異世界狐交流譚――お狐様の誕生日祝いを添えて――その③

 さて神使たちとの世間話が一段落付いたところで、源吾郎たちは持ってきた手土産をラヰカたちに渡す準備をした。誕生日と新たな神使の誕生という慶事の折もあり、引率者であるサカイ先輩もいくらかの手土産を携えていた。と言っても、紅藤や萩尾丸が敢えて用意して彼女に託した物である。護符や源吾郎たちの住む世界で使うちょっとした妖術の補助具などと言った、極めて真面目な代物だった。


「現世で作られて使っている物なので、こちらの呪具とは勝手が違うかもしれませんが。気に入っていただければ嬉しいです」

「サカイさん、それって紅藤様が作って下さったり見繕ってくださったものでしょう」

「椿姫の言うとおりだよサカイさん。あの方たちの凄さには、俺たちも一目を置いているんだからさぁ……」


 椿姫とラヰカの言葉にサカイ先輩は微笑みながら軽く会釈する。護符について話す時、椿姫は満面の笑みを浮かべていた。六月に源吾郎たちが幽世に赴いた時、紅藤が安産祈願の護符を椿姫の為に用意していたのだ。その事を彼女はしっかり覚えていてくれたようだった。

 ちなみに彼女の息子である桜花は椿姫の腕から離れ、父親である稲尾燈真の許に駆け寄っていた。もはや乳児ではなく幼子と言ってもいいほどの育ちぶりである。二足歩行する二尾の狐姿ではあるが、普通の妖怪でも幼子の頃は本来の姿でいる事が多いものだ。

 さて次は源吾郎の番である。源吾郎が用意した手土産は三種。椿の名を冠した郷里の銘菓にたまごボーロ、そしてアイスの詰め合わせだ。いずれも消えもの、要は菓子折りと呼んで遜色は無いだろう。

 銘菓とたまごボーロは椿姫に渡し、アイスの詰め合わせはクーラーボックスから取り出してラヰカに手渡した。


「白鷺城界隈には色々な銘菓があるのですが、稲尾さんにはこちらがぴったりかなと思いまして。たまごボーロの方は、桜花君が好きだと聞きましたので」

「ありがとうね、源吾郎君。しかもよく見ればたまごボーロの方も姫路の物じゃない」


 たまごボーロの瓶に記されたゆるキャラを指し示しながら椿姫は微笑んだ。たまごボーロ自体は何処でも販売しているが、やはり祝いの品だからご当地の物を……と思った次第である。

 源吾郎はそれから、アイスの箱を抱え持つラヰカの方に視線を向けた。


「現世の方もそうですが、こちらの幽世でもずっと酷暑の日が続くと聞いておりましたので……ラヰカさんたちはもちろんの事、神社の関係者の方たちにと思ってアイスを用意しました」

「そうかい源吾郎君。あー確かに、前の配信でしるこばーを食べた話とかをやってたかな。俺の与太話もきちんと覚えてくれていたんだな。だがそれにしても、たくさんあるから驚いたぜ」

「神使や氏子の皆様は大勢いらっしゃるみたいですので。一応ひと箱六十本ございます」

「奮発したんだな源吾郎君。ははは、これだと向こう三、四日はアイスが楽しめそうだな」

「一気に食べ過ぎてお腹を壊したりしないでよ、兄さん」

「そのときはわっちがにいちゃんのごはんもいただくのです」

「何だよ竜胆に菘。俺がそんなに食いしん坊に見えるか?」


 そんな事を言いつつも、ラヰカは竜胆や菘に一本ずつアイスを手渡していった。無論それを黙って見ている神使たちではない。甘いものが好きだという猫又の霧島万里恵はすっ飛んできて二本ばかりゲットしようとしていたし、夜葉や大瀧連と言った比較的真面目な神使たちもアイスに注目している。

 結局のところ、化け狸の山囃子伊予が箱ごとアイスを受け取り、神使たちに配っていくという所で落ち着いた。

 余談であるが、源吾郎が持ってきたアイスの銘柄は南極アイスという。その名の通りというべきか、ペンギンの絵がパッケージに記されているのが印象的だ。

 この南極アイスは四四二の崑崙と並び、関西地区では割合有名なアイスだった。源吾郎も実は北極アイスと崑崙のどちらを手土産にしようか悩んだのだが……結局の所南極アイスを選んだのだ。崑崙の詰め合わせは多くとも三十本程度である事、ある種でもある幽世に対してというのは嫌味に思われかねないと思っての事だった。

 しかし実際には南極アイスはビジネスマンの手土産として用いられる事もしばしばあるそうなので、源吾郎の選択(厳密には恋人の米田玲香と協議した上での選択であるが)もあながち間違ってはいなかったと言えるだろう。


山囃子やまはやしさん。そちらの南極アイスは人間向けのアイスなんです。チョコ味とか抹茶味とか……あとはオレンジ味とかもありますので、そこだけは気を付けて頂きたいのです」


 やっぱりたくさんあるわねぇ。呑気な様子で配っている伊予に対し、源吾郎は一声かけた。チョコ味や抹茶味については、カフェインが動物妖怪たちの刺激になる恐れはある。また、それらより危険ではないと言えども、柑橘類を犬猫が嫌う事は有名だ。

 妖怪たちが大手を振って暮らしているこの世界では、化学物質が悪さをしないように改良された代用食があるというのだが、生憎源吾郎たちの世界ではそうした技術は進んでいない。

 切実さの滲んだ源吾郎の声に対し、伊予はほんのりと微笑むだけだった。


「あら、そうだったのね源吾郎君。でも心配しなくて大丈夫よ。私の方でも伝えておくし、皆その辺りは気を付けてくれるから」

「いやはやお気を遣わせて申し訳ないです」


 源吾郎は軽く一礼し、それから頭を上げた。確かに言われてみれば、竜胆や菘はあずき味やイチゴ味のアイスキャンデーを手にしていた。


「あははっ。島崎先輩ったら、ド派手に用意なさったように見えて、ちゃっかり自分の好みの物ばっかりじゃないっすか。と言っても、俺だって稲尾さんご夫婦やラヰカ姐さんが喜ぶ物をきちんと用意したんで」

「わざわざ幽世に来てまで俺と張り合わんでも良いだろ雷園寺。ていうか君だってちゃっかりアイスを貰うとか何とかって山囃子さんと話し込んでただろう」


 さも得意げな様子で言い放って笑う雪羽を、源吾郎はジト目で見つめ返した。

 もはや源吾郎と雪羽は不仲などでは無いのだが、どうしても時に張り合う事がままあるのだ。幽世絡み、ラヰカ絡みになるとそれが互いに顕著になってしまう気もする。

 というか物が被らないようにどういう手土産を用意するかはざっくりと話し合ったはずなのだが……そんな事を思っているうちに、雪羽はボストンバッグのジッパーを開き、中に入っていた物を取り出していった。


「やはり稲尾さんの……ご夫妻の一番の関心事と言えば、ご子息の桜花君の事だと僕も思うのです。僕の所にも桜花君位の弟妹がいますから、ちっちゃい子がどんなもので遊ぶのかは知ってます」


 言いながら雪羽が取り出したのは、幼児向けの玩具や絵本だった。積み木や小動物のぬいぐるみ、夏みかんほどの大きさの柔らかいボールなど、玩具のバリエーションは多岐にわたっていた。幼い弟妹と接している雪羽が、考えに考え抜いて選んだ代物であるのだと源吾郎はこの時悟った。

 ちなみに絵本の方はというと、動物の絵が可愛く描かれた簡単な図鑑や、いかにもホンワカした物語であろう雰囲気の物、或いは立体の仕掛け絵本などを五、六冊ばかり用意されてあった。こちらも雪羽が桜花の為に内容を吟味したであろう事は言うまでもない。

 それらを見た椿姫は、驚いたように紫の眼を瞠っていた。


「雪羽君。これ全部桜花の為に用意してくれたのよね? こんなに貰っちゃって良いの?」

「もちろんです! あ、でももしかして全部だと多すぎたでしょうか? ここも大所帯みたいだから、桜花君にって玩具とか本とかもたくさん集まっているかもしれませんよね」


 少し気まずそうな表情を見せる雪羽に対し、椿姫は首を振って否定した。


「ごめんね雪羽君。さっきのはそう言う意味じゃないの。源吾郎君もそうだけど、雪羽君も色々奮発したみたいだから、懐具合は大丈夫かなって思っただけ」

「椿姫、お前も他妖ひとの懐具合とか心配するんだ……」


 妙に驚くラヰカを尻尾で軽くはたいてはいたものの、椿姫は源吾郎たちには気づかわしげな眼差しを向けていた。

 源吾郎と雪羽はしばし目配せし、大丈夫だと笑い飛ばした。


「大丈夫ですってば椿姫さん。ご存じの通り、俺は天下の雷園寺家次期当主ですよ。最近は副業もガンガンやってるんで、これくらいの出費なんて平気っす」

「ええ、ええ。僕もこう見えて金毛九尾の直系の子孫ですからね。少ーし知恵を巡らせれば、いくらでもお金なんて捻出できるんですから」


 実際問題、プレゼントの用意でより出費が多かったのは雪羽の方だろうな。ぼんやりと源吾郎がそんな事を思っていると、ラヰカが自分を見ている事に気が付いた。より厳密にいうと源吾郎の背後、尻尾のあるあたりである。


「源吾郎君。聞いたらマズいのかもしれないけれど……モフモフだった尻尾の毛が短く刈り込まれているように見えるのは気のせいかな?」

「あんまり暑いんでサマーカットにしました」


 口早に源吾郎は返答した。雪羽が「米田の姐さんとの結婚資金に充てたんだろう?」などと言っている気がしたが、もちろんそれも華麗にスルーしてやり過ごした。


「もちろん、ラヰカ姐さんにもプレゼントは用意しましたよ」


 早速桜花がマウスのぬいぐるみ(ヒモを引っ張るとブルブル震えて動くやつ)で遊び始めた頃、雪羽はラヰカに対してそう言い放った。ラヰカの顔が期待と喜びに緩む。先程までのプレゼントは、どちらかというと椿姫に――厳密に言えば桜花に向けた物ともいえる――向けた物ばかりだった。源吾郎の持ってきた南極アイスもラヰカは喜ぶであろうが、これもどちらかというとラヰカ個人ではなくて皆に対してのプレゼントであるし。


「実は島崎先輩もラヰカ姐さん向けのプレゼントは用意してたんですけれど、俺と合作したのとそもそも荷物が多いって事で、俺から渡すようにって事前に打ち合わせてたんですよ。

 まぁそれは最後のお楽しみとしておいて、ひとまず俺自身で用意したプレゼントをお渡ししますね」


 まずは梅酒です。雪羽が取り出したのは、一升瓶に詰められた琥珀色の酒だった。酒の席でおイタをしでかすほどに酒好きな彼らしいチョイスだと源吾郎は思った。しかも梅も雪羽は好いている訳だし。


「味の方は保証します。この前の女子会の折に、トリニキさんも米田の姐さんも美味しいって言って飲んでましたんで」

「ありがとう。一升だけだから大切に飲むよ」

「一升だけって、一升は十合あるんだよ兄さん?」

「そうは言っても妾もラヰカもその気になったら樽が空になるからの」


 ラヰカと月白の妖狐たちとでしばしの間話し込んだかと思うと、思い出したかのようにラヰカが視線を向けた。


「何となくだけどさ、その口ぶりだと雪羽君は飲まなかったみたいな言い方だと思うんだけど……」

「飲まないというか飲めないんですよ」


 ラヰカの言葉に応じる雪羽の顔には、何とも悪戯っぽい笑みが浮かんでいた。


「実は僕、とある大天狗に呪いをかけられてしまっているんです。そのせいで、僕が飲もうとするお酒はことごとく酢になってしまう訳でして……それでこの梅酒の味見は出来ませんでした」


 中途半端なギリシャ神話めいた雪羽の物語に、ラヰカたち一同は何かを察したような表情となった。「いや雷園寺は子供なんだから酒なんぞ飲んだら駄目だろう」源吾郎のツッコミは小声だったので、ざわめきの中に消えてしまったのだが。

 余談であるが源吾郎もまた梅酒の味見を行った訳ではない。下戸なので飲むとすぐに酔ってしまうのだ。その代わり、ウェイターよろしくトリニキや恋人の玲香のお酌をしたり肴を用意したのだから無問題だと思う。


 その後雪羽はクレパスなどの画材をラヰカに手渡し、そうして思わせぶりな笑みを浮かべたのだった。


「さてラヰカ姐さん。これがラヰカ姐さんへの、俺たちからのプレゼントです。さっきも言ったとおり、島崎先輩の合作でもあるんで」

「こ、これは……」


 雪羽が差し出したものを受け取ったラヰカが小さく息を呑む。ラヰカが両手で受け取ったのはA5サイズのフォトブックだった。表紙の方は雪羽が手書きしており、植物の枝葉と花の模様をデザインしたものが細かく描き込まれている。

 ヤンチャな側面が強い雪羽であるが、実の所絵や手芸と言った繊細な作業は得意中の得意だった。生育環境が異なれば、草木と美術を愛する物静かな青年に育っていたのかもしれない。詮無い話ではあるものの、源吾郎はそう思う時がたまにはあった。

 限定物の写真集です。何の写真集かまでは雪羽は言わなかった。ラヰカを前にして、何であるか敢えてつまびらかにするまでもないと思っていたからだ。

 もちろん制作者である源吾郎も写真集の正体は知っている。梅園六花と宮坂京子の……要はあやかし学園の主役二名の写真集である。時たまトリニキとか米田先生の写真もあるかもしれないが、まぁそれはご愛敬だろう。


「流石に六花ちゃんのセクシーショットはありませんがね。せんぱ……那須野監督が『そう言うのは俳優のイメージを損ねる』と言って聞きませんでしたので」

「あはは、そのシーンは鮮明に思い浮かぶよ」


 軽口を叩く雪羽をきっと睨みつけたのち、那須野監督もとい源吾郎はラヰカの方に向き直った。


「とはいえ、内容は円盤に収録されていた豪華特典以上の物になるように頑張りました。所謂恋人目線で六花ちゃんとか京子ちゃんの姿を見れる感じの写真を充実させましたので!」


 写真集の説明だというのに、思いがけぬ興奮に襲われて源吾郎は早口になってしまった。恋人というワードにおのれの脳が反応してしまったのだ。いい歳の、大の男だというのに。

 咳払いして仕切り直した源吾郎は、ラヰカをぐっと見つめながら囁いた。


「豪華特典は円盤に収録されてますが、こちらの写真集は特別に、ラヰカさんに差し上げます」

「まぁ、バージョン違いで穂村にもプレゼントするつもりなんだけどな」

「バージョン違いって地味に気になるな」


 さてそんな事を言いつつも、ラヰカは源吾郎たちが見ている前でアルバムをぱらぱらとめくり始めた。貴族の令嬢、或いは一国の王女よろしくドレスを身にまとった六花の姿にはさしものラヰカも驚いたらしい。源吾郎としては会心の出来だと思っていた。


「下手なセクシーショットなんぞよりも色っぽいと思いませんか、ラヰカさん!」


 そう言えば六花ちゃんはお姫様って設定だったなぁ……そんな事を呟くラヰカに対し、源吾郎は得意げに言い放った。


「元より雷園寺君は……六花ちゃんも黙ってじっとしていれば気品とか優雅さを感じられる出で立ちなんですよ。常々言っている通り、貴族の子女でもありますからね。どうです? 普段のおきゃんなスケバンぶりばかり見てらっしゃるので新鮮じゃありませんかね」

「先輩ってばめっちゃ生き生きしてるやん……こんな大仰なモノを着せられた俺の気も知らずにさぁ……てかさ、六花ちゃんがお嬢様だったら京子ちゃんとキャラ被るんじゃないの? 京子ちゃんだってお嬢様キャラじゃんか」

「……そもそも島崎君も雷園寺君も男の子だからお嬢様じゃあないと思うんだけど」


 妙な所で言い募りヒートアップしつつあった源吾郎と雪羽の耳にサカイ先輩の声が入り込む。呆れの色は薄く、いっそ無邪気な響きさえ伴っていた。


 ともあれラヰカは上機嫌でアルバムをめくっていたのだが、最後のページに差し掛かった時に源吾郎はその写真を発見してしまった。笑みでほころぶラヰカの顔に、小さな驚きの色が浮かんだのだ。


「雪羽君に源吾郎君。この子って京子ちゃんだよね?」

「そうっすよ、ラヰカ姐さん」


 ラヰカと雪羽のやり取りに不審な物を覚え、源吾郎は首を傾げつつ写真を覗き込んだ。源吾郎たちと何度も顔を合わせているラヰカであるから、宮坂京子の容貌については知っているはずだ。それに問いに応じた雪羽の表情も何とも怪しい。


「えええっ! 何、何なのこの写真――!」


 写真を見た源吾郎は、驚きと衝撃で声を上げてしまった。菘が狐耳を動かし、玩具で遊んでいた桜花までが顔を上げて源吾郎を見上げる程である。

 それは一組の若い男女が寄り添う写真だった。厳密に言えば、タキシード姿の金髪の青年が、白いドレスの少女を斜め後ろから抱きすくめるという構図である。二人の密着具合と言い、青年の落ち着いた眼差しと少女の甘えるような上目遣いと言い、何処からどう見てもこいつら恋人同士だし完全に深い仲にあるよね、と言いたくなるような一枚である。

 ちなみにドレス姿の少女は宮坂京子もとい女子変化した源吾郎であり、金髪の青年はもちろん玲香である。源吾郎が女子変化するのと同じように、玲香もまた精悍な男性の姿に変化していたのだ。そう言う意味でも、若い男女が親しく寄り添うシーンを映し出した事には何一つ変わりはない。


「あはは、すみませんね先輩。俺が休憩している時に、先輩と米田の姐さんがじゃれあって、それでこれからの二人って事で撮影なさっていたじゃあないですか。ふふふ、でも俺とした事が、この写真もうっかりアルバムに使っちゃったみたいなんですけどね……」

「……」


 しらじらしい雪羽の言葉を前に、源吾郎は黙りこくったままだった。よりによって彼女に甘える写真をラヰカたちに見られて恥ずかしかったし、勝手に使われた事については腹立たしくもあった。

 しかしあの撮影の折には、源吾郎も(姉の双葉の力も借りて)六花に対して無理くりドレスを着せるなどの独断専横を通したのもまた事実である。その事に対する意趣返しを喰らったのだと、源吾郎は静かに思っていた。


「ラヰカさん。別に僕は、いっつもこんな風に玲香さんに甘え散らしている訳じゃあないですよ。お、俺だって大の男だし、むしろ彼女に頼りにされる事の方が……」

「ほんとぉ?」


 へどもどしながら釈明する源吾郎に問いかけたのは、幼狐の菘だった。その瞳には二重の同心円――全てを見通す天眼通がしれっと発動していた。


「そのしゃしん、すがたはちがうけれど、いつものふたりとおんなじだとおもうけどなー。げんごろうのこいびと、とってもつよいんでしょ?」


 菘の言葉に、源吾郎はへなへなとくずおれてしまったのだった。

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