恐怖? 読者投稿怖い話 その①
「キメラフレイムの謎とき動画」というテロップの後に、画面下部に二体のアバターが出てきた。黒塗りの鱗を生やしたレッサーパンダと可愛くデザインされたアナグマという、どちらも直立歩行するケモノである。レッサーパンダの方がキメラフレイムこと穂村であり、アナグマの方はサニーことミハルである。
二人は揃って画面の向こう側に手を振り、挨拶を始めた。
「皆様こんばんは~ 今宵も『キメラフレイムの謎とき動画』の時間がやってまいりました。今回は特別編としまして、視聴者の皆様から頂いた怪談話を紹介いたします」
『ユッキー☆:生きがいキタコレ \600』
『オカルト博士:怪談話回にワクテカが止まらん』
『見習いアトラ:もはや職業病やな』
「このところ猛暑を通り越して危険な暑さが続いているって報道されていますものね。昔から夏の暑さは怪談で乗り切るという伝統があったのに則り、今回皆様から恐怖体験談を募りました」
「そうそう。サニーの言う通り、このところずっと暑いですからね。視聴者の皆様は大丈夫ですか?」
『きゅうび:いやーキツいっす(素)』
『絵描きつね:ぬわああああん疲れたもおおおおん』
『トリニキ:ビールビール! 冷えてるか~ \300』
『ネッコマター:バッチェ冷えてますよ~』
『だいてんぐ:こいつらいつも酒飲んでんな』
『きゅうび:タバコはまだないから健全でしょ(小並感)』
『ユッキー☆:だいてんぐニキだって飲んでるくせに……』
「夏の暑さの話から流れるようにビールの話になってるんですがこれは……」
「でも! 私たち子供だから飲めませ~ん!」
某教育番組に出てくるペンギンの兄弟よろしく、サニーとキメラフレイムはそっぽを向くモーションを取った。特定の分野では大人顔負けとも言われる知識等を披露するキメラフレイムであるが、あくまでも子供妖怪であるという設定なのだ。実際に穂村たちは子供妖怪である。
それに穂村たちの兄である雪羽は、お酒絡みのトラブルを起こして処罰された過去を持つ。そう言う意味でも、穂村たちにはお酒の話題は鬼門だった。
「それじゃあそろそろ本題に移りたいと思うのですが……怪談話がメインですので、視聴者の皆様も無理をなさらないでくださいね。怖いと思ったら離脱していただいても大丈夫です」
『見習いアトラ:きちんと視聴者に配慮する配信主の鑑やな』
『オカルト博士:視聴者投稿の怖い話は怖くない定期』
『りんりんどー:オカルトニキの洞察力が鋭い』
『通りすがり:妖怪が怪談話を語るって十分ホラーじゃね?』
『ラス子:それがここでの楽しみ方なのだ!』
『きゅうび:ラス子ネキキャラ作ってる……作ってない?』
「兄さんやっぱりいつもよりも視聴者が多いわね。やっぱりみんな、怖い話に興味があるのよ」
『トリニキ:怖い話を聞いた時には脳内物質が分泌されて恐怖と共に快感も感じるって、ボーっとしている大人を叱る五歳児の番組でやってたゾ』
『月白五尾:トリニキちゃん博識やな』
『隙間女:うちの後輩より研究者らしいんだよなぁ……』
『きゅうび:トリニキさんはそっちが専門だから多少はね?』
「とはいえご安心ください。今回のお話は、主に視聴者の皆様から頂いた怖い話をメインで進めますので。まぁ怖い話には変わりありませんが、心霊現象的な怖い話であるとは限りませんのであしからず。あとガチでヤバい話は当局の方で弾いていますので」
「そうそう。いの一番に来た投稿がくねくね
「え、そこまで言っちゃう……!」
くねくねの件まであっさりと言及するミハルに対し、穂村は割と素で驚きの色を見せた。くねくねという怪異については穂村も彼なりに警戒していたのだ。ガチ怪異案件であるから二人の間の秘密にすればいいと穂村は思っていた。
まぁ、ミハルにはその事をはっきりと伝えていなかった穂村も悪いのだが。
「サニーちゃん。くねくねとかいかにもな怪異の話なんかしたら、それこそ怖がって……」
『ユッキー☆ くねくねの話kwsk キメラ君にちょっかいをかけたんなら殺らなくちゃ。きゅうび君も連れて逝くからさ』
『きゅうび:やだ小生やだ! くねくねとかガチ怪異じゃん!』
『見習いアトラ:きゅうび君迫真の拒絶草』
『ネッコマター:ガチ怪異ってブーメラン直撃なんだよなぁ』
『月白五尾:幽世に来た時はカッコ良かったのに』
『オカルト博士:あの子は仔狐の頃からホラーが苦手だからしゃーない』
『絵描きつね:俺もくねくねを見て発狂したからしゃーない』
『しろいきゅうび:不死身の邪神だったからすぐ復活してたけど』
「兄さん、皆全く怖がってないみたいだけど」
「むしろ迎撃する気満々なのが若干一名いるんですがこれは……」
視聴者たちが怖がるのではないかと懸念していた穂村とミハルであるが、実際に繰り広げられたのは予想の斜め上を行く展開だったのだ。穂村たちに害しようとしたくねくねの討伐にノリノリなのが雪羽である事は言うまでもない。
だが絵描きつねことラヰカが発狂したというコメントはいささか不穏だった。最強の邪神であったとしても、くねくねに会えば発狂は免れないのか、と。であれば源吾郎が怖がるのも怖がりだからという訳では無さそうだ、と。
「ユッキー☆さん。非常に心強いコメントありがとうございました。ですが――」
危険なので迎撃はやめた方が良い。穂村がそう言おうとしたまさにその時、コメントがぽつっと寄せられた。
『隙間女:私がそのくねくねとOHANASHIしましょうか?』
『きゅうび:えぇ……(困惑)』
『見習いアトラ:OHANASHIってガチでヤバいやつやん(くねくねが)』
『りんりんどー:神話生物vs怪異のドリームマッチかな?』
『絵描きつね:数分後、隙間女ネキに捕食されるくねくねの姿が……』
『トリニキ:くねくねが気の毒に思えてきたわ』
「え、隙間女さん。僕に投稿してきたくねくねをどうにかして下さるんですか……? ですが、相手は見たものを発狂させるという事で定評がある訳ですし……」
『隙間女:そう言う相手とは相性が良いので無問題です』
『だいてんぐ:そう言う訳だから、キメラ君にちょっかいを掛けたくねくねは彼女に平らげて貰ったら良いんじゃないかな。彼女なら、都市伝説の怪異など敵のうちに入らないからね \2000』
「だいてんぐ様までそんな事を仰るとは……!」
『オカルト博士:くねくねを平らげるとかっていうパワーワードが爆誕してしまった』
『隠神刑部:くねくね君も運が悪かったな』
『通りすがり:隙間女ってそんなにヤバいん?』
『トリニキ:そらそうよ』
『絵描きつね:邪神の俺もびっくりの強さだったわ』
穂村に謎メールを送り付けたくねくねが、すきま女のサカイスミコによって討伐されるかもしれない。こうした事柄は穂村のあずかり知らぬ所で進んでいるかのような物だった。
サカイスミコ女史の事は穂村も知っている。雪羽の職場の上司なのだ。すきま女という、妖怪というにも異質な存在ではあるものの、強さや妖柄は信頼できる存在である事には変わりはない。
そんな事を思っていると、またしてもコメントが添えられる。
『だいてんぐ:きゅうび君もユッキー君も折角だから彼女に同行したまえ。君らも勉強になるだろうし、何よりキメラフレイム君も喜ぶだろうからね』
『ユッキー☆:やったぜ』
『きゅうび:アッハイ解りました』
「あ、結局ユッキー☆さんたちもくねくね退治に参加なさるんですね!」
「兄さんちょっと声が上ずってるよ」
ミハルに指摘された穂村であるが、嬉しい事には変わりはない。恥じたりする必要は無いだろうとさえ思っていた。
「実を言えばさ、あわよくば六花姐さんに会えるかなって思っていたからさ」
『トリニキ:い つ も の』
『絵描きつね:それでこそ六花ちゃん推しやな』
『ネッコマター:君、別の動画でも六花ちゃんについて熱く語ってたでしょ』
『ユッキー☆:よーし、キメラ君のためにお兄ちゃん、いくらでもセクシーショット連発しちゃうぞー』
『きゅうび:イメージを損ねるような行為は禁止されています(圧)』
『月白五尾:きゅうび君ガチトーンで草』
『見習いアトラ:文字通りのブロマンスやないか』
『だいてんぐ:変化しなくて良いから(良心)』
「あーっと。またしても六花ちゃんネタに走りそうですが、そろそろ視聴者のお便りコーナーに進みましょ。時間も押してきてますし」
「あ、確かに」
気の抜けた声を上げつつも、穂村はあらかじめ貰っていたお便りに目を通したのだった。
恐怖の怪談コーナーは、ここからが本番なのだ。前座も前座で何かと濃ゆい展開ではあったけれど。
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