邪神様のお悩み相談コーナー:中編【クロスオーバー】

「さてお次はですね、お悩み相談では無くて俺に対するリクエストですが、似たような内容が三件ありますのでまとめて読み上げますね。

 まずはトリニキちゃんから『ラヰカニキとオフ会がしたいです』

 お次はキメラフレイムさん『僕も動画配信を始めましたので、いつかラヰカさんとコラボをしたいと思っております。ネットドラマのあやかし学園が面白かったので、その考察で盛り上がれたらなぁと思ってます』

 最後にアトラさん『幽世に取材にみたいなぁって思いました』

……見てください視聴者の皆さん! 俺に会いたいってヒトが結構いるんですよ!」

『月白五尾:やらせちゃうの?』

『すねこすり:予想以上に熱烈で草』

『yukiha:何なら僕もオフ会に混ざりたいまであるんでマジです』

『きゅうび:アトラさんの誤字はマズいですよ!』


 お悩み相談とは異なる要望を前にラヰカは早速機嫌を良くしていた。彼らが会いたがっているのは本心であると解ったためである。

 とはいえ、ラヰカが単に喜んでいるだけでは配信は進まない。


「そうですね、オフ会に関しましては別途考えましょうか。もちろんこの邪神、トリニキちゃんたちのいる世界にも出張可能ですからね!」

『きゅうび:やったぜ』

『ネッコマタ―:邪神が別世界に出張ってホラーでは?』

『おもちもちにび:今回はつれていってください(圧)』

『だいてんぐ:這い寄る混沌みたいなものでしょうね』

「ちなみにアトラさんは幽世への取材をご希望なさっているみたいですが、残念ながらそのご要望にはお答えできません。何のかんの言いつつも、幽世は危険な場所だから、ね」

「そうそう。配信では面白おかしい場所って感じになっちゃってるけれど、元々は彷徨う魂が流れ着く場所だものね」

「夜葉さんの言う通りですし、しかも魍魎もうりょうとかもいますからね」


 一瞬だけガチトーンになったラヰカの言葉に、夜葉と竜胆は素直に補足説明を付け加えるだけだった。死せる魂、それも非業の死を遂げた魂が流れ着く幽世である。運命を受け入れて第二の生を謳歌する者たちもいる半面、負の感情に憑かれて魍魎に成り下がる者も大勢いるのだ。

 源吾郎や雪羽のようにある程度の妖力と自衛手段を持つ妖怪ならばいざ知らず、無力な人間が遊びに行くには幽世は危険すぎる。それがラヰカの考えだった。アトラこと賀茂朱里は陰陽師の子孫と言うだけの、単なる人間に過ぎないのだから。


「そうですね。このラヰカとのオフ会を希望する方は、コメント欄に一報下さいませ! ある程度コメントが貯まったら日時とかすり合わせようと思っています!」


 ラヰカの発言に、にわかにコメント欄が沸き立った。あからさまに興奮しているのはトリニキやアトラなどと言った外様の面々である。やはりと言うかなんというか、きゅうびとyukihaはオフ会への参加を強く希望していた。

 彼らの上司や先輩に当たる妖怪たちの反応もまた興味深いものである。特にだいてんぐこと萩尾丸などは、オフ会の会場設営の打診を行ってきたのだから。


「さて良い感じに盛り上がって来たので、引き続きお悩み相談に映りましょう。お次は幽世ネーム・ユッキー☆さんからのお便りです。

『ラヰカさんこんにちは! 女子変化・女体化の方向性の違いで友達と度々もめるようになりました。

 その友人は僕に女子変化を強要する事は幸いな事にありません。ですが、妖生の半分近くを女子変化に費やしていたという事を自慢に思っているのか、僕の女子変化についてあれこれ口出しをしてくるのがどうしても気になってしまうのです。

 僕も一時は友人の言葉に従って中身まで女の子になりきろうとした事もあります。ですが、変化を解いて我に返ってみると『俺は何をやっていたんだ……』と言う虚無感に襲われてしまいました。

 ラヰカさんも女体化に造詣が深いようですが、僕に何かアドバイスを頂けないでしょうか。ついでに友達の変態ナレギツネ君を一喝してくれれば嬉しいです』

 との事ですね」

『ネッコマター:女体化の方向性とかいうパワーワードは草』

『トリニキ:こいつらいつも女体化してんな』

『アトラ:幽世ネームの意味とは(哲学)』

『きゅうび:俺が変態だったら君はドスケベだってそれ一番言われてるから』

『隠神刑部:ラヰカさんが返答したらややこしい事になりそう』


 幽世ネームってやはり意味をなしてないよな……賀茂朱里ことアトラのコメントにはラヰカも同意だった。先程のナレギツネはきゅうびこと源吾郎の変名であるが、今回のユッキー☆はyukihaこと雪羽の変名である。いや、変名にすらなっていない事は言うまでもない。既に誰か特定されている訳だし。

 それにしても、雪羽が女子変化の事について悩んでいるとは。ラヰカは僅かに違和感を覚えつつも相談に応じようとした。その脳裏には梅園六花の姿がすぐに浮き上がってきた。


「単刀直入に言いますと、六花ちゃんの事は妹分として推してます。なのでその……ユッキー☆さんには今まで通り六花ちゃんとして活躍してほしいなと思っています。何となれば、もっといろんな六花ちゃんの姿が見てみたいって言うのが本音ですね」

「アドバイスじゃなくて兄さんの願望がダダ漏れになってるよ」

「まぁ確かに……あの雷獣ちゃんがラヰカの好みに合ってるって事は私も知ってるけれど」


 ラヰカの言葉に竜胆も夜葉も呆れたように応じているではないか。しかしそれでも、六花ちゃんがラヰカの好みの雷獣娘(♂)である事には変わりないのだから致し方ない。


『キメラフレイム:僕も六花姐さんは好きですよ!』

『yukiha:お、おぅ……』

『トリニキ:六花ちゃんはグラドルみたいだから男ウケがええんやろ(偏見)』

『アトラ:それな』

「何か俺以外にも六花ちゃんが好きだって視聴者のコメントが入っておりますね。ともあれユッキー☆さん。君には君のスタイルがあると思うからさ、それを崩さずにマイペースに女子変化ライフを楽しんだら良いからね。

 お友達はあれこれユッキー☆さんに言っちゃう事があるのかもしれないけれど、別にそのお友達のスタイルを完全に真似しなくても良いから、さ」


 言いながら、ラヰカは今度は源吾郎の事について考えを巡らせていた。相談文にある友達が源吾郎である事は言うまでもない。きゅうびもコメントの中でそれを半ば認めていた訳であるし。

 源吾郎の女子変化が、見た目のみならずその挙動まで精密に行われている事はラヰカも知っていた。元より源吾郎は四尾を具える程の妖力の持ち主であり、その辺の野狐とは実力は一線を画している。しかも変化術は彼が最も得意とする技なのだから。

 また、源吾郎は学生時代演劇部に所属し活躍していたという。学生の部活動と言えども、演劇そのものについての知識や自論を持ち合わせてもいるのだ。

 だからこそ、少女の姿になっただけの梅園六花の振る舞いについて、源吾郎も思う所があるのだろう。そんな風にラヰカは考えていたのだ。

 もっともラヰカとしては、おのれの素を自然のままにさらけ出す六花のスタイルと、幾重もの研鑽と推察によって優美な姿を演じ抜く京子のスタイルのどちらが優れているかジャッジするつもりはなかった。どちらも異なる魅力を持ち合わせているのだから。


「君には君の良さがあるって事で、これからも堂々と女子変化ライフを送って欲しいと思います! 何ならうちの竜胆君もどんどん女の子になってもらおうと思ってるんでね」

『がしゃどくろ:やっぱりこの流れか』

『隙間女:ラヰカさんは女の子が大好きですからね』

『トリニキ:yukiha君女の子説良いゾ~』

『キメラフレイム:六花姐さんの姿って、僕のが見たら白目剥いて喜ぶんじゃないかな』

『yukiha:それは面白そうやな(にっこり)』

『おもちもちにび:おいろけもふもふの座はわたさない!』


 ラヰカが竜胆を女体化させる! というお決まりのフレーズを繰り出し、そこで噴出するコメント達を、しばしの間流れるに任せていた。次の相談に進もうかと思った丁度その時、夜葉から念話が届いたのだった。

――ラヰカ。次の相談に進むのは少し待ってくれるかしら? 雷園寺君へのアドバイスは私の方で入れたいから

――お、おう。構わないよ。アドバイスを入れる位なら、別に念話を使わなくても良いのに

 夜葉に念話で応じつつも、不審に思ったラヰカは僅かに柳眉を寄せた。夜葉やラヰカクラスの存在であれば、念話を使う事も容易い物ではある。しかし、雪羽に対してアドバイスを入れる事を告げるために使うのはいささか妙なものだった。

 そんな回りくどい事をせずとも、先程ツッコミを入れたように口を開けばそれで済む事なのだから。

 ラヰカだって解っているんでしょ? 念話でもって夜葉がしとやかに笑った。

――確かに雷園寺君は、女の子に変化する事について島崎君と意見が食い違う事で思う所があるのかもしれない。だけど、それってわざわざ取り上げる程の悩みなのかしら?

 ああ、確かに。ラヰカは念話を使う事を忘れ、心の中で頷いていた。夜葉の事だから、こうした考えもきっと読み取っているに違いない。

――見ての通り、匿名や幽世ネームを使っていると言えども、大体誰の相談なのか解っちゃうでしょ。ましてや実の弟も視聴している訳だし……だから当たり障りのない悩みを出すほかなかったのよ

――そうだな。あいつの本当の悩みは……

 ラヰカは途中で念話を打ち切った。雪羽が悩んでいる事をラヰカは知っていた。そしてこのお悩み相談で打ち明ける事が出来ない理由についても。


「ユッキー☆さん。お話を聞いている限り、あなたとそのお友達とはとっても仲が良いんだろうなって事は思いました。ううん違うわね。あなたとお友達は、鏡合わせのように違っていながらも、だからこそ仲が良いって事は知ってるわ。前に会った時もそうだったもの」


 夜葉が話し始めるや否や、流れていたコメントがにわかに鎮静化した。今やコメントを流すのはアトラやトリニキ位である。そうした挙動を見せるのは、二人が夜葉の事をラヰカたちに近しい妖怪であると無邪気に思っているからだろう。


「折角いいお友達が傍にいるんだから、ユッキー☆さんも、何か行き詰まったりしんどい事があったりしたら、そのお友達に頼ってみるのも良いかもしれないわね。

 もちろん、逆にユッキー☆さんがお友達に頼られる事もあるかもしれないけれど……とまぁ、こんな感じかしら」

「そんな訳でユッキー☆さん、如何でしょうか」


 それにしても、お悩み相談というのも中々に盛り上がる物だと、ラヰカは内心驚いてもいた。今回集まったお便りは全て紹介するとしても、それ以降も度々お便りを集めるのも面白かろうと思い始めていたのだ。

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