恐怖? 読者投稿怖い話 その③

「さて、三通目は謎解きネーム・トリニキさんからのお便りになります。実はですね、トリニキさんは先程のお二人と違って人間なのです! これは期待大ですね」

「厳密にはタマモッチさんは妖狐二十五パーセント・人間七十五パーセントの半妖なのですがね」


『サンダー:敢えて人間ですって宣言が草』

『トリニキ:ワイは期待の新人類だった……?』

『オカルト博士:ワイは人間としてカウントしてほしい』

『きゅうび:別に妖狐って事で紹介してくれても良かったんやで』


「それでは進めましょう。

『キメラ君オッスオッス! 今回のお話は、私が大学生の頃に体験した事です。

 大学三回生の夏休みに、自分は臨海実習という泊り込みの講座に参加しました。講座・実習と言っても堅苦しい物ではありません。何せ日本のエーゲ海と称されるような美しい場所が実習地でしたし、スケジュール外の時間は全て自由時間であり、学生同士で遊んだりお酒を飲んだり花火で遊んだりしても無問題だったのです。

 怪奇現象が起きたのは五日目の夜中の事でした。自由時間だったのでいつものように持参した酒とツマミで盛り上がっていた丁度その時、一人の男子学生があるツマミを提供してくれたのです。コンビニで購入した、要はアメフラシの卵でした。

 その海そうめんについては誰も特に疑問は抱きませんでした。私たちはかなり酔っていた(ビールや酎ハイみたいな学生じみた物だけではなくて、ワインとか冷酒も飲んでいました。焼酎もあったかもしれません)ので、マトモに判断出来なかったのかもしれません。それに何より彼がコンビニに出向いていた事を私たちは知っていました。夕方の自由時間に五、六キロ先のコンビニまで徒歩で出向いたという彼の挙動は笑い話でもあったのです。車で来ている友達に頼めばすぐに運んでくれるのに。笑い合いながらそんな事さえ言ったのではないでしょうか。

 ただその時、レジ袋に椿をモチーフにしたロゴマークが入っていたのが印象的でした。

 どんぶり一杯程度(恐らくは一匹ではなくて数匹のアメフラシが産卵した物だったのかもしれません)の海そうめんは、珍しいツマミとして皆で食べました。中には用心したり気味悪がって食べない人もいましたけれど。もちろん私は酔った勢いで食べたんですけれど。

 地獄を見たのは翌朝の事でした。海そうめんを口にした学生たちはほぼ全員謎の体調不良に見舞われたのです。昨晩仲良く酒とツマミで盛り上がっていた私たちは、仲良く頭痛・腹痛・吐き気に襲われる事となりました。幸いな事に病院沙汰にならなかったのが不幸中の幸いですね。

 後で知った事なのですが、臨海実習施設の周囲にはコンビニは無く、一番近い所でも十五キロも離れた場所にあったそうです。また、あの近辺にはの伝承が残されているとの事です。であればコンビニのレジ袋に椿のモチーフがあったのも頷けます。椿という伝承がありますからね。

 私たちは牛鬼に魅入られていたのかもしれません。そうでなければ謎めいたコンビニで海そうめんを購入し、あまつさえ体調を崩す事は無かったのでしょうから……』

 との事です……地元から遠く離れた地で恐ろしい異形に魅入られた? お話でしたね。はい、確かにぐっと怪奇テイストが増したように思われますが如何でしょうか?」


『きゅうび:トリニキ先輩の酒飲み珍道中にしか聞こえなかったゾ』

『ユッキー☆:海産物を生で食べるとか怖すぎィ!』

『りんりんどー:過度な飲酒が危険ってはっきりわかんだね』

『しろいきゅうび:こっちにもダメージが来た!』

『絵描きつね:確かにトリニキちゃんは飲んでるイメージがあるし』

『トリニキ:怪奇話として認識されてなくてマヂ悲しい……』

『オカルト博士:アメフラシの卵には海藻由来の毒が含まれている可能性もあるらしいゾ。だからトリニキちゃんたちも牛鬼の呪いではなくて食中毒だったのでは(凡推理)』

『見習いアトラ:オカルト大先輩の迫真の推理すこ』


「うーむ。皆さん思っていた以上にツッコミが鋭いですね」

「トリニキさんは酒飲みキャラが定着しているからしょうがないのかもしれないわ。とはいえ牛鬼って私たちにとっても恐ろしい妖怪ですし……ひとまずトリニキさんたちが無事で良かったという事で」

「そんな訳で、トリニキさんありがとうございました!」


 話のオチ的には怪現象と言うべきか否か迷う内容ではある。だがそれでも、トリニキより貰ったお便りはある意味魅力的な物だった。普段のコメントとは異なり落ち着いた文体であったし、きちんと牛鬼と椿の関連性や伝承についても触れてある。

 彼女は既に三十手前であるという。人間であること思えば穂村たちよりも精神的には大人なのだ。その辺りもあるのかもしれないと穂村は密かに思った。


「それでは次のお便りに進みましょう。次は……謎解きネーム隙間女さんですね」


 隙間女。穂村が読み上げるや否や、コメント欄が沸騰した。


『きゅうび:マズいですよ先輩!』

『ユッキー☆:隙間女ネキの怪談話で視聴者のSAN値がヤバい』

『トリニキ:それではダイスロールの時間です』

『絵描きつね:そもそも隙間女ネキって怖い物ってあるの?』

『見習いアトラ:隙間女さんが怖い物って多分うちらでも太刀打ちできないんじゃないの(小並感)』

『だいてんぐ:まぁ彼女にもそう言う相手はいるでしょうね』

『きゅうび:ヒエッ……』


「ええと、隙間女さんの怖い話はどうやらヒトコワ系統のお話のようですね。ええ、これまではヒトコワ系統はありませんでしたので、テイストが変わって面白いかなと思います。

『これは、仕事がオフの時にフラフラっと夜の散歩を楽しんでいた時のお話です。隙間が導くままに歩いているうちに、わたしはいつの間にかとある廃墟に足を踏み入れていました。

 その廃墟には既に先客がいました。声と気配からして、先客たちはまだ子供のようでした。恐らくは中学生か高校生くらいでしょうか。私は立ち去らず、物陰から様子を窺いました。彼女ら――全員女子だったのです――と鉢合わせしたのは何かの縁だとわたしは感じました。いえ、正直に申し上げますと、彼女たちから感じられる心の隙間、その中にある闇に魅入られていたのです』」


『オカルト博士:完全に怪異側の視点なのほんと草』

『ラス子:夜道の散歩は危ないのだ(無邪気)』

『きゅうび:確かに(隙間女さんと遭遇した方が)危ないです』

『月白五尾:隙間女さんって、普通に口裂け女とか八尺様とかものしてそう』

『隙間女:流石にそんなことしませんよ。彼女らとは女子会を開くくらいんで』

『ユッキー☆:そういう所やぞ。まぁ、俺も口裂け女には負けないけれど』

『トリニキ:ユッキー☆君も大概だってそれ一番言われてるから』


「物凄いコメントが寄せられてるね、兄さん」

「やっぱり初手のくねくね討伐のインパクトが凄かったんだろうねぇ……それじゃあ後半に行きますね。

『彼女たちは何がしかの儀式をしているのだとすぐに勘づきました。何やら怨霊だとか下級の怪異を召喚するようなものですね。ただ、共通の儀式を執り行う仲間同士の結束は怪しい物でした。何というかぎくしゃくしているようにわたしには見えたのです。

 ぎくしゃくしている理由は解りました。一人のいじめられっ子と、複数のいじめっ子が混在する状態だったのです。恐らくは、いじめられっ子を脅すか何かして、無理やりこの儀式に参加させたのでしょう。わたしはそんな風に思いました』」


『オカルト博士:怪異を召喚する方法は、ガチだろうと適当だろうと色々とヤバいからやめようね!』

『きゅうび:その手の怖さを知っているが故の注意喚起ですな』

『絵描きつね:そうそう。うっかり俺みたいな邪神が召喚されても大変だし』

『ユッキー☆:ラヰカニキを召喚できるならやってみたいかも』

『月白五尾:みずから邪神召喚したがるのか……(困惑)』


「『わたしの予想に反し、召喚された怪異は存外力の強そうな怨霊でした。土地の因果とか負の感情のたまり場とか過去の事件とかが上手くかみ合って、幾つもの怨念や怨霊が絡み合って熟成されていたように思われます。

 召喚した物を見て、女の子たちは喜んだり怖がったりしていました。もちろん、ソレをけしかけようとする悪意のような物も、みずみずしい魂からけぶるように立ち上っていたのです。

 気が付けばわたしは怨霊の前に躍り出て、そいつをしてしまいました。真面目に仕事に励んでいる反動もあり、美味しそうだったので食指が動いてしまったのです。怨霊自体はこってりしていて胸やけがしそうだったので、口直しにいじめっ子たちの負の感情とかもごっそり頂きました。こちらもこちらで怨霊とは違う味わいだったのですが、若い魂という事もありさっぱりした部分もあり、良いになりました』……いやこれ凄すぎひん」


 まだまだお便りの内容は続いているのだが、穂村は思わずぼやいてしまった。何をどう考えてもいじめっ子たちや召喚された怨霊よりもサカイさんの方がヤベーやつではないか、と。

 そして幸いな事に、その考えがおかしくない事がコメント欄を見れば明らかだった。


『だいてんぐ:隙間女嬢のグルメレポじゃないか(呆れ)』

『見習いアトラ:グルメレポというには冒涜的すぎんよ~』

『トリニキ:あなたはおぞましい怨霊が異形の隙間女に捕食されるのを目撃した。それではSAN値チェックの時間です』

『きゅうび:しれっといじめっ子の心も食べてて草も生えない』

『絵描きつね:隙間女ってこわいなー。とづまりすとこ』

『ユッキー☆:とづまりしててもやって来るんだよなぁ(絶望)』


「あ……ええと続けますね。

『あとに残されたのは、いじめられっ子と思しき少女だけでした。他のいじめっ子たちは、わたしが心の一部を食べた反動で意識を失っていたのです。

 彼女はわたしを見て、唾を吐かんばかりの怒りをあらわにしました。

 そうです。実を言えば、これはいじめられっ子の計略でもあったのです。敢えて無理やりいじめっ子たちの策略に乗ったふりをして怨霊の融合体を召喚し、彼女らを喰い殺させるつもりだったのだとか。もっとも、事情を知らないわたしが怨霊もいじめっ子たちの心も食べてしまいましたので、計画はおじゃんになってしまったのですが。

 ああ、やはり人の心って複雑で興味深いなぁ。いじめられっ子の負の感情も頂いたわたしは、そう思いながら立ち去ったのでした』」


 以上です。サカイさんの話を読み上げた穂村は、しばしミハルと顔を見合わせていた。


「……これってヒトコワ系統のお話でしたよね?」

「隙間女さん曰くヒトコワだって聞いたわよ、兄さん。ほら、一応いじめ問題とかそんなのも絡んでいたでしょ」


『ネッコマター:ヒトコワというよりも隙間女さんの活躍記録では?』

『オカルト博士:うーんこれはガチの怪奇やな』

『トリニキ:隙間女ネキの怪異っぷりがダンチすぎて草枯れる』

『隙間女:とはいえ職場ではヒエラルキー下位なので』

『きゅうび:職場のトップはつよつよ妖怪しかいないから仕方ないね』

『ユッキー☆:俺らとかマジで小動物枠なんだぜ(血涙)』

『月白五尾:むしろ上司たちが強すぎるだけでは?』

『だいてんぐ:隙間女さんにはもっと自主的に活動してほしいっす』

『絵描きつね:サラッと怖いコメントがあって草不可避』


 やはり怖い話と言っても、捉え方や解釈は人それぞれなのだ。穂村は今一度そんな事を思ったのだった。

 もちろん、まだまだ時間もあるしお便りは読み上げるつもりであるが。

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