拾伍
ステルス妖魔のレポートが日本から国連に提出されて2週間。
最初は完全に新種の特性を持つ妖魔に
各国の行方不明になった
事故、妖魔との戦闘
調査結果を受けて政府が比率を低く見積もっていると
そんな世界的にもステルス妖魔に対して『警戒し過ぎない程度に警戒しよう』と一般論的な結論に落ち着いた頃、
共に家の事情で数日の間は通学出来ないと
麻琴は受験の為に授業は
特別に不公平感も覚えなかった裂だが状況を伝えたところ麻琴から放課後に図書館に呼び出された。麻琴としては影鬼の仕事で課題が増えた事に罪悪感を覚えたらしく手伝いを申し出たのだ。
優等生で学年も上という事で裂に出された課題は麻琴にとっては簡単な物だった。
裂も普段から平均点を取れる程度に授業は聞いているので変に理解不足で時間を取られる事も無く、夜の7時には課題も全て終わり2人は図書館で分かれる。
そんな夜の帰り道、裂は1人暮らしの自宅への
体格からして成人女性だろう。冬らしく厚手のコートを羽織りボタンは上まで上げ、
住宅街の道路で逃場の無い1本道の
合図は伝わったらしく女はコートの首元を
「ステルス妖魔の時の
「
霞が裂に話し掛けるのに合わせて背後の2名も裂から距離を取って足を止めた。
男達が霞を警戒する様子も無く、
包囲を突破するなら確実に霞の方だが、ここまで
「何の用だ?」
「警察としての仕事です。心当たりが無いとは言えませんよね?」
「まぁな」
四鬼以外の鬼は犯罪者だ。四鬼が警察内部の組織である以上、取り締まる義務が有る。
学校や図書館に
「では、ステルス妖魔の情報収集に協力して貰います」
「……
想像とは異なる霞の宣言に首を
霞の要望が何だったとしても情報不足なのは変わらない。話し合いに
「それは有りますが、司法取引です。ステルス妖魔の危険性を考慮すれば妖魔
「……そんな
「もし交渉するつもりなら、それは貴方が交渉に足るだけの力量が有ると判断した場合です。これは交渉ではなく、通達に成ります」
今までの霞の様子から考えても相当に違和感が有る。
裂の記憶の中の霞はもっと穏やかというか、悪く言えばポンコツな雰囲気が有った。
「拒否した場合は実力行使って事か」
「そうです。私を含めた3人は黒子ですが、他に正規の鬼も複数待機していますよ」
「……逃げ切れる訳は無い、か」
「その通りです」
霞が言い切った事で裂は影鬼に対して自分の立ち位置を考え、
頭脳労働は苦手なのだ、
そんな風に考えた瞬間、スマートフォンがメッセージを受信し振動した。
手振りで霞に見て良いか確認すると
メッセージは
「良いだろう。ただ、協力はするが取引と言ったな。俺は異端鬼としての活動を許されると思って良いのか?」
「はい。細かい契約は後ほど
「へぇ?」
「下手に貴方に干渉し貴方が通う学校内で生徒たちのストレス値は上げたく有りませんから」
別に裂の納得の
強引に従わせ、その後の裂の人生や生活圏を破壊しても彼らには何も関係が無いのだが、その辺は四鬼にとっての都合も有って
「明日の放課後に八王子警察に来て下さい。受付で私の名前を出せば案内してもらうようにしておきます」
「そこで契約を交わすのか?」
「はい。一方的に
「特に無い。明日の放課後、八王子警察署だな」
「はい。細かい時間は指定しません。学校では怪しまれないよう
少し遅れて背後の男達も無用の争いを避ける為に足音を隠さずに離れていく。
残された裂は影鬼家のアカウントに指示通りに司法取引に応じたと報告すると直ぐに返信が入る。
今後は麻琴と物理的に距離を取るように書かれており、麻琴にも同様に連絡が行ったようだ。
……分家とは言え影鬼の身内だしな。当然と言えば当然だけど、妙にタイミングが良いな?
裂と麻琴が復学して数日で裂の帰宅時間まで
更に影鬼の本家筋から見計らったタイミングでの連絡、四鬼側も裂がスマートフォンを見せて何の反応もしなかった。四鬼と影鬼の間で何かの取引が有ったと考える場面だが、裂の立場ではこれ以上は妄想に近い
▽▽▽
四鬼から接触を受けた翌日、裂は霞の指示通りに放課後に八王子警察署を
普段からクラスメイトとは軽い雑談はするが口数が少ない事や1人でボーっとしている事も多いので友人が多いという事は無い。同時に変に孤立して怪しまれないよう適当に会話はしているので単純に人付き合いが苦手なタイプと思われている。
そんな環境なので特に放課後に引き留められる事も無く学校を出た。
先日の先輩3人に囲まれた事件の聞き取りは既に終わっているので教師陣から呼ばれる事も無いのが
霞が言っていた通り警察署の受付で青山霞から呼ばれている事を伝えると少しの待ち時間の後に署内の応接室に案内された。普通の接客と同様に机には茶と
ソファに座って数分で霞が部屋に入って来た。手には書類が有り恐らく司法取引に関係した物だろう。
「お待たせしました」
「いや。受付で話が通って無かったらどうしようかと思った程度だ」
「ご心配無く、と言う相手では有りませんね」
「そうだな」
「雑談する間柄でも有りませんし、本題に入りましょうか」
「ああ」
「司法取引の内容は昨日に話した通りです。貴方にはステルス妖魔の調査、討滅を手伝って貰います。
「ああ。その辺の詳しい事を今日、通達されるものだと思っていた」
「その通りです。取引の終了条件は四鬼でステルス妖魔の索敵方法、討滅方法を確立するまでです」
「……厄介な」
簡単に言えば四鬼側の
既に
四鬼としては有用な戦力として
「念の為に言っておきますが、最長で3年の契約という文章は盛り込んでいますよ」
「長い文章の
「用心深いわね。本当に高校生?」
「異端鬼なんて特殊な犯罪者が普通の高校生と同じ感覚な訳無いだろ」
「それもそうね。君へ取引を持ち掛ける前に影鬼から接触が有ったわ」
「ウチの優秀な
「優秀、なの?」
冗談で言ったのに本気で返されては反応に困る。
首を振って冗談だと伝えると少々気まずそうに目を
「影鬼側は何て言って俺をアンタたちに紹介したんだ?」
少々呆れ顔で聞くと余計に目を逸らされる。
これは単純に
「ウチの若いのに
「……それが影鬼からのメッセージか?」
「……はい」
「何で、こんな、変な誤解が
結局、何も言えずに
「で、影鬼の女の子の事、好きなの? 昨日一緒に帰ってた子?」
「何を想像しているのかは知らないが、昨日一緒だったのは学校の先輩だ。前から付き合いが有って休学してた間の課題を手伝って貰ってたんだ」
「へぇ、へぇ」
「ニヤケ顔。ついでに言っておくと卒業後は俺は八王子から離れるし会う事も無いと思うぜ」
「遠距離恋愛」
「
「……無いですね」
「恋愛感情は人類史の中で
「異端鬼がそうとは限らないじゃないですか? 現に影鬼側の主張ではそうなっているようですよ? それに
「
「あれ? 灰燼鬼は灰山君のお爺さんの代で
「ああ。家の
「じゃあ業炎鬼系と違う内容かもしれませんよねぇ?」
嫌らしい
「司法取引はどうした?」
「チッ……では影鬼側の主張はまた後日とし、詳細な取引条件を確認していきましょうか」
しかし早めに帰ってしまいたい裂としては
その集中の甲斐も有って司法取引の確認は30分程度で終了した。
そもそも四鬼と影鬼の上層部で既に条件は
書類内容は発覚時の面倒を避ける為なのか特に
霞も最初に読んだ際には同様に考えたらしく裂が
「では、これで全部の条件は確認しましたね。サインをお願いします」
冗談の様な単純な取引内容に頭を
「これで司法取引は
「お時間頂きありがとうございました本日はこれで失礼しますさようなら」
感情も
霞は
案内された際に署内の間取りは把握していたので呼び止められない内に一気に警察署を出て大きく距離を取った。
犯罪者が警察から逃げるような早足だったが事実なので仕方が無い。
警察からの協力要請は学生という身分を考慮して土日に集中するらしい。
ステルス妖魔に関わってから鬼としても学生としても面倒な事に巻き込まれてばかり。
これ以上の面倒が起きない事を
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