない。そもそも俺は犯罪者だ」

「そりゃそうだ。OK、灰山桐香と君の関係については俺も忘れておくよ。あくまでステルス妖魔に辿たどける可能性の有る人物と思っておこう」


 裂の背景はいけいにはまったく興味の無い斧前ふぜん、仕事と関係するかもとうたが竜泉りゅうせんとコンビのわりに微妙に考え方に違いが有る。それでも協力出来る辺り彼らは鬼として疑惑ぎわく疑念ぎねんといった感情によって動きをにぶらせない。


 裂個人には興味が無いという面も有るのだが、霞は変に事態がこじれなくて良かったと安堵あんどの息をく。


 鬼の仕事で他の組織と大きく違うのは感情論や疑念によって人を説得する必要が無い部分だ。相手の気持ちに配慮はいりょする事は無く、仮に配慮しているように見える場合は単純に無関心で聞き流しているだけの事が多い。


……それに反発心が有るから私は鬼に成れないんでしょうね。


 自虐じぎゃくしつつ状況の推移すいい見守みまもっていた霞は3人の注目を集める為に軽くホワイトボードをペンで叩いた。


「当時の状況では人体実験の被害者は保護されなかったようです。薬物投与とうよのち、四鬼が施設を強襲きょうしゅうする前に施設を脱走だっそうしています」

「つまり、制御は全く出来ていなかったという事か」

欧州おうしゅうのテロ屋みたいに魔動駆関まどうくかんの研究でもしてくれよ。その方がその場で対応出来る」

「その分、被害ひがい尋常じんじょうではなくなるだろう。30年前のストレスカット技術で一般人を鬼にしていれば悪鬼あっきが生まれていたはずだ」

「でも俺たちが対処たいしょする事無く当時の鬼たちがどうにかしてくれたと思わない?」

職務放棄しょくむほうき思想しそう心中しんちゅうとどめておけ。あまり酷いと説教しなければならない」

「はいはい」

「思う所は有るでしょうが、ここからは現実的な話に成ります」

「そうだね。今までは過去の回想と状況確認だ」


 竜泉の相槌あいづちによって先をうながされた霞はホワイトボードを反転させた。

 今までと同じ様にホワイトボードに情報を書きながら話を再開させる。


「獄炎鬼、乱風鬼の両名りょうめいはサラリーマンの妖魔を追って貰います。ただ、現状ではどのような妖魔に成っているのか全く分かりません。なので通常勤務の中でステルス妖魔探索を優先する形とします」

「まあ今までの話じゃしょうがないよね」

「取り込まれて分かったが、現時点では探知たんちする方法が無い。妥当だとうな判断だろう」


「俺は別って事か?」

「ここからは灰山君を司法取引の相手に選んだ理由に成ります。君には灰山桐香の生前せいぜんの情報を追って貰います」

「灰山家の家系図かけいずとか親戚しんせきに話を聞いて来いって?」

「そういう意見も出ていますが、出来る人員とは思えません」


 正面切って身内みうち不仲ふなかだ、コミュニケーション能力が無いだろうと言われたのだが裂は機嫌きげんそこねる様子も無く首肯しゅこうした。

 霞も機嫌を損ねるとは思っていなかったが少し安心してしまう。


「君にはヤクザの研究施設や灰山桐香が拉致らちの直前におとずれた場所の再調査に同行して貰います」

「分かった。同行者は?」

「そうだよかすみちゃん、俺たちは普通の巡回なんだろ?」

「か、霞ちゃん? えっと、調査は最低限の黒子くろこで行います」

「何? 妖魔に遭遇そうぐうした場合の戦力としては心許こころもとないな」

「四鬼上層部としては戦力も発生率も分からない1体の妖魔を追う為に人員は最低限しかけないとの判断です」

「国連まで巻き込んだ妖魔に対して随分ずいぶん悠長ゆうちょうだね」


「……そうか。確かどこかの友好国ゆうこうこくから使者ししゃ来日らいにちする予定だったな」

「私も細かい事情は知らされていませんが、人員を必要とするという事なら有り得る話だと思います」

「そっちの事情は俺たちが考える事では無いな。灰山裂と共に調査する日程は決まっているのか?」

「はい。次の土曜にしたいのですが、周囲に怪しまれるような予定は有りますか?」

「無い」


「では他に予定が入らないようお願いします」

「了解」

「おいおい、単独たんどくで2体も討滅しているからって強気つよきだね?」

「倒せると確信している訳じゃない。俺が何を意見しても意味が無いからしたがっているだけだ」

「うっわ、本当に業炎鬼系の鬼と同じメンタリティだ。霞ちゃんも同行するなら気を付けるんだよ?」


 苦笑して竜泉のフォローに曖昧あいまいな首肯を返し霞は会議を終わらせに掛かる。


「本日、こちらから伝えたい事は以上です。四鬼の2人には巡回じゅんかいルートをアプリ経由で連絡します。灰山君にはメッセージにて連絡するので土曜日に会いましょう」

「良いだろう。青山、気を付けろよ」

「頑張ってね、霞ちゃん」

「ありがとうございます」

「じゃ、俺は帰って良いんだな?」

「はい。ありがとうございました」


 飲み干した缶コーヒーを捨てる場所は有るかというつもりで竜泉に缶を振って聞いた裂だが、竜泉は手を伸ばし渡す様に示される。

 素直に空缶を竜泉に渡したが友好的な態度で受け取られ拍子抜ひょうしぬけしたように目を軽く見開いた。


「そんなに意外かな?」

「ああ。四鬼としては異端鬼は泳がせているが現場では目のかたきにしてるかと思ってた」

「正直だね。目の敵にしている四鬼が居るのは事実だけど、何事も人によるのさ。あまりここに居たくは無いんだろ? 帰るなら止めないよ。君には手の内を見せちゃってるし、長い付き合いはしたくないんだ」

「俺も、あんな馬鹿みたいな攻撃範囲を避けきれる自信は無い」

「あはは。じゃ、おたがいに敵に成らないよう気を付けるとしようか」


 そう言いながらも竜泉は挑戦的な視線を裂に向けている。

 言葉と裏腹うらはらな視線に戦闘狂せんとうきょうなのかと裂が思い始めていると斧前も似た様な目をしていた。


……四鬼ってのは妖魔討滅の人形にんぎょうみたいな存在だって聞いてたが、とてもそうは見えねえな。


 呆れて何も言う気に成らない裂は適当に手を振って別れをげ事務所を出た。

 深入ふかいりして下手な情報を知ってしまう方が面倒だし、彼らにはまだ彼らだけの打ち合わせも有るだろう。

 竜泉の言う通り長い付き合いはおことわりだった。

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