恐怖? 読者投稿怖い話 その②

 オフ会兼くねくね討伐が行われる事が決まるという珍事が発生したものの、ここからはシナリオ通りに進めていこうと穂村は決意した。


「それでは読み上げていきます。謎解きネーム・タマモッチさんからのお便りです。

『キメラフレイムさんこんにちは。動画では毎度お世話になっております。今回は怖い話を募集していたという事ですので、メールをお送りしました。もしかしたら、チャンネルで求めている恐怖体験とは少し異なるかもしれませんが、その時は皆さんで笑って流してくださいませ。ですが職場で実際に起きた恐怖体験なのです』」


『トリニキ:正体を隠したいのかばらしたいのかこれもう分かんねえな』

『オカルト博士:ワイではありません』

『絵描きつね:もちろん俺でもないしな』

『ユッキー☆:きゅうびニキの伝統芸が炸裂した』


「読み進めますね。

『その異変は、僕宛の一通の電話から始まりました。不審に思いつつ電話を取ってみると、機械メーカーからでした。曰く『塩原さん(仮名)が先程弊社の※※の資料をダウンロードしたみたいでして』との事です。

 ですが僕は、そのサイトで資料などダウンロードした覚えはありません。そもそもアカウントを作らなければ資料を見る事すら出来ないはずなのです。だというのに、何故その営業マンは僕のアカウントを知っていたのでしょうか……?

 その数日後、件のメーカーからカタログやメールなども届くという、恐怖の追撃もあったのです』

 との事ですね。タマモッチさんありがとうございました。怪奇現象とは違う感じもしますけれど、恐怖のテイストがピリッと引き立つお話だと僕は感じました!」


『見習いアトラ:コンピューターウィルスで情報流出したんやろ(適当)』

『月白五尾:見慣れぬ営業マンにもきちんと対応するきゅうび君はビジネスマンの鑑やな』


「こちらのお話は追記がありますね……『この怪現象の原因は、同僚のY・R君の仕業でした。彼はそのメーカーの資料を度々見る事があるのですが、その時に僕のアカウントを作成して閲覧していたみたいです』だそうですね」


 ミハルが追記を読み上げる。原因からして怪現象とは言い難いが、からくりが解らぬ間であれば確かにホラーな展開と言えるだろう。


『トリニキ:キーテックが怪異の温床みたいになっている。訴訟も辞さない』

『きゅうび:待って投稿にはキーテックとも何とも書いてないから』

『隙間女:自らバラシていくのか……(困惑)』

『りんりんどー:ちなみに二人はその後どうなったんですか』

『だいてんぐ:営業マンの方には事情を説明して、ユッキー君にはお説教しておいたから』

『きゅうび:その後にしておいた』

『ネッコマター:流れるようなアニマルビデオには草』

『ユッキー☆:きゅうび君はケモナー説まであるからな。彼女も狐だし』


「タマモッチさん、今回はお便り有難うございました! それでは次に進みましょう。お次は謎解きネーム・ユッキー☆さんからのお便りです。

『キメラ君こんにちは! 実は俺も怖い話と聞いてあんまりピンとこない節はあるんだけれど、子供の頃に体験した話とかが丁度良いかなと思ってメールを送ってみたんだ。何分昔の事だから、所々記憶があいまいだけれど勘弁してほしい。

 そのラジカセを買ってもらったのは、叔父の家に引き取られて最初の春の事だったんだ。フリーマーケットだったのかセコハンのお店だったのかは忘れちゃったけれど、とにかく古びたラジオだった事は覚えているんだ。

 そのラジオに不思議な力があるって俺が気付くまでにはそんなに時間がかからなかった。ラジオでは未来の出来事を聞き出す事が出来たんだ。厳密には、数時間後とか数日後に放送される番組とかニュースの事を、どうした訳かそのラジオは先に受信して聞き出す事が出来たんだけどね。

 最初は俺もそのラジオに夢中になっていたんだ。ラジオで少し未来の事を知って、それを叔父とか他の大人たちに教えるのが面白かったんだ。未来の事が判るのかって叔父も感心してくれたから、それがきっと嬉しかったんだと思うんだ。特には、インターネットとかも全然普及していなかったし』」

「ここで補足ですが、ユッキー☆さんのお話はからが舞台になっているそうです。こういうのって、最初にお伝えしたほうが良かったのかもしれませんね」


 穂村が息継ぎをしたところで、ミハルが思い出したように付け加えた。ユッキー☆もとい雪羽が引き取られた年代について、穂村たちはきちんと把握している。しかし視聴者たちはそうではない事に今更ながら気付いたのである。

 それに恐らくは、時代背景を考えればラジオに幼い雪羽が夢中になる事も伝わるのではないか、と思ったのである。

 それでは続きを進めますね。コメントをざっと一瞥してから穂村は読み進めた。


「『ですが、そのラジオが伝えてくれるのは楽しい事ばかりではありませんでした。その事に気付いたのは、叔父の許に引き取られて一年以上たった時の事だったんだ。今日はどんな事が聞けるかな。そんな風に思っていただけだったんだ。

 その時俺が耳にしたのは――恐ろしい事件に関するニュースだったんだよ。しかも年月日からして、やっぱり未来の報道だったんだ。普段は何でも叔父とか家族に伝えていた俺だけど、その事は言えなかった。嫌な事とか、怖い事とかを言って、叔父たちを心配させたくなかったからね。

 でもそのラジオの事は段々と怖くて嫌な物だって思うようになっていた。それでもまだ時々聞いたりしていたんだけど、やっぱり怖い事件の話とかが聞こえてきたから……しまいにはそう言う話ばっかり聞こえるんじゃないかって思い詰める位だったんだ。誰にも言わなかったけれど。

 それで俺は、あのラジオを手放す事にしたんだ。あのラジオは飽きたからもう要らない、なんて叔父に嘘をついちゃったんだけどね。でも叔父は深く追及したりしないでもう要らないんだなって言っただけだった。ずっと後になってから、叔父は何となく察していたんだって知ったけれど。

 あの後ラジオがどうなったのかは解らない。誰かがあのラジオで未来の事を聞いてしまったって話も聞かなかったしね。

 病院の先生は、俺が雷獣としての能力が強くて、それで気が張りつめていたから、ラジオを介して未来の事を垣間見たのかもしれないって教えてくれたけれど、それが本当かどうかも解らないんだ』

……との事です。確かに怖い話ですね。子供だったユッキー☆さんが怖い思いをなさった事とかがひしひしと伝わってきます。ですがそれ以上に物悲しい話でもありましたね」

「兄さん。それって兄さんの感想でしょ」


 未来予知ラジオがもたらした恐怖体験を読み終わった穂村に対し、ミハルがちょっと呆れ顔でツッコミを入れる。確かにこの話を読んでいる間、穂村は文脈以外の物も感じ取ってしまっていた。三國に引き取られて間がない頃の雪羽もまた、大変な思いをしていた訳だから。穂村は弟としてその事を知っていたのだ。


『見習いアトラ:年代的にもオカルトとかスピリチュアルとかが流行った頃のお話やなって思いました』

『オカルト博士:残念ながらオカルトブームは七十年代と九十年代なんだよなぁ……』

『きゅうび:ユッキーにそんな過去があったとは……』

『だいてんぐ:当時人間換算で五歳くらいだったから、多少はね?』

『トリニキ:平成生まれのワイ、昭和というワードでジェネレーションギャップを感じてしまう』

『月白五尾:人間と妖怪との間でのあるあるやな』

『隙間女:妖怪たちの中では明治~平成生まれは大体一緒くたにされる定期』

『絵描きつね:生後二百二十七年のワイ、高みの見物』

『しろいきゅうび:邪神が張り合ってて何か草』


「それはそうと、やっぱりコメントを見ている限り、ジェネレーションギャップとかが浮き彫りになってるみたいだね」

「確かにそうだねサニー。まぁ考えてみれば、妖怪と人間じゃあ年の取り方は違うもんねぇ」


 コメントを眺めながら、ひとまず穂村とミハルは頷きあった。妖怪としては子供に分類される穂村とミハルであるが、実年齢はそれぞれ四十五歳と四十歳である。精神的にはまだまだ少年少女である二人であるが、その実人間の高校生たちが知り得ぬ時代の事を知っているのもまた事実だった。

 実際に、穂村が昔のダイヤル通信の事などを言及した時でさえ、ジェネレーションギャップというのを感じるとコメントを貰う位なのだから。

 そんな風に考えているうちに、ある一つのコメントがすうっと流れてきた。


『通りすがり:何か仕込み臭い割にはそれほど怖くないし、何か期待外れ』


 通りすがりという匿名の書き込みに、穂村は思わず硬直してしまった。配信ではユッキー☆とかトリニキとかきゅうびとかユッキー☆などと言った、穂村に割合友好的な視聴者が暖かく優しいコメントを送る事がほとんどだった。ネガティヴな意見を受け止めるのも発信者の定め。そう思っていたはずなのに、穂村はショックを受けてしまっていたのだ。

 ところが、穂村が硬直している間にもコメント欄は湧き上がっていた。


『トリニキ:お前ここ初めてか~(煽り)』

『隙間女:あかん、こんな人見たら分からせたくなっちゃう……』

『絵描きつね:隙間女ネキの分からせは洒落にならないからNG』

『きゅうび:あやかし学園を視聴して、どうぞ』

『見習いアトラ:ついでにアトラも購読して、どうぞ』

『りんりんどー:しれっと宣伝している人がいるんですがこれは……』


 仲間たちのコメントで少しだけ元気を取り戻した穂村は、次なるお便りを読む決意を固めたのだった。


「あはははは。もしかしたら、一通目も二通目もちょっと怪奇色が少なかったので、それで怪談話かなって思われた方もいらっしゃったのかもしれませんね。

 ですが、次に紹介するお話からは、きちんと怪奇現象が発生しておりますので、どうぞお楽しみに!」


『ユッキー☆:やっぱり、ワイがスカイフィッシュと間違えられて狙撃された話の方が良かったんやろか』

『きゅうび:ユッキー☆君がスカイフィッシュって雷獣の概念こわれる』

『隠神刑部:雷獣も昔はUMA扱いだし多少はね?』

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る