拾壱
相手は戦闘訓練を積んでいない事、
ともかく
影鬼家が保有する施設に連れ込まれた職員は普通ならパニックを起こしそうなものだが、存外冷静だった。
「反社会組織に拉致された時のマニュアルが有るものでね」
「なるほど。取引には応じない、
「……」
フルフェイスマスクで顔を隠し、内部に
別室に待機した
裂たちの居る控室には他にも影鬼の人員が複数人待機しており薬物や拷問器具、金品が入っているらしきアタッシュケースなど説得用の
「本日はお疲れさまでした。この先は交渉になりますので指定された方以外はお帰り頂いて大丈夫です。見学希望の方は
まるで本職の執事かと思う程に
図書館で見た時は最低限のマナーであそこまで丁寧には見えなかったが何か理由が有るのだろう。
役目が無い異端鬼の中に見学希望は居なかったので10人の異端鬼の内、7人が控室を
この先は潤を含めた影鬼家側の仕事だ。
図書館のように連れ立っている異端鬼が居ないところを見ると立ち話をしていたのは残った3人だったのかもしれない。
タイミングも場所もズラして施設から出た7人、ここは池袋駅の付近に作られており出口は池袋地下に繋がっている。その為、出口は
反社会組織として追跡や監視カメラの目を
実は大きな駅の地下にはビジネス街や学生街でストレスが溜まりやすく妖魔が発生する条件が
四鬼はその妖魔発生用に用意された駅地下の通路を『地下迷宮』と呼び定期的に
そんな四鬼が定期的に巡回している地点に影鬼の施設が有るのは単純に場所が
人の多い池袋では人の波に
……影鬼は妖魔を積極的に
これは昔から言われている事だ。
裂が学校で妖魔を討滅した際に後から到着した黒子の隊長も言っていたが全国の妖魔を四鬼だけで
警察組織の中に組み込まれているので
全ての鬼を妖魔討滅の装置と定義している四鬼にとって、影鬼だろうが四鬼だろうが妖魔を討滅するならば何でも良い。
世界でも珍しくこの主張は警察のホームページ内に設置された四鬼のページに記載されている。
自らを装置と定義する四鬼は本音と建前のような
これには警察上層部は相当に頭を痛めているようで
意図的にニュースを見ない裂でも知っている程なので、四鬼は一般人からすると非常に機械的で恐ろしい存在として扱われる事が多い。
……さて、池袋は
裂は異端鬼とはいえ年頃の男子高校生だ。遊び場の多い街に来て何もせずに帰るのは
まずはゲームセンターに行ってお菓子のクレーンゲームで遊び、成果無しのまま次に移動する。その後も格闘ゲームをソロプレイで練習し、レースゲームのNPC戦の
大きなチェーン店の古本屋、コアなソフトが
影鬼が使用する探知アプリは四鬼の物に近いが、システム上の作りで異端鬼の半径100メートル以内に妖魔が
通知を見ても裂は討滅に動く気は無かった。
これだけ妖魔が発生しやすい街なら担当の四鬼の数もそれだけ多い。わざわざ
先日、
……緊張する仕事の後だったしな、ここはプロに任せよう。
池袋、新宿、品川など四鬼の密集具合が高いエリアはそれだけ緊急度合いが低いので低ランクに成り
スマートフォンをポケットに
アプリが示した位置は裂から見て池袋駅から少し
その道に
人の多い街なので注目している人は裂以外には見られないが、いざ注目してみれば危険人物にしか見えない2人だ。視線は鋭く人混みが
男達に周囲も気付き始めたようで彼らが通る際に
その男達に意図的に近付く者たちが現れ始める。
私服の2人組を中心に矢のように10人程度の男達が集まり、最初の2人は
流石に剣道用の
……四鬼か。
2人に
裂の学校に現れたような
道が広がって通行人の
「何、アレ?」
「黒子が居たし四鬼でしょ」
「え、じゃあ妖魔が出たの!?」
「
パニックを起こしかける者、妖魔への対応の知識が有って落ち着いている者、四鬼たちの反対側に速足で移動する者など反応は様々だ。
裂は怪しまれない為に池袋駅への
四鬼のように日常的に戦闘に身を置く者たちは周囲への観察力が高い。
完全に背後に
可能な限り周囲から浮かない行動で通行人に
それに裂以外の異端鬼が近くに居ないかも
同じように遊んで帰ろうとしていた異端鬼が居れば裂と同じような反応をしていても可笑しくない。
視界の範囲内には特に異端鬼は見当たらないが施設を出た後に着替えたり変装したりしている可能性も有る。
やはり1番良いのは
可能な限り緊張で
怪しまれない程度に速足でトイレに向かい、個室に入って怪しまれない程度の
特に
妖魔探知アプリを起動すれば妖魔の反応はまだ有り四鬼が討滅していない事が分かる。しかし徐々に弱くなっているのを見ると戦闘中で確実に四鬼が追い詰めているのだろう。
探知アプリには回線的にも情報共有のタイミング的にもラグが有る。それでこれだけ反応が削れているのだから問題無く討滅出来るだろう。
……もしかしたら討滅は完了しているかもしれないしな。
そう思った瞬間に妖魔の反応が完全に消えた。
最近はステルス妖魔のような奇妙な妖魔を
影鬼所属の異端鬼が妖魔を討滅するのは1ヶ月に3体程度。それで社会人の平均月収が得られる。それも四鬼が地理的にも反応の大きさ的にも優先度を下げて放置しているような小物が多い。
安心してアプリを
本来の妖魔の発生であれば徐々に反応が強くなるが、今回は鬼が2体で連携してやっと倒せるレベルの反応が
……これ、ステルス妖魔の反応と同じなんじゃ?
巻き込まれた裂はステルス妖魔がアプリ上でどのように見えたのか知らない。
アプリは反応を自動的に記録しているので直ぐに今の反応の記録をコピーして
『たった今、池袋でこの反応が起きた。俺がステルス妖魔に巻き込まれた時と同じか?』
『受験を数ヶ月後に
『頼む。四鬼2体と黒子何人かが巻き込まれたかもしれない』
『面倒ね。
……
『
『期待しないで。拷問や交渉の
『これで池袋周辺の鬼が増えると厄介だ』
『影鬼としても同様の判断をするかもしれないわ。今は下手に動かないで。四鬼が居るのよ、下手に
『ああ。池袋駅周辺に居る』
『OK、反応地点を目視出来る範囲からは出てなさい。出来れば2区画くらい外れたファミレスとか喫茶店に居て』
『了解』
麻琴は裂と連絡を取りつつ影鬼本家の窓口を通して裂から提供された反応がステルス妖魔と同様だと連絡した。
裂や麻琴は
麻琴の連絡を受けた影鬼は直ぐに近隣の異端鬼の反応を確認し、裂を含めて池袋周辺の鬼たちに連絡を取った。
『池袋にてステルス妖魔と思わしき反応有り。通達が有るまで
……まあ戦力が不明なのに下手な対応は出来ないよな。
麻琴への通達を含めた連絡である事を察した裂は麻琴の指示に従った。反応地点を目視は出来ないが何かあったら直ぐに
麻琴に裂が連絡してから20分で連絡が来た事で2人は影山以外が対応していると
下手に質問するとスタッフ側が対応に追われて本筋の対応に
『四鬼や黒子が近くに居たりしない?』
『見える範囲には居ない』
『まあそうよね。こっちは図書館からサポートに加わる事になった。突入する場合はオペレータになるからよろしく』
『分かった』
裂が以前に遭遇したステルス妖魔はどれも異空間での時間の流れが可笑しくなっていた。
ただ、異空間が迷宮なのか直線なのか、妖魔がどの程度の強さなのか不確定な状況だ。
四鬼たちが迷宮内を4時間探索するなら現実では1時間近く出て来ない可能性がある。
そんな風に考え始めているとアプリに影鬼から連絡が入った。
『指定地点にて急行した四鬼2名、黒子8名は行方不明。警察、四鬼共に調査部隊が派遣される。本連絡を受けている者は直ちに指定範囲から離れろ』
そう言われてマップの指定を見れば裂には図書館への
何も自分から強敵に
素直に従う事にした裂は席を立って池袋駅に向かい、駅のホームで図書館方面の電車を待つ事にした。
四鬼側の対応次第ではステルス妖魔との
面倒な事になったと肩を落とし、電車がまだ来ない線路を
……気のせいだ、気のせいに決まってる。妖魔探知アプリは、反応無いな、じゃあ違う!
2度のステルス妖魔との接触経験から分かる目視出来ない状況でも感じる大型の
草の影に息を殺して
裂は念の為に麻琴に自分の周辺をトレースするようにメッセージを送り、可能な限りホームの中でも人の居ない場所へ移動する。
日曜夕方の池袋駅はこれからが遊びの本番なのでギリギリで人が少ない時間帯だが、無人になるには池袋という街が根本的に人が多過ぎる。
事前に準備していたメッセージを麻琴と影鬼へ送って直ぐにスマートフォンをポケットに
その恐竜の背後にはまるで
……お、今回は巨乳黒子が居ないぞ。
現実逃避にそう考えて裂は3度目のステルス妖魔討滅に向かった。
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