拾陸
先日の恐竜妖魔に裂が
12月中旬、受験生ならラストスパートを掛けて学生らしいイベントを後回しにする者も居るところだが、麻琴が受験勉強以外に打ち込むのは
これが実務的な相手ならまだしも潤は妙に麻琴の事を
基本的には
同じ頃、裂は
「四鬼との協力はあくまでも
「それでも怪しまない程度に
「はい。今回の事で麻琴お嬢様もお気付きになられたでしょうが、四鬼と影鬼の上層部にはパイプが有ります」
「でなければ裂と四鬼での司法取引なんて有り得ないものね」
「麻琴お嬢様の感覚で良いのですが、灰山裂は状況に気付くでしょうか?」
「気付かなくても余計な事は言わないようにするでしょうね。元々口数は少ないし変に情報が
「では、状況には気付かれないと?」
「何とも言えないわね。口数が少ないのは私に対しても同じだし」
「それでよく数年も専属契約出来ましたね」
「口数も興味も少ないから続いたんでしょうね。お
「今更ながら、どんな関係だったんですか?」
潤が裂との関係を勘違いしているのは察しているが訂正するのも面倒だし本題ではないので放置する事にした。
本題は麻琴に声が掛った理由だ。
正直に言えば麻琴に何かをするタイミングが有るようには感じられない。
「私と裂の関係は、ドラマでしか見た事無いけど仕事仲間って以上には
「麻琴お嬢様には事前に連絡した通り灰山裂との接触を
「どういう事?」
「お嬢様は、影鬼の
「……私は鬼には成れない。それでも幹部候補って事は、何か事情が有るの?」
「はい。お嬢様が喜ばれないのはこの図書館に
「……素直に言ってくれるわね」
確かに麻琴には影鬼の家で上に行こうという気は無い。
単純に探し物に便利なので影鬼家から離れる事は考えていないが、別に妖魔の情報が追えるなら四鬼でも構わない。影鬼家に興味が無い事は隠す気も無いので影鬼関係者の中では周知の事実と言って良い。
潤も当然知っているので麻琴にとって幹部候補に成る事は
ただ、麻琴を幹部候補に挙げたのは現当主の影鬼
麻琴も潤の立場は理解している。
「念の為に聞きたいのだけど、候補を辞退する事は出来るのかしら?」
「
「でしょうね。私は分家で鬼にも成れない。幹部は
「まあ通例というだけで幹部に成るのに鬼である事は
「幹部は老人が多いし通例は気にするでしょうね。と言うか、気にしてなくても反対の理由にしてくるでしょうね」
「はい。現当主からの発表に対して複数の幹部から連盟で反対が有り、複数ある理由の内の1つでした」
「時間の無駄が好きね。私は幹部に成る気なんて無いのに」
「お嬢様にその気が無くても反対する事で利用価値が有ると思えばポーズだけでも取っておく必要が有るのでしょう」
「政治ね。
「ふふっ」
その為に麻琴が幹部に成るのは
「では、影鬼と四鬼が交渉する際には事前に連絡します。当たり前ですが情報が
「タイミングが合わなければどうなるのかしら?」
「その際は内容を報告しますが文章や映像のような証拠に成る物は残せないので
「凄いわね。そこまでするなんてね」
「それだけ幹部候補の件、現当主は本気なのでしょう」
「何を考えているのかしらね。話は分かったわ。基本的に私は待っていれば良いのね?」
「はい。無理を言いますが、よろしくお願いします」
話は終わり、麻琴も潤も真面目な表情を崩して苦笑する。
10年以上の付き合いが有れば真面目な時と
麻琴に姉は居ないし、潤にも妹は居ないが、今の2人は仲の良い姉妹に見えるだろう。
だから良い関係を
「単純に疑問だったんですが、灰山裂とはどの程度の頻度で連絡を取っていたんです?」
「潤、本当に何か勘違いしていない?」
「勘違いは別に良いんですけど、純粋に灰山裂との関係は気に成りますね」
「
「麻琴お嬢様の口から漫画やゲームの話題が出るだけで
「私を何だと思っているのよ」
「お嬢様?」
「
芸能人じゃないんだからと
他の影鬼家が高圧的な中で態度は
どうしても人の
裂とは互いに無関心なのが分かり
しかし付き合いの長い潤にしてみれば1人の男と数年に渡って付き合いが有るだけで珍しい。小学校から現在までどんな相手とも学年が変われば
実家が影鬼家という犯罪組織な事を
それがやっと長く付き合える相手と
「まあ、影鬼家としても灰山裂は便利な異端鬼です。今回は四鬼との取引に使われていますが、使い潰すつもりは無いでしょう」
「犯罪組織の便利な
「……ほ、ほら、彼はまだ若いし、使い潰される前に、彼なら何か対策、すると、思いますよ?」
「まあアイツを多少でも知ってるなら大丈夫なんて言えないわよね」
「……すみません」
使い潰されるというのは潤も同意見だ。
影鬼家の資料を
裂は麻琴を通して間接的に現当主の
潤も麻琴の言葉に反論せずに素直に受け止めるしかない。
麻琴も安易な慰めの言葉を言わないから潤に安心して頼れる。
「気にしても仕方無いわよ。高校卒業したら蒲田支部に行くらしいわ」
「ああ、職員を通して1人でも
「高校卒業しないと仕事の
「麻琴お嬢様の頼みですから。灰山裂の現在、今後の実力を見込んで最も
「苦労させちゃったわね」
「お嬢様からの依頼なんて初めてでしたからね。それに、自身の為じゃなく誰かの為なんて、この業界では異常と言っても良い依頼ですから」
「まあ、
「実はお嬢様の依頼の後、職員から他人の為の改善提案や異端鬼向けの仕事が出るようになったんですよ」
「……何で?」
「まあ優しさは
「犯罪組織
「影鬼図書館は
「地域ボランティアに参加する犯罪組織って何?」
「組織運営には地域に受け入れて貰う事も必要ですからね。イメージ戦略ですよ」
「
影鬼家は間違いなく法を
影鬼家が地域に
2人でそのギャップに苦笑して秘密の会議室で席を立った。
「場所を
「そうね。じゃ、お言葉に甘えましょうか」
「
「ええ。元々、今日は遅いかもしれないから夕飯は
「学生相手にすみません」
「今更でしょう。それに潤と仕事の話をするって言ったら頑張ってと言われたわ」
「
「
話ながら関係者以外立ち入り禁止の扉から表の図書館に出る。
本棚が並ぶ
麻琴も潤も適当に
それを見て潤は
自分を
「尊敬されたりして、
「
「少し笑ってたでしょ?」
「見られてましたか」
「人の感情には敏感なの。さて、何食べようかしらね」
「和食、中華、洋食。この辺は何でも有りますよ」
「そうね。じゃ、久々に和食かしら」
図書館を出ながら交わされた会話だ。特に声量にも気を付けていない。
職員の中には聞き取れた者も居たが
そこを気にしない部分も含めて職業病なのだがそれは話して気にしない
「
「その分だけカロリー消費して下さいね」
「……受験生には難しい注文ね」
「メニューを先に考えると店に入ってからがスムーズですよね」
「無理に
姉貴分を困らせてやろうと言ってみたのだがカウンターを受けてしまいせめてもの抵抗をするしかない麻琴だった。
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