閑話 一

 俺の名前は田尻真、中学三年の十五歳だ。


 来年の春、中学校卒業すると同時に俺は働きに出ることになる。この施設を出て。

 今時珍しいって? 中卒なんて。

 仕方がない、俺がいる施設じゃあ高校なんて行かせてもらえない。


 そう施設だ。

 俺はとある児童養護施設に入所している。妹と一緒に。

 俺が五歳の時に、両親が揃って事故死したのだ。

 それ以来俺たちは親戚をたらい回しにされ、そして最後にはこの施設にたどり着いた。


 親戚も酷いものだったがこの施設は最悪だ。

 暴力なんて当たり前。女の子はいたずらもされれば、果ては変態どもに売り飛ばされる。そんなところだ。


 職員も真面目な職員から辞めていく、最後に残るのはろくでもない職員ばかりだ。

 学校もあてにならない、見て見ぬふりだ。


 暴力は子供たちの間でも蔓延している。

 そこから俺は学んだ、人はやられたことをやり返すのだと。


 入所してすぐの頃、妹の芹香にちょっかいをかけようとした上級生の集団がいた。

 俺はそいつらが妹に手を出す前に全員半殺しにした。もちろん俺もただではすまなかったが、それ以来俺は恐怖の対象として子供たちから見られるようになった。


 その恐怖で俺は施設を裏から支配した。

 従わない子供はリンチで制裁を加えた。

 男子をけしかけ女子には妹の味方をするように矯正した。


 すべては妹のために。

 あの日両親とした約束を守るために。

 そのために俺は外道となった。


 ただそれも限界に来ていた。

 とうとう妹が売られる日が決まったと盗み聴いたのだ。

 もはや一刻の猶予もないと感じた俺は、日頃温めていた計画を実行に移す。


 職員からくすねておいたライターで納屋に火をつけ、手下を餌に散らす。

 後は妹と都市部まで逃げて警察に駆け込めばいい、 後のことはわからないが今よりは悪くならないだろう。


 そう考え俺は計画を実行に移した。

 あの初秋の月の出る夜に。

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