恐怖? 読者投稿怖い話 その④(終)
「あの、そう言えば……」
これまで読み上げてきた怪談話、そしてこれから読み上げる怪談話――と言っても残り一話だけなのだが――を確認した穂村は、ついつい視聴者たちに呼びかけた。どうしても確認したい事が出来したのだ。
「オカルト博士さんと見習いアトラさんはリアルではオカルトライターとの事ですが、お二方は怪談話の投稿はなさらないんでしょうか? 今ならコメントを頂いても間に合いますが……」
『見習いアトラ:特段怪現象に見舞われてないので、今回は聞き手に回りました』
『オカルト博士:うちらにとって怪談話はある意味商売道具だからね。それにインプットも大事だし、若いコの話を聞くのも大事かなぁって思ってね』
「ああ、そう言う事だったんですね。確かにオカルトライターは怪談話がご飯になっているようなものですし……迂闊な事をすみませんでした」
『見習いアトラ:こちらこそノリが悪くてすみません』
『トリニキ:アトラちゃんはコメントで盛り上げてたからセーフ!』
『オカルト博士:それにさ、私くらいの歳になると、健康診断とかがリアルに怖くなるんよ』
『きゅうび:悲しい事言わないで…… \500』
『ユッキー☆:年齢差ェ……』
健康診断が怖い。オカルト博士のコメントを前に、穂村たちはしばし考えこんでしまった。オカルト博士とは源吾郎の姉・島崎双葉女史の事である。長らくオカルトライターとして活躍する女傑であり、尚且つ玉藻御前の末裔でもある。しかしその彼女であっても、年齢を気にするとは!
だが半妖という出自を考えたら致し方ない事なのかもしれない。穂村も詳しくは知らないが、半妖の多くは優れた能力を持つ人間として生き、純粋な人間よりも若干寿命が長い程度に留まるのだという。ましてや、半妖の母と人間の父から生まれたオカルト博士であれば、人間の特徴が強くても何らおかしくは無かろう。
実弟である源吾郎は相当に妖狐の血が濃いが、それはまぁ突然変異的な先祖返りによるものなのだという。
やはり妖怪と半妖、そして人間は違う物なのだな。トリニキや見習いアトラも今はまだ若くて元気ではあるが……そんな事を穂村が考えていると、ミハルが慌てて声を上げた。
「あのっ、だいてんぐ様はどうでしょうか? だいてんぐ様ってとっても博識ですし、面白い怪談話とかご存じかなって思いまして。怖い物とかを教えて貰っても嬉しいです」
『だいてんぐ:怖い物ですか……恐らくこの話の趣旨に合わないと思うんです』
『見習いアトラ:気になる』
『ユッキー☆:ワイも(チラッチラッ)』
『きゅうび:おいykh。お前さっきからずっとチラチラ見てただろ?』
『絵描きつね:何で見る必要があるんですか(正論)』
『トリニキ:見たけりゃ見せてやるよ』
『おもちもちにび:さんにんは、どういうあつまり?』
『りんりんどー:何なんだこの流れは(白目)』
視聴者同士での謎の流れを経て、だいてんぐもとい萩尾丸が次なるコメントを投下した。
『だいてんぐ:上司の気まぐれが引き起こした尻拭いとか、上位幹部同士の政治的闘争とかが僕には怖いんです』
『月白五尾:だいてんぐニキのガチコメントだ――!』
『見習いアトラ:中間管理職かな?』
『ユッキー☆:偉そうだけど立場的にはそう』
『隙間女:上層部は曲者揃いなので(震え声)』
『トリニキ:わかりみが深すぎて女になっちゃう』
『きゅうび:やったね! トリニキ女の子説が出来ちゃうね(ゲス顔)』
「ああ、だいてんぐさんの怖い話ってそっち方面だったんですね」
「でも兄さん。確かに解っちゃうかも」
『だいてんぐ:まぁこの話はこれくらいにしておくよ。子供にはちょっと難しいだろうからね』
萩尾丸の言葉に、穂村とミハルは顔を見合わせた。話の流れとはいえ、序盤で子供である事を声高に宣言したのだ。だが、それを指摘されたのは何とも気恥ずかしい。
『しろいきゅうび:だいてんぐさんも仕事のストレスとかヤバそう』
『だいてんぐ:とはいえ、職場には可愛い仔狐と仔猫がいるからね。その子たちを可愛がってたら癒されるんだ』
『見習いアトラ:だいてんぐさんの職場って仔猫ちゃんとかいたんですね(無邪気)』
『絵描きつね:察した』
『トリニキ:だいてんぐニキの可愛がり(意味深)』
『ユッキー☆:ト リ ニ キ さ ん は 知 り 過 ぎ た』
『きゅうび:九尾の狐もペットで飼育できるってものの本に書いてあったし多少はね? 俺はペットにならないけれど(ドヤ顔)』
『ネッコマター:研究センターって怖いなーとづまりすとこ(棒読み)』
「兄さん兄さん。そう言えば、最後のお便りって妖狐の方から貰ってたんだよね?」
「そうそう。タマキツネさんって言うんだけどね。ちなみにタマモッチさんとは別の狐だってさ。こちらのお話はタマキツネさんご本人の体験談ではないらしいんだけど……
『キメラフレイムさんこんにちは。これは僕が友達から聞いた話です。というか妖狐たちの間では割と有名な都市伝説でもあるんですが、キメラさんは雷獣なので投稿してみました。
少し昔、せっかちで食事の際も早食い気味の妖狐がいました。ある時彼は、ランチと称して生きたマウスをそのまま丸呑みしてしまったのです。
ほどなくして、彼は謎の栄養失調と強い腹痛に襲われて生命を落としてしまいました。死後、彼の亡骸は司法解剖に回されたのですが、異様に膨らんだ腹部からは、おびただしい数のマウスが飛び出してきたのです』
……お話は以上です。コンパクトながらもすっきりとした怪談話でしたね」
「三話連続で食にまつわる怪談話でしたね。兄さん、やっぱり食事も恐怖も生命維持に大切だから結びついちゃうの、かな?」
実際には、ミハルはちょっと取り繕ったような感じで話してはいた。だが画面上のモーションではそこまで見える訳でもない。
当然、コメント欄も湧き上がる。
『見習いアトラ:食べ物の話ってトリニキさんの話だけだったのでは?』
『絵描きつね:全部悪食な話だろうに』
『ユッキー☆:俺の妹がこんなに悪食な訳がない』
『オカルト博士:サニーちゃんも鵺だから何でも食べるんじゃないの(適当)』
『サンダー:キメラ君もサニーちゃんも雷獣なんだよなぁ……』
『トリニキ:そう言えば似た話を聞いた事があるかも』
『オカルト博士:Gを食べたヒューマンがその後死亡したって都市伝説だね。ガセだって事が後に判明したんだけど』
『きゅうび:狐も人もお互い交流があるから、似たような話が作られるんですかね』
『月白五尾:となると、このマウス丸呑みも都市伝説の可能性が微レ存……?』
『トリニキ:
『りんりんどー:そんなの視聴しなくて良いから(良心)』
「最後にですね、最近僕自身が体験した怪現象のお話をして締めにしましょうか!」
『ユッキー☆:キメラ君の身に一体何が……? \500』
『絵描きつね:その割に嬉しそうだけど』
キメラフレイムのアバターがさっと右前足を上げる。すると、背景に写真のような物が映し出された。黒いテーブルのような所に白いグチャグチャとした塊が転がっているだけの写真である。
それが何であるか気になったのだろう。すぐに視聴者からコメントが寄せられた。
『見習いアトラ:この塊はナニ?』
『トリニキ:腐った海そうめんかな?』
『オカルト博士:ハリガネムシとかサナダムシの集合体とか?』
『おもちもちにび:そんなにこわくなさそう』
「えと、ええと……これは3Dプリンターで造形しようとして失敗した成れの果てですね」
穂村の宣言に、またしてもコメント欄が湧く。怪現象であるという事は後々の説明でつまびらかにするはずなのだが、皆にしてみれば期待外れだったのかもしれない。そんな考えが穂村の頬を火照らせた。
「家族におねだり(意味深)して買ってもらった3Dプリンターなのですが、中々造形が上手くできなくってですね……不思議な事に、事前に組んでおいた設定とは違った設定になっていた事もあるんです。それで、この写真みたいなブツが出来てしまったんですね。
ううむ。僕の住処には僕やサニー以外にも大勢の雷獣が暮らしているので、彼らの生体電流の影響を受けている可能性もあるのですが。
あはは、怪現象というにはちょっとパンチが薄いですかね」
『きゅうび:こういうホンワカ怪現象は助かります \600』
『ユッキー☆:生体電流の影響でそんな事があるんか!』
『サンダー:まぁ俺も雷に変化できるし』
『トリニキ:3Dプリンター造形なら、業者に委託できるゾ』
「と、トリニキさん……!」
穂村は尻尾をくねらせて声を上げた。彼とてもちろんその事は知っている。だがそれでも、自宅で3Dプリンター造形を行いたかったのだ。
「ぎょ、業者委託でも、キャラクターめいたのはNGだって言われる事があるんですよ。それに、物が物なので自分で作りたいなぁって思ってて……」
『見習いアトラ:ちなキメラさんは何を作りたいんですか?』
「そりゃあもちろん、僕たちのアバターをマスコットキャラクターとして……」
「嘘はいけないわよ兄さん。私らのアバターじゃなくて六花姉さんを作ろうとしてたじゃない」
「え、ちょっとサニー。それは言わないで!」
まさかの妹の裏切りによって、穂村は軽いパニックに陥りそうだった。
だがもちろん、ここでコメント欄が沸き上がったのは言うまでもない。
『トリニキ:し っ て た』
『月白五尾:怖い話ってそう言う……』
『オカルト博士:六花ちゃんは男子受けが良いから仕方ないね。ちなみに京子ちゃんは女子受けがいいんだってさ』
『絵描きつね:六花ちゃんガチ勢の風格やな』
『見習いアトラ:著作権抵触の恐れは無いのかな?』
『きゅうび:作品のイメージを損なわないのならOKです』
『だいてんぐ:ちなみにNSFWなど、ガイドラインに抵触した場合は炎上(物理)待ったなしなのでご注意を』
「あは、ははははは。そりゃあもちろん、僕だって六花姐さんの事は尊敬しているし、そんな、変なのは作りませんよ。ただやっぱり、大きめに作りたいから各部位ごとに作って組み立てようかなって思うけれど」
『隙間女:狂気が垣間見えてグッドです \900』
『トリニキ:隙間女ネキにまで狂気判定されたよ』
『きゅうび:事件現場判定待ったなし』
『ラス子:やっぱり生きている者の情念が一番怖いってはっきりわかんだね』
『ネッコマター:現世の妖怪も強そう(小並感)』
『オカルト博士:出来上がった頃にはそいつも妖怪化してそう』
「兄さん。私が震源と言えども、やっぱりみんな引いていると思うよ……というか雪、ユッキー☆さんも何か無言だし」
ほんまや……ミハルの指摘に、穂村もハッと我に返った。雪羽の事は兄として素直に慕っている。兄の傍にいたいという感情が時に噴出してしまうのも、配信の折に感じてしまう事だった。
だがそれで、兄に気味悪がられたりドン引きされたりするのは嫌だった。そうでなくとも、自分は異母弟の時雨を突き放していた時期があったのだから。穂村にとって雪羽は唯一の兄であるが、雪羽にとって穂村は大勢いる弟妹の一人に過ぎない訳であるし。
『ユッキー☆:キメラ君さぁ……俺に黙って六花ちゃんを作る、それも3Dプリンターで作ろうとするとかってどういうことなの?』
『きゅうび:ガチトーンじゃんか』
『りんりんどー:そりゃしゃーない』
『絵描きつね:何で俺を見るの』
しばらくしてから雪羽からコメントが入る。ミハルは平然としているが、穂村は息苦しさを感じていた。元より自身の情愛の重さは雪羽にはバレている。だがこの件で兄に見放されるのではないか。そんな風に思うと目の前が暗くなっていく。
『ユッキー☆:そう言う事ならまずもって俺に相談してくれれば良かったのに……お兄ちゃん、キメラ君の為なら型取りでも何でも手伝うつもりだぞ☆ そっちの方が、3Dプリンターなんぞよりずっと良いのが出来るはずだし \3000』
『月白五尾:そっちか』
『きゅうび:美しい兄弟愛やな(錯乱)』
『オカルト博士:弟たちがこんなんだったら笑い死ぬわ』
『トリニキ:もうやだこの兄弟……』
『だいてんぐ:むしろ女体化は不要まであるんだよなぁ』
「そんな訳で、次回はあやかし学園のファンアートの進捗について配信しようかと思ってます。それでは皆さんごきげんよう!」
謎の盛り上がりを見せたまま、今回のキメラフレイムの配信は終了したのだった。
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