エージェント・シラユキ――ブラックサンタの野望を打ち砕け

導入:美少女妖怪(♂)はエージェント

《ブラックサンタ:ドイツに伝わるサンタクロースの一種。クリスマスの夜に悪い子を懲らしめるとされている。ジャガイモや石炭などをプレゼントする、直截的に子供を袋に詰めて連行するとも伝わっている》


 雉鶏精一派の第六幹部である萩尾丸が、妖材育成や妖材派遣を生業にしている事は有名な話である。賃金と時間を決めた上で、配下の妖怪を依頼主の許に貸し出す「レンタル妖怪業」を行っている事もまた、多くの妖怪たちや人間の術者たちは知っていた。幅広い妖材・業種をカバーしている、萩尾丸の精力的な業績こそが知名度の高さを誇っていたのだろう。

 そんな萩尾丸の抱える商品の中に、その二匹の妖怪たちは含まれていた。見た目の特徴などから美少女妖怪などと呼ばれる事も多いが、要は雷獣と妖狐の二人組だったのだ。雷獣の名は梅園六花。妖狐――半妖であるとも伝わっているが――の名は宮坂京子である。

 この二人は概ねニコイチで指名が入る事が多かった。平素より姉妹のように仲が良い事もさることながら、得意分野がはっきりと分かれているのでバランスが良いのだ。物怖じせず、荒事も辞さない六花は主に前衛であり、用心深く、多くの術を駆使する京子は後衛やサポートに向かうと言った塩梅である。

 萩尾丸の正式な部下であるか否かも判然としないこの二人であるが、しかし地元の妖怪や術者たちからは有名だった。ちょっとした業務を嬉々として請け負う事、幼い下級妖怪ながらも頭角を現しそうな気配を見せている事が主な要因であろう。

 しかし――それでも六花と京子の真実を知る者は少なかった。梅園六花と宮坂京子と言う妖怪は、実の所雷園寺雪羽と島崎源吾郎の変化であり、実在する妖怪ではないという事を。

 確かに、雷園寺雪羽が雷獣である事、島崎源吾郎が妖狐の半妖である事は事実である。雪羽は雷獣の名家・雷園寺家の御曹司である。源吾郎に至っては、かの有名な大妖狐・玉藻御前の直系の曾孫だったのだ。

 彼らが――雪羽も源吾郎も男なのだ。性別も、性自認すらも――何故敢えて少女の姿に化身して、その上でレンタル妖怪業の商品となっているのか。その真相は、きっと彼らの胸の内にあるのだろう。


 これは、梅園六花と宮坂京子が、エージェントとして活動した記録の一幕である。

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