拾弐
池袋駅ホームでの妖魔反応と同時に
部屋そのものは先日の
裂から通達に対しての返信で自分がステルス妖魔に取り込まれる可能性が有ると連絡が有ったのが大きい。
本来なら
未確認の妖魔であり敵対組織の中でも平均的な能力値の集団が行方不明なのだ、問題の妖魔に直接接触の経験が有る者の意見は重要だ。
何よりも今は処理能力に余裕が有る。裂と常にパイプを作るのでは無く彼の位置情報をモニターするだけなら問題無い。
そのモニターが
指揮権限を持つ者がリアルタイムで状況を把握出来たのは大きい。
ただ状況が不明なのは同じだ。
裂の反応消失から10分、呼び出された
「影鬼麻琴だな」
「はい。到着しました」
「約10分前、灰山裂の反応が消失した」
「……場所は?」
「池袋駅のホームだ」
「私に消失する直前に連絡が有りました」
「こちらにも連絡が有った。恐らく状況に対応出来る相手に送っているのだろう。お前は灰山裂と専属契約を結んでいたと聞いている。灰山裂の思考や対応は予想できるか?」
「……恐らく迷宮の
「以前の報告では
「生存の為の対応です。今回は四鬼が2人に黒子が8人居ますから彼は四鬼が全滅しない限りは一般人を
「……なるほど。こちらは四鬼が消息を絶ったエリアの調査を行う。君は灰山裂の反応が復活する事が無いかモニターしてくれ。状況次第では四鬼側の問題について質問もするからそのつもりで」
「分かりました」
「麻琴嬢に席を用意しろ。引き続きステルス妖魔について状況収集を進める。
指揮官の指示にその場のスタッフたちが
麻琴としては顔見知りの潤の事も
思っていた以上に頼りにされているようでステルス妖魔について指揮官から
……ステルス妖魔について相当に危険視しているのかしら?
普通のプロなら麻琴のような高校生が現場に入る事は
その
裂のモニターを割り当てられたのも自分が組織的な動きに不慣れな事と裂との連携の実績が有るという単純な適材適所以上の理由はなさそうだ。
ある種の信頼を向けてくる指揮官やスタッフたちを
スタッフたちの麻琴への対応が誠実なのは純粋に彼女の普段の対応やこれまでの裂との仕事の実績、そして影鬼家
そんな
……頼むから無駄足にさせないでよ、裂。
自分が
本心からそれだけ思って麻琴は仕事に集中していった。
▽▽▽
池袋駅のホームから
もし同じ迷宮に四鬼の
事前情報無しの相手ならば良いがもし外見や性格の
……
迷宮に入ったばかりで周囲に何かが居るような気配は無い。
気配といっても裂が分かるのは足音や呼吸音がするか程度のものだ。
つまり、相手が裂を認識して隠れて居れば裂には相手を見つけられる手段が無い。
四鬼が行方不明になった原因がステルス妖魔の可能性は高いが、裂を取り込んだステルス妖魔と同じとは限らない。
仮に同じ妖魔だとしても同じ迷宮に
……まあ、何も分からないんだから警戒して進むしかないか。
手持ち鞄の中に入っている背負う用の
同時に眼鏡もケースに
裂の眼鏡は
そもそも裂は充電が面倒なので本当の意味で伊達眼鏡だ。
……やっぱりステルス妖魔が取り込む迷宮は
今回の門は金属製の檻、妖魔は恐竜を
恐らくSF映画の恐竜物のイメージだろう。壁は
過去2回の迷宮と
……四鬼が同じ迷宮に居たら先に見られちまうかもな。
妖魔からも人間からも隠れる場所が無いので立ち回りを間違えると前後から
下段の通路を上から
……エリマキトカゲだっけか? 中型犬くらいだけど爪と牙がヤバ過ぎ。
首回りの
……仮に四鬼と遭遇してもこの中を一般人が通って来れたってのに怪しまれるな。
苦しい言い訳としては四鬼が討滅した後を
考えておきながら自分なら信じないと否定した。
四鬼に遭遇した際にはもう
通路は直ぐにT字の行き止まりになっているが、左は5メートル程で行き止まりだ。右側はまだまだ先に続いており、遠目にも更に横道が複数に分かれている。
……今回は長くなりそうだ。
心の底から深い
ポケットからグローブを取り出し両手に装着し、四鬼だろうが妖魔だろうが関係無く先手を取るつもりで先に進む事にした。
▽▽▽
探索を開始して30分、見た印象は広大だが妖魔の数は少ないのか速足で迷宮を進んでいる裂はエリマキトカゲ妖魔を3体
過去の迷宮では30分で倍近い数に
最初に下段通路で見た妖魔とは遭遇していない。
そもそも上段への階段は有るが下段への階段が見つけられない。
探索開始40分、4体目のエリマキトカゲ妖魔が正面から歩いて来る。
ほぼ同じタイミングで
裂の接近が速足なのに合わせるようにエリマキトカゲ妖魔の歩も速くなる。
予備動作が見えていた為に裂も対応する
空中で右前足の爪を
がら空きの腹部に向けてアッパーを放ち、空中に
妖魔を打ち上げ続ける程の拳を連続で放つ事は出来ない。それでもエリマキトカゲ妖魔を
通常の姿勢に戻ろうと暴れる妖魔の腹を裂は思い切りスタンピングする。
妖魔に対して有効な攻撃は
そう考えると生身での打撃は効率的ではないが相手は生物の形状を
スタンピングによって内臓にダメージを受けたエリマキトカゲ妖魔の動きは鈍く成った。
その隙に裂は右拳に力を込めて振り上げ、魔装の右腕を意識する。
魔装を召喚している訳でなく
輪郭だけの右拳をエリマキトカゲ妖魔の顔面に振り下ろし、
妖魔の体液とも言える黒い液体が周囲に飛び散り、それが
妖魔の体格からすれば破損させた体積は全体の3割だ。
拳を振り上げ右前足の付け根、胸、腹と同様に破裂させ体積を7割を破損させ、裂は軽く妖魔から距離を取る。
妖魔はそのまま全身を黒い靄に身を
……魔装を呼ぶ程じゃない。四鬼は武器持ちだし、余計に楽だろう。
今までの迷宮と比較しても妖魔が少ないのはここを四鬼が通ったからなのか、それとも小型妖魔の
やはり裂に真実が分かる訳も無く、右拳を振って実際には
奥に続いているが行き止まりは目視出来る距離だ。目測で50メートル程、その間に左右に複数の道が続いている。
緊張を
……金属音? いや、戦闘音か?
薄っすらとだが金属同士がぶつかるような
戦闘で
妖魔が単独で出す音とは考え
音に近づくと正面というよりは上から聞こえるように感じ、裂は足を止めた。
視界の範囲に上段の通路は無い。
しかし上段への階段は有る。
その
……行って確かめるしかないのか。
見つかるリスクは非常に高まるが音の
他に上に向かう階段も見えなかったのでこのまま先に向かう事にした。
そのまま50分、迷宮に取り込まれて1時間40分は経った頃に裂は自分に先行する集団を見つけた。
遠目なので正確な人数は分からないが10人程度、
裂の
直ぐに足音を鳴らさないように意識して後退し、四鬼を
スマートフォンのカメラ部分だけ角から出して倍率を上げて見ると
……流石に何をしているかは分からないか。
誰かが怪我して
背後を見張る人員が居ない事を考えると正面に何かが有って、それに対してどう対応するかを考えているようにも見える。
スマホを
再度カメラで集団を確認してみれば足音の通り遠ざかっていくのが見えた。
緊張を
集団に見つからないよう、しかし追う形で通路を進む。
通路には複数の横道も有るので裂は横道に近づくと柱に身を隠して集団との距離を測る。
数回は同じ動作を
目視出来なくなった事に多少の焦りは有るが裂は深呼吸して気分を落ち着けると今までと同じ
直ぐに横道まで戻って柱に身を隠しながら耳を立てると何かを見つけたようだ。
「各員、装備の点検を」
「ここでステルス妖魔を討滅出来れば良いが」
「次のエリアへの扉の可能性も有ったか?」
「はい。まるでゲームのダンジョンみたいでしたね」
「経験者の意見は貴重だ。各員、
「しかし青山さんも大変ですね。3回目ですか?」
「私が追われてるのかと
「ここに報告の
「あはは、
……あはははははは。
心の中で
またしても
彼らの前には巻き込まれた時と
見た目からして雰囲気が違う門に
四鬼2人も裂と同じ感覚を持っているようで黒子たちに少し離れるように手で指示しているのが見えた。
……
四鬼の分家は家によって武器が異なるので家の想定は難しい。
近くで見れば刀の
全員の準備が整ったようで黒子2人が両開きの左右を持つ。開けた際に
左扉を担当する黒子が軽く手を振っているのを見るにカウントを行っているようだ。
大き目に手が振られた直後、扉が大きく左右に開かれる。
2人の四鬼は奇襲が有れば正面から受け止めるつもりだったようだが、奇襲は無かった。
裂も含めて全員が息を吐いて気合を入れ直し、四鬼たちは扉の先を見た。
扉の先は円形の足場になっており、その先に
流石に裂の位置から扉の先の状況は見えないが、以前の迷宮のように扉の先が見えないという構造で無い事だけは分かる。
……本当に迷宮によって構造がバラバラだな。
改めて迷宮に対して過去の経験値が役に立たない事を実感して裂は溜息を吐いた。
四鬼たちは全員が扉を抜けて先に進んだが、直後に扉が自動で閉じたように見えた。遠目でも扉を構成する柵の奥に何かが続いているようには見えず、四鬼たちに気付かれるリスクを
10分待って何も変化が無ければ突入しようと決め、スマートフォンでアラームをセットして壁を背に座る。
……頼むから四鬼だけで状況を解決してくれよ。
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