邪神様のお悩み相談コーナー:後編【クロスオーバー】
夜葉のアドバイスも終わり、しばし沈静化していたコメント欄もまたぞろ活気を取り戻した。ラヰカはそれを確認すると、お便りの一つを取り上げる事にした。
「さて、そろそろ時間も押してきていますので、ゲストの相談はこれで最後に致しましょう。もちろん、神使の皆から貰っている相談も、その後紹介しますんで。
それでは幽世ネーム・スキマ女子さんからのお便りです!
『ラヰカさんいつもお仕事お疲れ様です。仕事、職場についてのご相談ですが大丈夫でしょうか。ここ数年ばかり、上司が私に対して期待をかけているという事を露骨にアピールしてくるのです。
元々私は若手社員として、優秀な上司や先輩たちの許でひっそりとマイペースに仕事をこなしておりました。それが数年前に二人の後輩が入った事で一変してしまったのです。後輩たちはどちらも優秀で、上層部からは幹部候補生として将来を嘱望されています。しかもどちらも大妖怪の子孫だったりします。幸いな事に二人とも私の事を先輩であると認めてくれているのですが……上司が私に対して向上心や野心を見せるようにと言うようになったのです。
もちろん上司も後輩二人の教育に携わっています。むしろ二人を教育しているからこそそう言う考えが浮かんできたのだと思います。
ラヰカさん。そんな上司の言葉をのらりくらりとかわす為の方法を教えてくださいませ』だ、そうです……」
相談文を読み上げたラヰカは、しばし夜葉や竜胆と視線を交わしていた。もしかしなくてもこの度の相談文はサカイスミコである。源吾郎や雪羽の先輩に当たり、のみならず現在は研究センターの主任研究員ないし係長職であるはずだ。
『きゅうび:優秀な後輩って誰やろうな(すっとぼけ)』
『隠神刑部:中間管理職の悲哀がエグイ……』
『トリニキ:所詮は縁故入社だろ! いい加減にしろ!』
きゅうびやyukihaのすっとぼけたようなコメントを眺めながら、ラヰカは思わずうなってしまった。すきま女のサカイスミコの事はラヰカも知っている。源吾郎たちではないにしろ、二度ばかり実際に会った事があるからだ。
彼女に期待を寄せているのは大天狗の萩尾丸であり、その事に彼女は当惑しているのかもしれない。だがそれでも、彼女は相当な、いやとんでもない才能の持ち主なのだ。忖度なしにラヰカはそう思っていた。
源吾郎たちが幽世を訪問した際、彼女は引率兼護衛としての役目を果たしたではないか。何より彼女は空間転移の術を行使し、更には魍魎を捕食する芸当までやってのけるのだ。すきま女という種族故の事なのかもしれないが、ラヰカたち神使は彼女もまた実力者であると見做していた。いつだったか、椿姫などはあの能力は便利だと言っていた訳だし。
「これは難しい相談ですね……実を言うと、上司の方がスキマ女子さんに期待をかけている姿は容易に浮かんできますし」
相談に対して白旗を上げたのか? コメント欄はまたにわかに活気づく。
萩尾丸が部下ないし後輩であるサカイスミコに期待を寄せている所は容易に想像できる。大天狗という種族上、尊大で尚且つ教育好きという気質を持ち合わせているのだろう。ヤンチャだった雪羽を教育し、真人間ならぬ真妖怪に更生させた実績もある訳だし。
「ぶっちゃけスキマ女子さんも優秀なお方ですもんね。そしてかなり真面目な方なんだなって事は相談文から感じました。まぁ……上司だろうと他妖だし、他妖の目を気にしなくても自由になっても良いと思うんだけどね」
そこまで言ってから、ラヰカは舌を出して言い足した。
「とはいえ、俺みたいにあんまり好き放題やってたらえらい事になるけれど!」
『しろいきゅうび:ラヰカはフリーダム過ぎる定期』
『サンダー:こんなのが武闘派神使の筆頭なのか(呆れ)』
『おもちもちにび:ラヰカはよくぼうにちゅうじつ』
『きゅうび:上司の目を気にせず自由に振舞うとかワイには無理(血涙)』
『yukiha:それな(ガクブル)』
「それはそうとスキマ女子さん。幽世に遊びに来るときは、くれぐれも食べ過ぎに注意してね。折角のお客様が消化不良を起こしてダウンしちゃうと気の毒だから」
流れてきたコメントの合間を縫って、夜葉はそう言って微笑む。幽世でのサカイさんの大好物は魍魎だもんなぁ……ラヰカと竜胆は無言のまま目配せしていたのだった。
※
「それではここからは神使たちから寄せられた相談にじゃんじゃん答えていきます。まずはしろいきゅうびさんですね。
『尻尾が酒臭いと子供たちに言われてしまいます。飲酒を控えれば酒の匂いが抜ける事は解っているのですがやめられません。どうしてお酒は美味しいのですか?』
そりゃあまぁ夜ごと樽飲みしてたら酒臭くもなると思うけどなぁ……それにしても、本当に何でお酒って美味しいんだろうね?」
『ネッコマター:酒カスの模範解答やな』
『トリニキ:やっぱこう、アルコールに脳が反応しているんやろうな』
『月白五尾:事あるごとに飲みだすからね……』
「ではお次はゆきおんなさんからです。
『晴れて新婚生活を送っているのですが、愛する夫のために手料理を作れないのがもどかしいです。料理を作ろうとすると、夫や夫の家族から止められてしまいます。どうすれば良いでしょうか』……ゆきおんなさん。これから幽世も暑くなりますんで、熱くなった土地を適温に保つ事を考えて頂ければ大丈夫です。旦那だって料理が出来るんで、ね?
そしてお次はりんりんどーさん……いや竜胆、お前だな?」
見知った名前(全てそうなのだが)を見つけたラヰカは、思わず隣に座る竜胆に視線を向けた。少し生意気な、拗ねたような眼差しでもって竜胆はそれでも頷いた。
「兄さんに相談しても打開できないかもしれないけれど、それでも相談したかったからさ」
『アトラ:辛辣すぎて草』
『サンダー:むしろこれまでの相談がきちんと回答できていたのが奇跡』
「とりあえず読み上げていきましょう。
『事あるごとに兄がメス男子だとか女体化を押し進めてきます。一体どうすれば良いでしょうか』
やっぱりそう言うと思ってたよ。でも竜胆。あんたは美形なんだからあきらめろ。或いはきゅうび君たちみたいに女体化の楽しさに目覚めろよ、な。あの二人は優しいから、その手の事もきちんと教えてくれるし」
『燈籠真王:予測回避不可避』
『きゅうび:女体化の無理強いは駄目、ゼッタイ』
『アトラ:自分が女体化している事にはツッコミを入れないのか(困惑)』
『キメラフレイム:まぁ妖狐って妖艶な美女ってイメージがありますし……』
『きゅうび:※男です』
『yukiha:むしろワイはまだ初心者なんだけどなぁ……』
「兄さんってばきゅうびさんたちも巻き込んじゃって……きゅうびさんたちだって戸惑ってるんじゃあないですか?」
「それだったら光希君に頼れば良いじゃねぇか。あの子も女の子顔負けの美形だぜ」
分社に勤める雷獣の少年を思い出しながら、ラヰカは竜胆をからかった。大瀧蓮は狼系のワイルドな雷獣であるが、光希はハクビシンベースだからなのか、何処となく愛嬌のある可愛らしい面立ちの少年なのだ。
ラヰカの弟分に当たる雪羽も猫やハクビシンに似た姿であるわけだから、案外彼とも馬が合うかもしれない。実際に会う事があるのかどうかは別として、ラヰカはそんな事を思うのだった。
※
「えーとそれでは次の相談は……」
まだ残っている封筒を手に取ろうとしたその時、ラヰカの手許で異変が発生した。なんと、便箋の一つがまばゆい光を放ちだしたのだ。
『トリニキ:うおっまぶし』
『月白五尾:これもラヰカの演出?』
椿姫が演出であるのかと訝っているが、こればかりは演出ではない。本当に、何の前触れもなくラヰカの手許で便箋が発光し始めたのだ。竜胆はもちろんの事、夜葉でさえも驚いて目を丸くしている。茶目っ気満載の夜葉であるが、彼女の悪戯ではない事は明らかだった。
「演出じゃねぇ……何なんだこいつは。俺に読めって事なのか?」
読まないといけないだろう。そう思って便箋を手に取ると、怪現象は収まった。すなわち謎の光が消えたのだ。
振るえる指先で、ラヰカはその便箋を開き始めていた。便箋にはこれ見よがしにあるマークが施されていた。常闇様の加護がある
無論この時点で誰の便箋かは解ってしまった。だがここで止まる事は出来ない。
「は、はい……これが最後の相談になりますね。か、幽世ネーム・太陽神様……からのお便りです。
『親愛なる神闇道の邪神ちゃんに相談があります。私には可愛い妹がいるのですが、結構前に仲違いをしてしまいまして、それ以来ずっと妹が塩対応なのでとても寂しいです。ど、どうすれば可愛い妹の、や、闇ちゃんと仲直りできる、でしょうか……』」
つっかえつっかえお便りを読み上げたラヰカは、すぐには返答する事が出来なかった。姉妹喧嘩したから仲直りしたい。相談文のアウトラインはこのような物である。普通の妖怪がしたためたものならば、可愛らしい相談と言えるだろう。
その相談の書き手が、
「ま、まぁその……妹さんはまだ眠っている訳だからさ、目覚めるまでにまだまだ猶予はあるからね。その時に妹さんの気も変わっているかもしれないし、そこを気長に待ちましょうかね」
「私もそれで良いと思うわ。常闇様の事だから、すぐには目覚める事も無いでしょうし」
しどろもどろしたラヰカの言葉に、夜葉も平然とした様子で応じている。あくまでも一妖怪としての意見を彼女は口にしたのだ。実際には話題の主である常闇様の分霊であるにもかかわらず、だ。
というか陽之慧様も陽之慧様で先だって夜葉やラヰカたちに接触したばかりだから色々知っているはずなのに。全くもって創造神姉妹の戯れは大変な物だぜ……振り回される側の労苦を感じながらも、ラヰカは動画のシメに入った。
「そんな訳で、皆様いかがだったでしょうか? それでは次回の動画まで、コン・コャージュ!」
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